2025年9月9日、フェラーリが「SF90」の後継モデルとなるミドシップ・スポーツをミラノで発表した。ジャーナリストの西川淳がリポートする。
テスタロッサを冠したモデル
その名は「フェラーリ849テスタロッサ」。三桁数字は8気筒で1気筒当たり0.49リッター(正確には499ccだが)を意味する。テスタロッサはイタリア語で赤い頭、つまり赤いシリンダーヘッドを持つことを表している。「500TR」(TRはテスタロッサの略)や「250テスタ・ロッサ」、さらには1984年に発表されたV12ミドシップの「テスタロッサ」など高性能エンジンを搭載した伝統的な名馬のネーミングである。


フロント・アクスルに2基の電気モーターを置き、リアにはDCT(デュアルクラッチ式自動MT)の変速機と1基の電気モーターを組み合わせたものをハイパワーの内燃機関と連結するというパワートレインは前任のSF90と同じだ。
この3モーター+ICE(内燃エンジン)のプラグイン・ハイブリッド(PHEV)を積んだ2シーター・リアミドシップ・スタイルは、今やスーパーカーの王道となっている。容量は小さいものの高電圧のバッテリーを仕込んで、短距離電動走行はもちろん、凄まじい加速や継ぎ目のないトルクフィリング変速を実現する。
フェラーリSF90をはじめ、ランボルギーニ・レヴエルトやテメラリオ、アストンマーティン・ヴァルハラなど、この方式を採用したスーパースポーツカーは数多い。こう書いて実にもったいないと思うのはホンダNSX。この方式を約10年前にいち早く採り入れていたものの、成功を手にすることができなかった……。それはさておき。
SF90から見た目はフルモデルチェンジ
849テスタロッサは開発コードF173MということでSF90のマイナーチェンジだと想像していたが、少なくとも見た目の変化は完全にフルモデルチェンジだ。もはやSF90の面影など全くといっていいほどなく(かろうじてキャビン周りが同じか似ている)、むしろ少量生産のスペシャルモデルである「F80」の妹分というか、ショート・ボディ版という感じだった。
そう思わせる理由は12チリンドリから採用されているブラックのパネルを持つフロント・マスクのデザインだけではない。スタンス(全幅)の広さやシンプルかつ大胆なサイド・デザイン、ツインテール処理という具合に全体の雰囲気でそう感じさせてくれる。リア・フェンダー周りの処理は「デイトナSP3」に近い。ドアにシールドが装備されるあたりもSP3風だ。リア・エンドからの眺めは1970年代の「512S」というレーシングカーも思い出す。
もちろん849テスタロッサにユニークなデザインも随所にあって、例えばフロントのチン・スポイラー風フリックや一枚のアルミ合金から成形されたグラマラスなダクト付きドア・パネルなどに目を奪われる。
インテリアもまたF80を発展させ、ロードカーとして仕立てたという趣だ。通常のベルリネッタ(高性能クーペ)のコクピットにシングル・シーターをはめ込んだ(実際は2シーター)ような個性的なデザインで、フローティング風シフトベースや2トーンのフロアなど随所にラグジュアリィなディテールも散見される。

タイヤ・サイズはSF90よりもひと回り太くなって、フロントが265/35 R20、リアが325/30 R20。3銘柄5タイプ、すなわちミシュラン・パイロット・スポーツ・カップ2R(オプション)、ミシュラン・パイロット・スポーツ・カップ2(アセットフィオラノ)、ピレリPゼロR(スタンダード)、ブリヂストン・ポテンザ・スポーツ(スタンダード)、同(ランフラットバージョン)が用意される。
パワートレインとシャシー制御が大幅進化
デザインの都ミラノでの発表というからには内外装のデザインが最大の見せ場かと思いきや、そこはマラネッロ製シリーズ・モデルのフラッグシップである。デザイン以外にもうひとつの見どころがあった。それは大幅に進化したパワートレインとシャシー制御だ。
パワートレインの基本的な構成はSF90に等しい。けれども3.9リッターV8ツインターボはさらに大型のタービンを採用するとともに、ブロックやシリンダーヘッド、エグゾースト・マニホールドなどを新設計としたF154FC型となった。エンジン単体で830psを得る。3機の電気モーターは220psでSF90と変わらないが、システム総合の出力は最高出力が1050ps、最大トルク1250Nmといったように、SF90はもちろんのこと、その高出力高性能モデルである「SF90XXストラダーレ」の1030psを上回ってきた。車両重量はSF90と同等だから、パワーウェイトレシオは1.5kg/ps以下と素晴らしい数値となっている。
結果、0-100km/h加速は2.25秒とSF90XXよりわずか、そしてSF90よりはコンマ2秒も速くなり、フィオラノのラップタイムではSF90より1.2秒早い1分17秒500をマークしたという。ちなみにトラック優先のSF90XXは1分17秒309でいまだにロードカーでは最速だ。
ビークルダイナミクスでは前述したパワートレインの出力アップに加えて、タイヤ・グリップとレスポンス、ブレーキ・システムの向上はもちろん、F80で実現をみたフェラーリ・インテグレーテッド・ビークル・エスティメーター(FIVE)と呼ばれる予測制御システムの採用にも注目だ。
FIVEは実際の測定値(加速度、6Dセンサー)を活用するシンプルな数理モデルをもとに、車両の挙動をリアルタイムで再現する“デジタルツイン”を生成するというもの。直接の測定が不可能な性能特性、例えば車速(誤差の範囲は1 km/h未満)や車体のヨー・アングル(誤差1度未満)を正確に推定でき、トラクション・コントロールや電子制御ディファレンシャルのマネージメント、e4WDシステムの効果が高まるという。エアロダイナミクスの進化も含め、総合パフォーマンスは飛躍的にアップしたといえそうだ。
さらに注目すべきは今回も設定された「アセット・フィオラノパッケージ」である。カーボン製ホイールなど軽量パーツを多用して約30kgの軽量化に成功。さらにはフロント・フリックから伸びる二枚のカーボン製スプリッターが大きくなり、ツインテールの代わりにツイン・ウィングを装備するなど専用リバリー(カラーリング)以外の見所もある。シングルレートのマルチマチック・ショックアブソーバーを搭載するが、その代わりにフロントリフター+マグナライド・サスペンションをチョイスすることもできる。


クーペとオープン仕様のスパイダーが同時に登場したが、後者はリトラクタブル・ハードトップを継承。屋根の開閉に要する時間は14秒で、時速45km以下で操作可能というスペックはSF90と変わらない。
日本上陸もまもなく
日本でのお披露目は意外と早く、9月24日の予定。イタリアでの販売価格はクーペが46万ユーロ(約7900万円)、スパイダーが50万ユーロ(約8600万円)。アセットフィオラノ仕様はいずれのボディ・タイプでも5.25万ユーロ(約900万円)で装着できる。イタリア国内でのデリバリーはクーペが2026年第2四半期から、スパイダーで同第3四半期からとなっている。

文=西川淳
(ENGINE Webオリジナル)