2025.08.23

CARS

幻の4ローター搭載のミドシップ・コルベット「エアロベット」を知っていますか?

これが1970年代にエンジニアたちが夢見たミドシップのコルベット!

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C8こと現行の8代目で、ミドシップ化を果たしたシボレー・コルベット。フロント・エンジンで後輪駆動というレイアウトに長く慣れしたんだ目には特異的に見えたが、70年を超える歴史において、じつは幾度か検討されたことがあった。なかでも個性的なのが、1976年に披露された「エアロベット」だ。

ミドシップのコルベットは、もっと早く登場するはずだった!

エアロダイナミクスと、アメリカで広く用いられるコルベットの略称から命名されたそれは、ガルウイング・ドアや、空力に優れたウインドウ形状を備えるクーペ・ボディに、6.6リットルV8を搭載した実験車両である。

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しかしこのエアロベット、そもそもは「XP-882」の名で1970年にデビューした実験車両だった。

この頃、GMの開発部門は、ミドシップ車の試作を繰り返していた。中心人物はゾーラ・アーカス−ダントフ。コルベットの父と呼ばれ、今もコルベットの高性能モデルにイニシャルを残す彼は、レース志向のエンジニアだった。

その一環として生まれ、コルベット・プロトタイプとも呼ばれたXP-882は7.4リットルV8の横置きで、1969年に2台を試作したが、当時のシボレーの責任者だったあのジョン・デロリアンの一声で中止に。

ところが、フォードがデ・トマソ・パンテーラを公表すると一転、NYショーに出展されることになる。



このXP-882は、その後たびたび変貌を遂げる。まずは、同じシャシーに異なるボディを乗せた「XP-895」へ。これは当時シボレーが市販を目指して試作していた2ローターのロータリー・エンジンを2基組み合わせたパワーユニットを搭載し、4ローター・カーと呼ばれた。



やがてXP-895は、アルミ精錬・加工企業のレイノルズ・メタルズが製作した軽量ボディを得て、V8を搭載して1973年に公開される。

とはいえ、当時のGMはロータリー・エンジンの実用化を本気で追求していた。その理由は、レシプロより部品点数が少なく、信頼性を確保しやすいと考えられたことや、軽量・コンパクトなパッケージといったメリットの多さ。

XP-895のエンジンのベースとなった2ローターは、小型2ドアのシボレー・ヴェガへの設定が検討されたもので、同時期にはXP-895より小型のシャシーに4.4リットル相当の2ローターを積む「XP-987 GT」も、次期コルベットを想定した実験車両として製作されている。

また、1973年には、XP-882の4ローター版も発表。以前は60年代末〜70年代初頭のアイアン・バンパーを思わせたボディは、GFRPで新造。この年に市販版コルベットへ導入されたような樹脂バンパーも備え、空力を追求したスタイリングに変更された。開放時にドアパネル部分が垂れ下がる、特徴的なガルウイング・ドアが採用されたのもこのときだ。



エンジンは9.5リットル相当で、トランスミッションは3段ATのターボ・ハイドラマチック。スムーズなロータリー・エンジンの特性に合わせ、3.55:1と高めのファイナルが組み合わされた。



2座のキャビンはシートが固定され、チルトとテレスコピックが可能なステアリング・コラムと、調整式ペダルでドライビング・ポジションをアジャスト。メーター・パネルはフル・デジタルで、ステアリング・ホイールと合わせて可動する。エンジン後方には、ラゲッジ・スペースも設けられた。

ところが、この頃はオイルショックの影響で、燃費やエミッションに劣るエンジンへの風当たりが強くなり、GMのロータリー熱は徐々に冷めていく。



そんな中、XP-882のスタイリングとレイアウトを大いに気に入っていたGMデザイン部門の大御所、ビル・ミッチェルは、4ローターをV8に積み替えさせ、エアロベットとして再登場させたのだ。



こうして、6年にわたり研究が続けられたXP-882/エアロベットだったが、当時のアメリカではミドシップの大きな需要が見込めず、検討されていた市販化はキャンセルに。

このコンセプト・カーは現在、ほかのミドエンジン試作車たちとともに、米ミシガン州のGMヘリテージ・コレクションに収蔵されている。



ミドシップ・コルベットの実現は、それから43年もの時を待つことになる。誕生時には突然変異や掟破りのようにも語られたC8コルベットだが、じつはダントフやミッチェルが夢見た、コルベットの理想の結実なのである。

文=関 耕一郎

(ENGINE Webオリジナル)

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