ポルシェが、新型「911カップ」を発表した。992後期型、いわゆる992.2仕様のカップ・カーは、従来の911“GT3”カップから、シンプルに911カップへと車名を変更した。
このカップ・カーのノウハウが市販車へもフィードバック
911カップは、ポルシェ・モービル1スーパー・カップや各国のカレラ・カップなどのワンメイク・レース参戦車両で、この新型は2026年シーズンから投入される。
エンジンは2022年登場の911 GT3カップと同じく4リットル自然吸気の水平対向6気筒だが、最高出力は10psアップの520psを発生する。
これは、市販モデルの911 GT3にも用いられる、改良型の独立スロットル・バルブや、バルブ開放時間を延長したカムシャフトなどを採用した結果だ。
また、中央に配置したスロットル・バルブは不要となり、エア・リストリクターの設置が可能になる。構造変更や出力向上にもかかわらず、サーキット走行100時間ごとというオーバーホールのタイミングは従来どおり。また、サーキットやシリーズごとの騒音規制に対応するため、排気系は3種類用意される。
トランスミッションは6段シーケンシャルで、従来より1枚多い焼結メタル４ディスクのレーシング・クラッチを組み合わせる。これにより、従来は6500rpmリミットだった発進時のエンジン回転数が引き上げられている。
エンジン自動再始動機構も導入され、アクシデントでストールした場合に、クラッチを踏み込むと即座に作動する。また、後続車へのアラートは、これまでのハザード・ライトから、ブレーキ・ライトの点滅に変更されている。
ブレーキも性能向上を実施。フロントには、厚みを32mmから35mmへアップした380mm径ディスクを装備し、冷却性能を高めて熱ダレを低減した。さらに、センター配置のウォーター・クーラーを荷室後部へ移動したことで、フロント・エンド中央からブレーキへダイレクトに冷却気を引き込めるようになった。また、ディスクのハット部分を縮小し、パッドをワイド化して、接触面積を拡大。長距離走行時の耐久性を高めている。
ABSはレース用のボッシュM5を標準装備してデータ処理能力が向上し、信号検出量が上乗せされた新型加速センサーに対応。さらに、2系統あるブレーキ系のどちらにリークが起きても、ドライバーに通知できる。また長距離レースにも耐えるよう、フルードのリザーバー容量が拡大された。
外装は、992.2世代のGT3を基本としたデザインで、ディテールも変更が施された。フロントのスポイラー・リップは3分割になり、破損時の交換はもちろん、運搬も容易になった。脱着可能なデイタイム・ライトも、同様のメリットが得られるうえ、衝突時には背後のラジエーターにダメージを与えない設計となった。
フェンダーに組み込まれたルーバーは、ホイール・ハウス内を通る気流を促し、フロント・アクスルにかかるダウンフォースを増加する。同じくダウンフォースを生むアンダー・ボディや、エア・フローを改善する前輪アーチ後方のターニング・ベーンも、とくに高速域で前輪のレスポンスを引き上げ、コーナーでのライン取りをより正確なものにしてくれる。
リア周りは全面改修され、スワンネック・タイプのウイングは角度調整がより簡単に。エンジン・カバーはリサイクル材のカーボン繊維と、バイオ由来のエポキシ・レジンを使用。この素材は、ドアをはじめボディ・ワークの大半にも使われているが、ほかのパーツを製造する際の切れ端を再利用することで、パーツ価格を抑えている。
コックピットは、新型のステアリング・ホイールが目を引く。ABSやトラクション・コントロールの調整ダイヤルを中央に配置し、スイッチは照明付きとするなど、使いやすさを追求した。ドア内側のクロス・バーにはクッション材を追加し、ドライバー保護性能を高めている。
センターのコントロール・パネルは、スイッチを2つ減らして８つに。下段右側のボタンは、ディスプレイに追加メニューを開くもので、ここからピット・スピードや排気マッピング、舵角などの設定を可能とすることで、ラップトップPCを接続して操作する必要をなくした。そのほか、空気圧モニターには温度表示を追加し、ラップ計測や車両位置追跡は、赤外線からGPSへ変更するなど、電装系にも改良が施された。
価格は、本体のみで26万9000ユーロ（約4619万円）とのことだ。
文＝関 耕一郎
（ENGINE Webオリジナル）
