2025.06.27

CARS

ロールス・ロイスは後席に乗るクルマと言うのは過去の話だ! 史上最もパワフルなロールス、ブラック・バッジ・スペクターに試乗!!

ロールス・ロイス・ブラック・バッジ・スペクター。車両本体価格は5614万円。

全ての画像を見る

鬼面人を驚かせるものではない

さて、私が公道で乗った試乗車は、1980年代から90年代のクラブ・カルチャーからインスピレーションを得たという新色のヴェイパー・バイオレットというボディ・カラーを纏っていた。濃い紫のボディと、ブラックアウトされたグリルやモール、ドア・ハンドル、ホイールの組み合わせがなんともクールで、若い世代の圧倒的な支持を集めそうだ。

advertisement


完全な電気自動車だから、スタート・ボタンを押してもエンジン音はしない。そもそもがロールス・ロイスの12気筒エンジンは幽霊のように静かだが、それに輪をかけた静けさが室内を支配している。スペクターは間違いなく、ロールス・ロイス史上もっとも静かなクルマだろう。しかし、走り始めると、微かなロードノイズや風切り音、街のざわめきなど、運転するのに聞こえた方がいい必要最小限のノイズが外から入ってくる。この完全な静寂とは違う程よい静けさの演出こそが、ロールス・ロイスのクルマづくりの真骨頂のひとつだと思う。



動き出しはとにかくウルトラ・スムーズである。ブラック・バッジだからと言って、鬼面人を驚かすような激しい素振りを見せることは皆無だ。アクセレレーターを踏めば踏んだだけ、スーッと前に出てくれる感じで、とても運転し易い。しかし、ステアリング・フィールや足回りの感触は、以前運転したノーマルのスペクターよりも、より引き締められている感じがする。機械的にはなにも変更していないというが、パワーステアリングやダンパーのチューニングについては、かなり手が加えられているようだ。

それは高速道路から山道に入るとさらにハッキリと感じ取れるようになってきた。そのままのモードでも十分にゆるやかなコーナーを気持ち良く駆け抜けていくが、さらにインフィニティ・モードを使うと、ステアリングの重さもアクセレレーターのピックアップも足回りの硬さも増加し、作られた電子音も少し聞えてくるようになる。しかし、その変化は決して激しいものではない。あくまで、ほどよくスポーティ、いやダイナミックになるという感じで、本質的にスポーツカーのような走りを志向するものではないのだ。



さらにタイトな山道に入ると、さすがに前後にモーターを備え、床下に電池を敷きつめた3t近いボディを御するのは難しくなってくる。あくまでエレガントに走ることに徹した方が遥かに気持ちがいい。後ろからどこかのスポーツカーに煽られても、そんなことはどこ吹く風で、我が道を行く走りを変えないのが、このクルマの正しい走り方だと思った。

別人格の走りもできるクルマ

サーキットではスピリテッド・モードを試すだけでなく、スラロームを含めたスポーツ、いやダイナミック走行を楽しむことができた。山奥に位置するかなりアップダウンの激しいコースだったが、ブラック・バッジ・スペクターの巨大なパワー&トルクは3tの巨体を上り坂の直線でグングンと加速させていく。そのまま緩いコーナーに向けてステアリングを切り込んで行った時の程よいロール感が気持ちいい。スラロームでも思いの外、ノーズがしっかりと向きを変えてくれるのに舌を巻いた。

そして、スピリテッド・モードである。1075Nmのトルクとはどんなに激しいものかと身構えていたのだが、そこはロールス・ロイス。やはり鬼面人を驚かすようなものではなかった。ホイールをスピンさせることなくググッと前に進み出して、顔色ひとつ変えることなく前にボディを押し出していく感じだ。

果たして、ブラック・バッジ・スペクターのオーナーが本当にこんな走り方を楽しむかどうかはわからないけれど、こういう別人格の走り方もできるクルマであることが重要なのだと、ロールス・ロイスのエンジニアは強調していた。乗っていてずっと私が感じていたのは、非日常と日常の間をたゆたうような感覚だ。相手が妖怪だろうが物の怪だろうが、いつまでも乗り続けていたくなるような、不思議な気持ち良さがあった。

文=村上政(ENGINE編集部) 写真=ロールス・ロイス・モーターカーズ

■ロールス・ロイス・ブラック・バッジ・スペクター

駆動方式 前後2電気モーター4WD  
全長×全幅×全高 5490×2015×1575mm  
ホイールベース 3210mm  
車両重量 2900kg  
電気モーター形式 励磁同期式  
前モーター最高出力/最大トルク 258ps/305Nm  
後モーター最高出力/最大トルク 489ps/595Nm  
システム最高出力/最大トルク 659ps/1075Nm(スピリテッド・モード)  
バッテリー容量 102kWh(リチウム・イオン・バッテリー)  
航続可能距離 493~530km  
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/エアスプリング  
サスペンション(後) マルチリンク/エアスプリング  
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク  
タイヤ (前)255/40R23、(後)295/35ZR23  
車両本体価格 5614万円~

(ENGINE2025年6月号)

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement

advertisement

PICK UP

advertisement