2026.02.07

CARS

「どうせ乗るならスパイダーにしろよ」北方謙三さんのひと言が背中を押した 作家・今村翔吾さんがマセラティMC20チェロに乗る理由

北方謙三さんを師と仰ぐ今村さんにとって、マセラティはずっと特別な存在だった

全ての画像を見る

今村翔吾の代名詞

こうしてオーダーしたMC20チェロだが、納車まで1年近い月日がかかったのだそうだ。

advertisement


「このクルマは賭けだったんです。だって現車を見ずに買ったので。ディーラーの人に質問しても“我々もまだわからないんですよ”って。結局、乗らずに決めましたが、このクルマに乗りたいという気持ちが勝っていたんで、絶対に後悔しないと」

そこまでMC20チェロに入れ込んでいるのは、今村翔吾の代名詞になるくらい、乗り続けていこうという気持ちがあるからだ。

「作家デビューをしてから忙しくて自分の貯金を使っていなくて。値段も結構するなと思ったけど、まぁいいかと。というのも、今後乗り換える気もなくて、乗れるところまで乗ってやろうと思っているんです」



そして実際に目に触れ、乗ってみたMC20チェロは、今村さんの期待に十分に応えるものだった。

「人間って贅沢なもので、いい時計を買っても1週間くらいで熱が冷めたりするでしょ。それはクルマもそうなんだけど、MC20チェロはまだ上がるクルマだなと思ったね。これはいいぞ! と」

それはまた「作家、今村翔吾」のひとつの転機でもあるという。

「時計も5~6本あるんですが、賞をもらった時に買うって決めていて。今日つけているグランド・ランゲ1は直木賞。新人賞はブライトリングで吉川英治文庫賞がカルティエ、山田風太郎賞がパネライ。モノより、そこにある思い出を大事にしているというのかな。それは本も同じで、どこで買った本かは必ず覚えてる」

MC20チェロの細部には、マセラティの美学と今村さんのこだわりが重なる。

そういうと今村さんは納車式の時の思い出を話してくれた。

「うちの会社のスタッフのひとりに、僕がダンス講師をやっていた時の教え子がいるんです。先ほども出てきたマセラティの購入を後押ししてくれた子です。出会ったのは、彼女が10歳の時だから、もう15 年来の知り合い。作家にいつかなりたいって時から知ってる子で、彼女がいなかったら今はない。だから最初に乗せたんです。“ここまできたね”と一緒に喜び合える人と乗りたかった。でも、その日はなぜか社員全員が見に来ていて、その後、5kmごとにコンビニで止まって、順番に全員乗せましたけど。そんなことがあったのは、このMC20チェロだけですよ」

成長したら辞め時

「仕事に行くときは社用車の後部座席に押し込まれて(笑)、原稿を書きます。今、連載は大分減ったけど4本くらい。多いときは8~9本あったかな? よく野球に例えるんだけど、プロでやるかぎりは、調子が悪くて初回に打ち込まれて3点取られても腐らずに、最低限試合を作ることを考える。やっていたらそのうちに調子は戻るから。調子悪いなと思いながらも書く。そうしたらだんだん調子が戻ってくるものです」

マセラティのテディベア付きキーホルダーは、今村さんのお気に入り。

実は取材に伺ったときも、大きな原稿を抱えていて2徹と言っていた今村さん。そんな状況でも書き続ける秘訣をこう話す。

「重要なのは心・技・体の心だと思っているんです。作家は童心、探究心を失わない方が強いと思うんです。だから1分1秒でも大人になるのを遅らせたいと思ってる。作家としては自分自身が成長したなと思ったら辞め時。あと自分で決めた目標部数を割った時、大衆作家の大衆の部分が取れてしまうから引退だと思ってる。野球選手と同じでいつか辞める時がやってくる。それは大衆作家としての僕の矜持でもあるんです」

むっちゃ高いトミカ!

ある意味マセラティは童心を持ち続けるために必要な「むっちゃ高いトミカ」であり、仕事から解放してくれる重要なアイテムのひとつにもなっていると今村さんは話す。



「仕事が終わってからふらっとドライブ行くようになったね。この前も別のところで書こうと京都の丹後までいって、その場で予約取った旅館で原稿を書いて、魚食べて帰ってきた。行こうと思ったのはマセラティがあるから。このエンジンが……とかメカのことより、乗った瞬間の相性って、結構あると思っていて、マセラティはなんかしっくりくる。それがなければ、どんなに高級なクルマでもハートに来ないよね」

そんな愛車で、ぜひ走りに行きたい場所がある、と今村さんは言う。

「白山白川郷ホワイトロード(旧・白山スーパー林道)が一番好き。好きすぎて、あの道を通るためだけに旅行するくらい(笑)。でもまだマセラティで行けていないんです。10月、11月が紅葉で最高。閉まりかけの白山白川郷ホワイトロードを飛騨高山から行って、山代温泉で一泊して、帰ってくるルートが一番好き。他には安房トンネルの辺りとか。ああいう山間の道、高いところが好き。ほら、チェロって空って意味だしね」

文=藤原よしお 写真=篠原晃一 撮影協力=琵琶湖ホテル

【前篇】愛車初公開 直木賞作家・今村翔吾さんが乗る630馬力のイタリアン・スーパーカー このクルマを選んだ意外な理由とは  

■今村翔吾(いまむらしょうご)
1984年、京都府生まれ。2017年に『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビューし、以降『八本目の槍』で吉川英治文学新人賞、『じんかん』で山田風太郎賞、『塞王の楯』で第166回直木三十五賞を受賞。歴史小説を主戦場としながらテレビ出演・書店運営など幅広く活動。最新刊は2025年8月に刊行された『イクサガミ 神』。最新刊としては、2024年10月に『五葉のまつり』が発表されている。

(ENGINE2025年12月号)

advertisement



RELATED

advertisement

advertisement

PICK UP

advertisement