2025.07.03

CARS

背筋が寒くなるほどの瞬発力! V12搭載のアストンマーティンの旗艦、ヴァンキッシュに試乗

アストンマーティン・ヴァンキッシュ。最高出力は835ps/6500rpm、最大トルクは1000Nm/2500-5000rpm。

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値札が頭から薄れる

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乱高下する為替のせいか、ヴァンキッシュの日本での価格は非公開だという。ちなみに英国での価格はおよそ6000万円ほど。高額車には慣れているほうだけど、さすがに身が引き締まる。しかも最初に乗ったのは、混雑した都心の夜の、しかもひどい土砂降りの中だった。

独立したメーター・ナセルと水平基調の空調設備という基本デザインはDB12と共通だが、中央コンソールに段差のある造形はヴァンキッシュ独自。

DB12は2+2だがこちらは2座。

ウェット/GT/スポーツ/スポーツ+/インディヴィデュアルとあるモードのうち、デフォルトのGTで走り出す。ところが普段よく通る赤坂御所横の曲がりくねる坂道を過ぎる頃には、値札のことが頭から薄れてきた。身のこなしは鋭いが、とにかく操舵に対する反応が自然だ。車体は大きく鼻先はドーンと長く、前輪と着座位置の距離はこれまでのV12搭載アストンよりさらに遠くなったのに、車体は強固でフロント・タイヤの接地感もしっかりあるから、サイズがより小さく感じる。こんな悪条件下でも、狭い車線内を気負わず自在に操ることができる。舗装の継ぎ目を越えた時の挙動はかなり硬いが、サーキット走行でもしたのかエアが指定値よりかなり高めで、調整後はすぐしなやかさが戻った。

エンジン・ルームの横方向のブレースの太さはDB12の倍近い。

翌朝は曇り空。高速道路上では、高級サルーン並みの静けさと直進安定性も同居していることを確認。快適性は過去に乗ったどんなアストンより一枚も二枚も上手だ。V12エンジン自体も低回転域で静かな上、回り方がいっそう軽やかになり、クウォーっという特有のサウンドもさほど回さずとも引き出せる。音と連動しつつ回すほどに鋭さを増すかのような回転計の動きもたまらない。

でもその一方で、前走車を抜こうとする時など、ここぞ、という時の間髪入れない瞬発力には、正直背筋が寒くなった。これまでフロント・エンジン搭載の後輪駆動のクルマで、味わったことのない世界だ。新たに設けられたブースト圧を蓄積するリザーブ機能の恩恵だろう。



峠道でのハンドリングの印象は昨夜とほぼ同じで、リニアな上に、曲率が高くなっていっても懐はどこまでも深く、余裕で追従する。怖さより楽しさがほんの少しだけ上回っているような気もしてくる。でも、ゆめゆめ油断はできない。右足の動きに対するエンジンの鋭さと、加速そのものがとにかく半端ない。その度に後ろからググッとタイヤが軋む感触と音も、伝わってくる気がする。

走行モードも色々試そうと思っていたのだが、撮影後、またもやけっこうな雨に祟られてしまった。基本のGTは街中ではいいが高速域はやや挙動が大きく感じられ、スポーツのほうが全域で安心感が強かった。

帰路、日産GT-Rに乗る豪州からのトラベラーに英語で話しかけられた。近代のアストンはシルエットも顔つきも、名前すら似通っているけれど、彼は一瞬で「これはヴァンキッシュ?」と識別できたようだ。三代目は大胆なまでにテールの造形を変えたから、好きものならば一目瞭然なのだろう。マットの黒で塗られたシールドと呼ばれるパネルの部分は、まるで後方へ膨大なエネルギーを一気に発散する巨大ダクトにも見える。「グッド・ルッキン、グッド・カー」と僕らは互いにクルマを見て笑ったのだった。

ヴァンキッシュはこれまでのアストンマーティンの優雅さや走りの流儀は継ぎつつ、心臓部とスタイリングをも進化させ、オンリー・ワンの存在に昇華したと、僕は思う。

文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=神村 聖

■アストンマーティン・ヴァンキッシュ
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動  
全長×全幅×全高 4850×1980×1290mm  
ホイールベース 2885mm  
トレッド(前/後) 1680/1670mm  
車検証記載重量(前軸:後軸)  1950kg(990kg:960kg)  
エンジン形式 水冷V型12気筒DOHCターボ  
排気量 5204cc  
最高出力 835ps/6500rpm  
最大トルク 1000Nm/2500-5000rpm  
トランスミッション 8段AT  
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン+コイル  
サスペンション(後) マルチリンク+コイル  
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク  
タイヤ(前/後) 275/35ZR21/325/30ZR21  
車両本体価格 非公開

(ENGINE2025年7月号)

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