2019.07.24

CARS

カレラTとGT3RS、2台の911に試乗 991型は911のひとつの完成型である

992型の登場により、日本でも今、991型が7年に亘る任期を終えようとしている。そんな991型の中でも個性の強い2台を引っ張り出し、あらためて991型、そしてポルシェ911というスポーツカーの魅力を検証してみた。


991を乗り納める

(村上)今回はハードコアのGT3RSと軽量版のカレラTという2台の911を連れ出した。


(新井)カレラTはもちろん軽量化も行われていますが、スポーツシャシーを標準にするなどスポーティ度を高めたモデルです。


(村上)そもそもTという名称は何から来ているんだっけ。


(齋藤)ツーリングの頭文字。その昔911には〝S〟〝T〟〝E〟の3グレードがあって、Tはその真ん中。


(塩澤)いつ頃の話?


(上田)1960年代。ナロー世代の時です。


(村上)今回なんでこの2台をとりあげたかというと、すでに992型が登場しているから。日本での発表会もすでに行われているんだけど、まだ現時点では試乗車がないということで、ならば、ひとつ前の991型のちょっと変わったモデルに乗ってみようということになった。ここには写っていないけれど、実はもう1台カレラSも連れだって、3台の991型で箱根を走ってきた。


(齋藤)カレラSにはスポーツシャシーが付いていたから、走りに特化した3台の2駆の911をエンジン違いで試したことになる。


(村上)この3台はどれも、乗ると〝これぞ、ザ・911だな〟と思ったな。


ポルシェ911カレラT。20インチ・ホイールはカレラT専用デザイン。ブレーキはカレラと同じドリルド処理が施されたスチール製ディスクと対向4ポッド・キャリパーとの組み合わせとなる。
軽量化のためにナイロンのストラップに変更されたドア・ノブが内装におけるカレラTの大きな特徴となっている。エアコンの吹き出し口のフラップがボディ同色の黄色になるのはオプション。
針式のエンジン回転計を中心に据えた5連メーターに変更はない。
ストライプ柄のシート表皮はカレラT専用。取材車には調整機能の多いアクティブ・スポーツシート・プラスが装着されていた。
 
ポルシェ911 GT3 RS。カレラTと同じ20インチだが、幅はRSの方が広い。ちなみにオプションでチタン製も選べる。標準仕様のブレーキはスチール・ディスクだが、取材車にはセラミック合金ディスクのPCCBが装着されていた。
室内にRSを表す過剰な演出はないが、メーターを見ればRSであることが一目瞭然。カレラT同様、ドア・ノブはストラップ式。
エンジン回転計にはGT3RSのロゴが配され、そのレッド・ゾーンはエンジン許容回転数の9000rpmから刻まれている。
バケット・シートは高いホールド性だけでなく掛け心地も抜群。その後ろには見るからに頑丈そうなロールケージが備わる。

(齋藤)車両重量やサイズは大きくなっているとはいうものの、911シリーズは昔と比べるととんでもなく高性能化している。ナナサンのカレラRSは当時としては凄かったかもしれないけど、今回のGT3RSの後にナナサンのRSに乗ったら、「遅!」って感じると思うよ。


(新井)ただ、996とか997とか近い世代のRSと比べると新型はかなり乗用車になりましたよね。996なんかはまんまレーシングカーでしたから。


(村上)996の普通のGT3よりも乗り心地がよくて、その上、メチャクチャ運転しやすい。だからRS、いわゆるレンシュポルトだからといって、ガチガチに緊張して走らせなくてはいけない種類のものではない。


(齋藤)路面からの入力は角が丸められているから〝ガツッン〟〝カキーン〟という鋭利なものではない。しかし、基本的に脚の動きは凄く締まっていてストロークも小さいから、路面が荒れているところを続けて走ると、僕みたいに椎間板が薄くなっている人にとってはツライ。


