2019.03.20

LIFESTYLE

2台のヴィンテージカーと暮らす 風を感じる船の舳先のようなヨコハマの家 

横浜のとある丘の中腹に建つ、まるで船の舳先のようなカタチが印象的な小島邸。四季を通じて気持ちのよい風が吹き抜ける。

小さな車庫で十分

白く塗られた壁と木製の扉のコントラストが美しい、小島潤一さん(52)のお宅。横浜という土地柄のせいか、外観の尖った部分が、ついつい船の舳先に思えてしまう。しかしそれより驚いたのは、とてもクルマが入りそうに思えない小さなサイズのガレージ扉だった。

小島邸が建っているのは、坂道の途中の三角形の敷地。右頁の写真だと、右から左に行くにしたがって高くなっており、一番低いところが車庫、一番高い左端の裏が玄関になっている。わずか14mの距離での高低差が、そのまま車庫の扉の高さになっているのだから、高さは2mもない。


小さな2台が前後に入ってこのサイズの車庫。ハッチバックではない500Cでないと、車庫内での荷物の出し入れはできない。バイクはカワサキTR250。壁にはパリで買い求めたMGの看板が。最近MGでのドライブは小田原がせいぜいだとか。敷地と道路の間の幅15㎝の花壇に奥様が植えた植物が。


「将来も大きなクルマを所有することはないだろうから、VWのゴルフクラスのクルマが2台入れば十分」と判断しての設計で、奥行きは10m。一番奥の高さは1.7mしかない。それでも2006年の設計当時、小島さんの愛車は、長さ3.5m、幅1.4mもないMGミジェットMk1 (1961年型)である。これで充分なのだ。


オープン・エアの楽しさ

小島さんは大のクルマ好きだ。かつては仲間たちとチームを作ってクルマを仕立て、サーキットのレースに参加していたこともある。好みは小さくてキビキビ走るクルマ。これまでの所有車はミニ、ルノー5バカラを経て、ユーノス・ロードスター。この時、オープン・エアで走る悦びを知り、20年ほど前から今のMGミジェットに乗り続けている。教会で挙げた結婚式の後、ウエディングドレスの奥様を乗せるブライダル・カーとして活躍したのもこのMGだ。


休暇も飛行機で遠出するのではなく、愛車での旅を楽しむのが小島家のスタイルである。そして2台目として加わったのが、FIAT500Cヴィンテージ(2010年型)。選んだ理由は、グレーのボディ・カラーと赤い幌の組み合わせに魅せられて。クルマ選びで、色は譲れないそうだ。どちらのクルマも屋根が無いが、助手席に座る奥様の寛子さんにとっては大違い。日焼け止めの対策が違ううえ、相応しい服を選ぶ必要があるので(MGだとグリスが服に着くことがある)、どちらのクルマで出かけるか、事前確認が不可欠という。

内と外の境が曖昧

そんなお二人のハネムーン先は、クルマを借りて巡ったイタリア。道も知らなければ、言葉も通じない右側通行の国で、ドライブを楽しもうというのである。このエピソードを聞き、小島邸の設計を担当した建築家の保坂猛さんは、「不便を楽しめる夫婦」と判断し、大胆な家を設計した。まず、三角形の敷地のできるだけ外側に、2楝の建物をV字に配置。このレイアウトは無駄となる土地が無い合理的なものである。そして残った中央の三角形の部分を中庭とし、全ての部屋がガラス戸を通して中庭と相対するようにした。家の外側が見えるような窓は存在しない。

中庭に面して開かれた小島邸。外側の窓は、通気を行う小窓のみ。手摺には、船舶用のロープが用いられている。

敷地は100平方メートルに満たないが、実際に中に入ると、外部から想像するより、遥かに広がりを感じさせられる。特に2階の開放感は抜群である。LDKの幅は3m強だが、特注した木製の窓は折戸になっていて、全開放すると、向かいのデッキとひと続きの空間のように感じられて爽快だ。一方1階は、全ての部屋の床材が、庭と同じ素材でほぼ段差無しで続いている。ガラス戸を開け放てば、こちらの階もひと続きのような空間で、2階よりもさらに、家の内と外との境が曖昧に感じられるものだ。



家具や照明にアンティークを揃えたが、オレンジのソファは、小島さんが独身時代に使用していたジョージ・ネルソンのもの。


中庭の木は、小島さんが植えたヤマボウシ。10年で家よりも高く育った。取材の3週間前は冬木の状態だったが、我々の訪れた2週間後には、白い花が咲いたそうだ。そしてこの庭に、色々な鳥がやってくる。そんな自然の営みを感じられる中庭を眺めながら、毎朝歯を磨くのが小島さんにとって至福の時だという。実は小島さんが建築家の保坂猛さんに依頼するきっかけとなったのが、雑誌で紹介されていた保坂さんの自邸の記事。2階の天井の一部が塞がれておらず、家の内と外との境が曖昧な家だ。小島さんが、そんな保坂邸に惹かれ、このような中庭に面して開かれた開放的な家を建てたのも、長いことオープンカーに乗ってきたことと無縁ではないだろう。


建築家のセンスだけでなく、小島さんたちの美意識も、この家をより魅力あるものにしている。何を隠そう小島潤一さんは、広告会社サン・アドのアートディレクターだ。サントリーやトヨタ、セイコーの広告や、地元である横浜銘菓のブランディングも手掛けている。そんな小島さんは、建築家の提案に自らのアイディアを加えて、個性ある家を完成させた。





例えば、階段の手摺や2階の中庭に面した柵に、船舶用のロープを使えないかと提案。外部に船舶照明を使う案なども採用された。また、自ら照明や把手、郵便受けなどのアンティークのパーツも揃えている。こうして誕生した2階のインテリアは、船乗りたちが通う港町横浜の老舗バーを思わせるもの。横浜で生まれ育った小島さんは、自然とこうした雰囲気が好きになったと言う。

ここは横浜

小島さんが偶然ラジオで聴いた横浜出身のミュージシャン、ゆずの番組の話も横浜らしいエピソードである。「横浜で生まれ育ってクルマの免許をとると、東京方面でなく、鎌倉・湘南・箱根など南の方角にドライブに行くのが圧倒的」と語る彼らに、共感する部分が多いと言うのだ。

仕事柄小島さんは都心の美術展に行くのも大事なのだが……週末はついつい夫婦で、南の海の方に出かけてしまうというのである。なるほど。

家もクルマもドライブも、オープン・エアが気持ちいいのだ。



■建築家:保坂猛 1975年、山梨県生まれ。横浜国立大学大学院修了。出世作である自邸「LoveHouse」は、2階建てにもかかわらず、延床面積37平方メートルしかない超狭小住宅。河口湖畔の郷土料理店「ほうとう不動」は代表作。暖簾に描かれたロゴは小島さんがデザイン。愛車はシトロエンC4。


文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

(ENGINE 2017年08月号)

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