ポルシェへの批判
荒井 今回は素のカレラ、軽量化が図られたカレラT、カレラ・カブリオレ、そしてハイブリッド・モデルとなったGTSの4台を箱根に持ち込みました。
上田 ハイブリッドになるという噂は大分前からありました。その噂が出たとたん、中古の価格が上がったりして。

村上 僕はGTSの国際試乗会に行ったんだけど、プレゼンテーションの冒頭に、これまでにこんな意見が寄せられましたというのを見せられた。
高平 どんな意見?
村上 それはもう否定的なものです。“ハイブリッドの911なんて必要ない”とか、“バッテリーを積んで2t以上になるぞ”とか、“おやすみなさいポルシェ”とか。
上田 空冷から水冷になったときみたいですね。
高平 批判する人って最初から911なんか買わない人だと思うけどね。
村上 とはいえ、電動モーターを組み込むことに冷ややかな見方があったことは間違いがなくて、そのなかでポルシェがどういう答えを出すのかが注目されていた。

高平 で、結局電気モーターだけでは走行しない、言ってみればマイルド・ハイブリッドだった。それにしてはパワーがあるんだけど、電動走行には一切使ってないから、大きくCO2排出量は減ってない。いままでのカイエンやパナメーラのハイブリッドと決定的に違うのは電動走行がないこと。カイエンとパナメーラはモーターのみで25km以上走れるから、会社全体のCO2排出量をぐっと下げることができた。
村上 これまでポルシェが作ってきたハイブリッド・モデルはEハイブリッドというものだった。それに対してGTSはTハイブリッドと呼んでいる。TはターボのT。タービンのなかに小さな電気モーターが入っている。
高平 バッテリーの電圧はなんと400Vで容量は1.9kWhもある。それなのに電動走行させない。僕は何がしたかったんだろうと思った。
村上 国際試乗会で、どうして電動走行できるようにしなかったのか?って聞きました。このバッテリーだとわずか数キロしか走れないからだというのが返事だった。
高平 それでもモード燃費を測るときはすごく役立つと思うんだけど。
村上 環境方面への配慮よりも走りを重視したハイブリッド・モデルを911は選択したということ。ハイブリッド化する911への批判の声に対して、ポルシェからの回答がこういうものだった。
新井 容量1.9kWhのリチウムイオン・バッテリーをいままで12Vのバッテリーを乗せていたところに収めるというのはすごいですよね。
村上 大きさも重さもほぼ同じなんだって。ライトを点けたりするための12Vバッテリーはリア・シートの後ろに移した。

高平 タービンのなかに組み込まれたモーターのほかに、ギアボックス・ハウジングに統合されたモーターが走りをサポートしているわけだけど、こんなに複雑なシステムを1ミリもボディの大きさを変えずに収めているのはすごい。しかも重量増はたったの50kgでしょ。
村上 まあ重量7kgのリア・シートをオプションにしたりしているけれどね。
上田 997型から991型へと進化したときにホイールベースが伸びました。将来のハイブリッドを見込んでいたのかもしれません。

荒井 GTSをハイブリッド化するにあたり重量とシステムを収めるスペース確保には涙ぐましい努力があったんじゃないですか。
村上 それこそが最大のブレークスルー・ポイントだと思う。エンジンの上にECUコンバーターが載っているんだけど、もともとそんなスペースはない。電気モーターを入れることでタービンをひとつにし、さらに補器類のベルトがなくなったことでエンジン高を10cm下げた。
高平 それにしてもですよ、マイルド・ハイブリッドだったらほかのメーカーは48Vですよ。400Vにすると専用のファクトリー・スペースと専用の技術者が必要になって、安全に対する手順がガーンと上がる。
村上 400Vにするのは、サーキットを限界走行しているときでも、電気の出力と回生を瞬時に的確に行うためで、完全にレーシングカーの技術からきている。
高平 いや、だったら軽い方がいいんじゃない? ということになっちゃう。400Vというトゥーマッチなものをあえて採用するというのは、次のステージを見越したものなのかもしれない。