(新井)ただ、路面状況の悪いところでも飛んだりしなくなりましたよね。


(齋藤)それはない。なぜならロード・ホールディングが高いから。


(上田)脚を硬くしなくても速く走れるようになっています。


(村上)今は可変ダンパーが付くようになったのも大きい。対してカレラTはエントリーのカレラをベースにさらに軽く、簡素にしたモデル。


(齋藤)最もリーンな911と言える。


(新井)RSとTは、方向性は一緒で、居る位置が違うって感じでしょうか。


(齋藤)スポーツカーのハンドリングを楽しみたいという人のためにある911としては、入口と最後にいるモデルということじゃないかな。


(村上)2台に乗ると991は何者なのか、本当の姿、何を目指しているのかがわかる。RSだけに乗っているとパワーがあって凄過ぎるから、そこに惑わされて見えないものが、カレラTに乗るとかなりクッキリと見えてくる。〝911の基本の状態はこういうものなんだな〟というのがわかって、本当に清々しかった。装備を簡素化したり、リア・ウインドウに軽量ガラスを用いたりすることで減量しているうえに、遮音材も違うようなことを言ってたな。ただ、僕は海外でMTにも乗ったけど、それはさらに軽やかだった。


(齋藤)だからといって、極端にスパルタンになっていたかというとそうではなかったよ。若干、味わいとしてよりスポーツカーしているな、というくらいだった。


(村上)普通のカレラとの違いは20㎏。変速機の違いと同じで、極端に軽いわけではない。


(塩澤)こう言ったらなんだけど、コスメみたいなもんだよね。


(村上)簡素化だから逆コスメか。


(齋藤)床屋に行った感じ。でも丸坊主までは刈り込んでない。


(村上)海外ではMTとPDKの両方に乗ったけれど、元々20㎏軽量化したうえに、MTだとさらに20㎏軽くなる。その差はすごく大きくて、911レベルのパワーがあっても軽いとこんなに違いが出るんだと驚いた。


(齋藤)レーシングカーは5㎏重かったら勝てない。


(村上)1tを切るようなレーシングカーではなく、911の1400㎏レベルでもこれだけの差が感じられる。乗り味はシャキッというか……。


(齋藤)シュッとしているって荒井さん言ってたよね。


(村上)武田真治さんみたいにマッチョではないけれど、シュッとしているねという人みたいな印象。RSになると「毎日筋肉体操やっているだろ」という感じになる。ただ、装備を外しているのに値段が高くなっているのは如何にという……。


(塩澤)商売だから(笑)。


(新井)スポーツシャシーなどオプションのものが標準になっています。


(村上)そう考えれば、けっして高いわけではないってことか。


(荒井)それに「俺のはちょっと違うんだよ」というのが購買意欲をくすぐるんだよ。


直して欲しいところがない

(村上)今回カレラSを含め3台に乗ったけど、991型は相当いいな。新型に変える必要があるのか? というくらいに。完成している。だからこそ992型は違う方向に進み始めた。


(齋藤)992はフロントのトレッドをドーンと広げて、基本ポテンシャルを上げて、またそこからコツコツといろいろやっていく。そうすると最終型になる頃には「992って凄い、991はこんなに走れなかった」ってことになるんじゃないの?


(村上)ただ992では、997から991にモデルチェンジした時のような段差を飛び越えたような飛躍は感じなかった。


(塩澤)992はエンジンがキャリー・オーバーだけど、シャシーは新しくなったんだよね。


(新井)今991に乗っても、直して欲しいと思うところがありません。


(村上)991の前期まではネガティブな要素が常に存在していたけど、991の後期型にはそれがない。992のニュルブルクリンク北コースのタイムは7分25秒なんだけど、992のチーフ・エンジニアのアハ・ライトナーさんは「あと5秒速くすることもできたけど、今回はその5秒を削るよりも、その能力を違うところに使うことにした」と言っていた。もちろん992の方がより速いし、よりハンドリングも良くなっているんだけど、それだけではなく、ウェット・モードとか乗り心地の向上とか、992型はそれとは違う方向にも力を入れたのだと思う。パナメーラのものを転用した8段のPDKを採用しているんだけど、それによって何が変わったかというと、モーターを入れることができるようになった。つまり、いつでも電動化できるということ。実はこれって911にとってすごく重要な進化のひとつになっている。


