テーブルがスクリーンとなり、皿の上で小さなシェフが料理を作る。映像の物語とともに本物の一皿が現れる、世界で人気のシネマ・ダイニングを体験した。
食の楽しみは、味覚だけにあるわけではない。視覚や物語性が加わることで、食事は記憶に残る体験へと変わる。そのユニークな例が、ベルギーのスカルマッピングスタジオが2015年に生み出したシネマ・ダイニング『ル・プチシェフ』である。

店内ではテーブル全体がスクリーンとなり、天井からのプロジェクションによって3Dアニメーションの小さなシェフが皿の上に現れる。身長58ミリの彼が奮闘しながらつくる料理が完成した瞬間、現実の料理がテーブルに運ばれ、映像とリアルが重なり合う。
この演出が人気を呼び、現在では世界30カ国以上で展開されるエンターテインメントレストランへと成長している。

東京に初登場したのは2025年。ANAインターコンチネンタルホテル東京36階の特設レストランには、国籍も年齢も多彩なゲストが年間2万5000人以上訪れ、その約7割が続編を望むほど好評を博した。その期待に応える形で、2026年2月から新シリーズ「ル・プチシェフ&フレンズ」が始まった。
皿の上で始まる小さな物語
今回は、世界最小のシェフに加え、スペイン、イタリア、そして日本からも個性豊かな料理人たちが参戦。テーマは「インターナショナル・リトル・シェフ料理大会」だ。彼らはテーブルの上を駆け回りながら各国料理を披露し、腕を競う。

たとえばスペインのシェフはフラメンコのリズムに乗ってトマトサラダを仕上げ、イタリアのシェフは小麦畑で掘り出したトリュフをラビオリに仕立てる。フランスのシェフは国産牛ステーキを焼き上げ、日本のシェフは抹茶と和栗のモンブランを完成させる。料理が完成するたびに、映像の“調理” と実際の一皿が見事に同期する。

コースは前菜からデザートまでの5品構成。繊細でバランスのよい味わいもさることながら、ひと皿ひと皿が劇場の一幕のように展開していく点が印象的だ。
最後にはゲストの拍手で優勝シェフが決まる。審査員の気分で眺めているうちに、気がつけば小さなシェフたちに本気で声援を送っている自分に気づく。約2時間の没入体験を経て頭はリセットされ、お腹と心はしっかり満たされる。映画に浸る満足感と、美食を堪能する充足感。その両方を同時に味わえるひとときだった。
文=小松めぐみ(フード・ライター) 写真=田村浩章
■「ル・プチシェフ&フレンズ」
営業期間は2027年1月31日まで。前日正午までにオンラインで要予約(2名~)
●東京都港区赤坂1-12-33 ANAインターコンチネンタルホテル東京36F
TEL.03-3505-1185 月・火曜定休
https://lepetitchef.com/tokyo ※価格は税・サービス料込みです。
(ENGINE2026年5月号)