アウディの電動SUVの第3弾として新たに仲間入りしたQ6 e-tron。ポルシェと共同開発した新たな電動専用プラットフォーム“PPE”を持つ初めてのQ6 e-tronは、どんな走りを見せてくれたのか。ENGINE編集部ムラヤマが試乗した。
ポルシェと共同開発
電動化に力を入れるアウディの電動SUV兄弟に加わった新型Q6eトロン。Q4とQ8の間に位置する新型の電動ミッドサイズSUVを、ついに日本の公道で試す機会を得た。
試乗を前に、都内のホテルで開かれた説明会で繰り返されたのは、Q6eトロンは、ポルシェと共同開発した新たなBEV専用プラットフォーム「PPE」(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)を用いたアウディ初のモデルであり、これまでの電動モデルとは全く異なる性質を持っているということだった。
その一つがデザインだ。Q6eトロンは、後輪駆動ベースであることを強調するかのように、従来モデルに比べ車両後端部にかけてボリューミーなプロポーションを持つ。リアドアからテールレンズにかけて流れるプレスラインや、リア・オーバーハングにまでグッと伸ばされたルーフが確かに印象的だ。試乗車は前後にモーターを持つクワトロで前後重量比は49:51だったけれど、リアの割合が多くなる後輪駆動モデルでは、トラクションを稼ぐ狙いもあるとか。

二つ目の肝は800Vの高電圧システムの採用にある。日本ではインフラが追いついていないものの270kWの超急速充電に対応するほか、すでに800Vを採用するeトロンGTに対しても、モーターの冷却システムを刷新することで温度上昇を大幅に低減。安定して高い性能を発揮できるようになったそうだ。
そして最後は頭脳面の進化だ。電子制御サスやADASなどを制御する5つの高性能コンピュータ(HCP)も新開発のもの。この頭脳群やサスペンション・システムなどは、後に開発された新型A5が初採用した内燃機関用の新プラットフォーム「PPC」にも受け継がれているそうで、アウディが目指す走りとデザインの基本的な考え方は、動力源や駆動方式に関係なく同じなのである。
自由自在な身のこなし
説明会が終わり、簡単なコクピット・ドリルを受けてから走り出す。センターまでひと続きの大型フル液晶メーターが斬新な内装も新世代アウディの象徴の一つだが、これを使いこなすには慣れが必要だと思った。
まずは雨の降る都内の街中と首都高を走る。力の入った説明を聞いて、どんな新しい乗り物なのだろうかと身構えていたけれど、Q6eトロンは、最新テクノロジーが詰まった新世代のEVであることを強く主張するタイプのクルマではなかったのだ。
普通に運転する限りでは、良く出来た静かな内燃機関車と同じように扱えるもので、何ら特別な演出が無いことに、私は何よりも嬉しくなった。細かな加減速を繰り返す場面でも、アクセル操作に対するパワーの出方はリニアかつ穏やかで、通常は約95%を回生で制動するというブレーキのフィーリングも良好。適度な手応えがある細身のステアリング・ホイールも路面の状況がよく分かるものだったから、すぐにクルマとの一体感を感じることができた。

翌朝には、東名高速を走り箱根の山を目指した。Q6eトロンのクワトロは、低負荷時には積極的に後輪駆動になるタイプだが、4輪が路面をがっちりと掴み、ドーンと突き進むロードホールディング性の高さは健在だ。それと同時に、細かな上下動や突き上げが相当抑えられていると感じたのは、高周波の入力に反応するサブバルブを持つ電子制御ダンパーが奏功しているからなのだろう。
しかし何より驚いたのは、ワインディングでの自由自在な身のこなしである。走行モードを「ダイナミック」に切り替えると、2.4トンの車重をものともせず、水を得た魚のごとくコーナーを駆け抜けていくのだ。姿勢変化も少なく、スポーティな走りにも十二分、応えてくれることが分かった。この重量バランスの良さと後輪駆動ベースからもたらされる走りは、特筆モノだと思った。
気づけば516kmも走っていた。エアコンも遠慮なく使い、山も高速も走り回ったトータル電費は4.4km/kWh。バッテリー容量は100kWhだから、少なく見積もっても一充電で400kmなら余裕だろう。街乗りから高速移動、スポーティな走りまでを高いレベルでこなせるQ6eトロンは、これからの電動プレミアムSUVの新たなスタンダードになるに違いない。私はそう確信した。

文=村山雄哉(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
■アウディQ6 e-tron クワトロ・アドバンスド
駆動方式 前後2モーター式4輪駆動
全長×全幅×全高 4770×1940×1695mm
ホイールベース 2895mm
車両重量(車検証) 2420kg(前軸1190kg+後軸1230kg)
トレッド(前/後) 1665mm/1645mm
モーター型式(前/後) 非同期モーター/永久磁石同期モーター
バッテリー容量 100kWh
一充電走行距離 644km(WLTCモード)
最高出力 285kW(387ps)
最大トルク(前/後) 275Nm/580Nm
トランスミッション 1段固定式
サスペンション(前後) マルチリンク+コイル
ブレーキ(前後) ディスク
タイヤサイズ(前・後) 255/50R20・285/45R20
車両本体価格(税込) 998万円
(ENGINE2025年8月号)