これぞ911の真髄

(齋藤)今回の2台に乗って思ったのは、これが911というクルマの真髄とするならば、ひたすら夢中になって運転することの喜びを求め、それに興じるクルマなんだと。折角2+2で始めたものを2シーターにしちゃっているんだから。


(荒井)緑色の方なんか、まさにそんな感じ。首都高を走っているときに覚えた違和感はスゴイよ。マリオ・カートが間違えて入ってきちゃったかと思う(笑)。


(村上)でも、昔はこういうクルマが出ると「サーキットが本籍」とよく言ったけど、そんなことはないよね。


(齋藤)もちろんサーキットに軸足を置いているんだけど、一般公道は受け付けないというクルマではない。渋滞の中だって平気。996のGT3は完全なホモロゲ・スペシャルだったけど、これは商売になると気付いて、それ以降はロードカーとして仕立てなくてはといろいろやってきたわけでしょ。996に比べたらハードコアではない。あれは石みたいなクルマだったから。でも、今回のRSもいい気になって山道を走っていると疲労困憊する。生も根も尽き果てる。楽しいけど。生気をすべて吸い尽くされる感じ。


(村上)ましてやサーキットを走れと言われたら、何周もしないうちにヘトヘト。クルマが速過ぎて、人間が持っているポテンシャルをクルマがはるかに超えちゃっている。


(齋藤)ファン・トゥ・ドライブに特化した911は男気がないとなかなかキビしいよね。


(村上)それは女性に失礼ですよ。


(齋藤)女性だって男気がある人はいますよ。


(村上)これを楽しむなら鍛えないと。


(上田)Tならそんなことないですよ。


(荒井)シュッとしていて良かった。


(齋藤)Tに乗ると、余計なものを落としたレス・イズ・モアになっている感じはした。結局残るのはドライビング・ファンだけというのがわかる。RSも同じものをもっているんだけど、いろんなことに圧倒されちゃってわかりにくい。機械を操る楽しさはTの方がわかりやすい。ま、僕の場合はTでもトゥ・マッチだけどね。


(塩澤)ちょっと前までは、GT3とGT3RSの2台持ちでもいいくらいの勢いだったのに。


(齋藤)もう無理。時代は変ったの(笑)。

話す人=村上 政編集長+塩澤則浩+齋藤浩之+荒井寿彦+新井一樹+上田純一郎(すべてENGINE編集部) 写真=望月浩彦

▶「ポルシェのおすすめ記事」をもっと見る

■ポルシェ911カレラT

駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4527×1808×1285㎜
ホイールベース 2450㎜
トレッド 前/後 1545/1518㎜
車両重量(車検証記載前後重量) 1445㎏(前550㎏:後910㎏)
エンジン形式 水平対向6気筒DOHC24V直噴ツインターボ
総排気量 2981cc
ボア×ストローク 91.0×76.4㎜
最高出力 370ps/6500rpm
最大トルク 45.9kgm/1700-5000rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
>サスペンション形式 前/後 マクファーソン・ストラット/マルチリンク
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 245/35ZR20 91Y/305/30ZR20 103Y
車両価格(税込) 1432.0万円


■ポルシェ911 GT3 RS

駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4557×1880×1297mm
ホイールベース2453㎜
トレッド 前/後 1588/1557㎜
車両重量(車検証記載前後重量)1430㎏(前560㎏:後910㎏)
エンジン形式 水平対向6気筒DOHC24V直噴
総排気量 3996cc
ボア×ストローク 102.0×81.5㎜
最高出力 520ps/8250rpm
最大トルク 47.9kgm/6000rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション形式 前/後 マクファーソン・ストラット/マルチリンク
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 265/35ZR20 99Y/325/30ZR20 108Y
車両価格(税込) 2692.0万円


(ENGINE2019年8月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

タグ:

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement