あとに撤回されることとなった、奇数が内燃機関、偶数がEVという、アウディの命名法則にともない車名が変わったA4の後継車。伝家の宝刀であるクワトロを搭載するセダンの主力モデルを借り出してみた。モータージャーナリストの高平高輝がリポートする。
ビジネスでは臨機応変が肝要
変化の激しいこのご時世ゆえに、アウディのモデルネーミングのことを朝令暮改というのはちょっと厳しすぎる。ご存知のようについ先日までアウディは、奇数は内燃機関車、偶数ナンバーはEVモデルに割り当てられると発表していたのだが、内燃機関のA6アバントが発表されたことでも分かるように、2026年以降の新型車はすべてEVにするとした方針とともにどうやら撤回されたようだ。当たり前のことだが、顧客がついてこなければ、どんな目標も意味がない。ビジネスでは臨機応変が肝要である。

昨年7月に本国発表されたA5は、これまでのA4とA5シリーズを統合した新型モデルである。ちょっとだけ復習しておくと、A4はそれ以前の「80」の後継モデルとして1994年に登場したアウディの基幹車種であり、2007年には派生モデルとしてA5が追加され、クーペとカブリオレ、5ドア・ハッチバックのスポーツバックまで幅広いラインナップを揃えていた。それらをすべてまとめた新型A5は、テールゲートを持つセダンとステーションワゴンのアバントのみ。社内呼称コードはB10というから、30年余り前の初代A4から数えて6世代目に当たる。


日本仕様のA5は2リッター4気筒ターボを積むA5TFSI(150ps)とその高出力版(204ps)を積むTFSIクワトロ、2リッターディーゼル・ターボのTDIクワトロ、そして3リッターV6ターボを積む高性能版S5で、それぞれにセダンとアバントが用意されている(さらにTFSIクワトロベースの150台限定のエディション・ワンもある)。ただし、このうちのTDIクワトロは遅れて追加されるという。今回の試乗車はガソリン150kW(204ps)ユニットを積むTFSIクワトロのSラインである。
乗り心地が明らかにソフト
A5はPPC(プレミアム・プラットフォーム・コンバスション)と呼ばれる新しいプラットフォームを採用しており(BEV用のPPEと対になる)、ボディの基本寸法は4835×1860×1455mm、ホイールベース2895mmというもので従来型と比べてホイールベースは70mm延長され、全幅もわずかに増えている。
先代のA6と同等というからもはや立派なDセグメントと言っていいサイズだ。
PPCは内燃機関用という名を持ちながらも電動化にも対応しており、TDIとS5には「MHEV Plus」と称する新たなマイルド・ハイブリッド・システムが搭載されている。MHEVとはいえ、従来からの48V駆動BAS(ベルト・オルタネーター・スターター)に加えて新たにPTG(パワートレイン・ジェネレーター)と称するモーター・ジェネレーターを装備したもので、18kW(24ps)と230Nmを生み出すPTGはトランスミッションのアウトプットシャフトに取り付けられ、モーターのみによる電動走行も可能、状況に応じて140km/hまで作動するという。

いっぽうTFSIクワトロは純エンジン車で、204ps(150kW)/4300- 6000rpm、340Nm/2000-4000rpmを生み出す。新たにVTG(可変ジオメトリー・ターボ)が採用されたが、ピークパワー追求タイプではなく(従来のA445TFSIクワトロは249ps/370Nmだった)、効率とレスポンス重視のようだ。デュアルクラッチ式自動MTの7段Sトロニックを介するクラッチ式AWDのクワトロ・システムはこれまで通りである。

小気味よく(0-100km/h加速は7.6秒)、しかも滑るようにスムーズに走る感覚はいかにもアウディだが、意外だったのはダンピングコントロールSスポーツ・サスペンション付きだったにもかかわらず(タイヤもオプションの19インチ)、乗り心地が明らかにソフトだったことだ。特にコンフォート・モードでは路面によっては上下動が収まらない場面もあったほど。ダイナミックにすればもちろん引き締まるが、ドライブセレクトによる各モードの設定がこれまで以上にメリハリが効いたものになったということかもしれない。それを除けば洗練そのもの、スポーティーよりもラグジュアリーというのがA5の第一印象である。
■アウディA5 TFSIクワトロ150kW
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4835×1860×1455mm
ホイールベース 2895mm
トレッド 前/後 1625/1615mm
車両重量(車検証記載前後軸重) 1800kg(前1020/後800kg)
エンジン形式 直列4気筒DOHC16Vターボ
総排気量 1984cc
ボア×ストローク 82.5×92.8mm
最高出力 エンジン 204ps/4300-6000rpm
最大トルク エンジン 340Nm/2000-4000rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション形式 前後 マルチリンク
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前後(取材車) 225/55R17(245/40R19 98Y)
車両価格(税込) 681万円
文=高平高輝 写真=望月浩彦
(ENGINE2025年6月号)