サウンドはジョニー・B.グッド
最後に、冒頭の音の話に戻ろう。
先代ウラカンの自然吸気V10は、アクセルに素直に反応して一直線に響くシンプルなサウンド。対してV8ツインターボ+電動のテメラリオは、ターボとモーターが重なり合い、厚みと鋭さを同時に生む多層的な響きだ。どちらが優れているかではなく、好みの違いに尽きる。
しかし、世界各国のジャーナリストによる記事やYouTube動画では、エンジン・サウンドに対するコメントが多く見られ、とりわけ先代ウラカンを懐かしむ声が目立っていた。だが、実際に現地でテメラリオの走りと音を体感した私には、その音がむしろドラマチックで官能的に憶え、「本当に比較すべきものなのか?」という疑問が湧いていた。

試乗を終え帰国してから、そのある種の“ズレ”を自分の中で整理したくて、ランボルギーニジャパンからウラカンSTOを借りて試乗させてもらうこととした。
V10と新世代V8+電動。この両者を頭の中でぐるぐると考えながら日常に戻ったさらに数日後、広報のYさんと食事を共にする機会があった。その席でたまたま『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の話題になったとき、ふと頭の中で腑に落ちるものがあった── 映画の中の、ある2つのギターシーンを例えにすればこの2台の音の魅力や違いを説明できるのではないか、と。
答えはこうだ。
ウラカンは、映画の冒頭、ドクのラボでマーティが巨大アンプにギターを繋いでかき鳴らした瞬間のようだ。アクセルを踏んだだけでV10が素直に吹け上がり、音圧が全身を突き抜ける。余計な装飾はいらない。シンプルにドーンと響き人を吹っ飛ばす。これぞ自然吸気V10の魅力だ。
一方テメラリオは、学園パーティーでマーティがジョニー・B. グッドを全力で弾き倒したシーンに重なる。V8ターボとモーターが重なり合い、厚みと瞬発力を同時に生み出す。単調なサウンドではなく、多彩なレイヤーが次々と耳に飛び込んでくる。まるで未来のギターテクニックを一気に披露するかのように情報の奔流でドライバーを圧倒するのだ。
だから、多くの人が自然吸気V10の音を懐かしむのはしょうがないと思った。ジョニー・B. グッドのシーンは未来の音楽であり、最初はポカンとしてしまうだろう。けれども、あのパーティーの観客と同じように、最初は理解が追いつかなくても、きっと後になって、「テメラリオの音は、新しい時代の響きなんだ」と気づくのではないか──。
そう思えば、サーキットで耳にしたあの音は、これまでのランボルギーニとは違う、新しい時代の始まりを感じさせるものだったのだ。
その印象はきっと間違ってはいないだろうと、私は思っている。
文=佐藤 玄(ENGINE編集部) 写真=ランボルギーニ S.p.A
■ランボルギーニ・テメラリオ
駆動方式 ミドシップ+4輪駆動
全長×全幅×全高 4706×1996×1201mm
ホイールベース 2658mm
トレッド(前/後) 1722/1670mm
車両重量 1690kg
エンジン形式 V8DOHC32+ツインターボ+モーター
総排気量 3995.2cc
最高出力 800ps/9000-9750rpm
システム合計出力 920ps
最大トルク 730Nm/4000-7000rpm
変速機 8段DCT
サスペンション(前後) ダブルウイッシュボーン
ブレーキ(前後) ベンチレーテッドディスク
タイヤ(前/後) 255/35 ZR20/325/30 ZR21
車両本体価格(税込) 未発表
(ENGINE2025年11月号)