村上 今月号(2019年10月号)の巻頭特集は、“ラテンのクルマは、ひと味違う!”ということで、まわりと同じクルマでは満足できない人のためのフランス車&イタリア車大特集をやっていこうと思う。そのきっかけは、新しいプジョー508。初めて見たとき、「やっぱりラテンのクルマはひと味違うわ」と本当に思ったことにある。ENGINEでは今までにフランス車特集を何回かやっているけど、一番最近やったのは8年前の2011年。これがなんと先代の508が出たのが発端だった。“フランス車の独善と普遍”というタイトルの特集で、先代508にプジョー車としては初めてカップ・ホルダーが付いたことに端を発していた。
上田 それ以前にはエヴィアン・ホルダーというのはありましたけど。
齋藤 でっかいペットボトルが入れられるヤツね。
村上 だから“独善と普遍”というタイトルが付いたのは独善のフランス車が普遍のことにちょっと目を向けたというのがひとつのきっかけになっていた。「個性的なクルマには乗りたい、でも独りよがりなクルマには乗りたくない」という人にとって、フランス車の“転向”は当時としてはひとつのニュースだった。一方、ラテンという枠組みでイタリア車とフランス車の特集をやったのは2001年の3月号が最初で最後だったんじゃないかな。
上田 ENGINEが立ち上がったばかりの頃でしょうか。
村上 半年も経っていない頃。そのときのタイトルは“ラテン・ラバーには敵わない”
だった。ラテン・ラバーというのは特集の扉のリードに記したとおりで、ラテン系の色男のこと。アイツらには敵わないよな、という趣旨の特集だった。ENGINEでは当時からそういう認識を持っていたんだね。その当時と比べると今のフランス車は以前ほど独善でもないし、イタリア車もメチャクチャ官能的というよりはもっと実用的なものに近付いて、昔ほどマッチョでもセクシーでもなくなった。
齋藤 フェラーリとかランボルギーニみたいな高額なクルマを除くとね。
村上 しかし依然、まわりと同じクルマでは満足できない、同じクルマに乗りたくない、ちょっと違うのがいいんだよね、という人にとって、フランス車やイタリア車がいまだ選択肢になっているのは間違いない。
インパネはi-コクピットと呼ばれる小径ステアリングの上からメーターを望むプジョー独特のレイアウトを新型508も踏襲している。デザインは秀逸だが、ピッタリとハマる人はいいが、体型によってはステアリングでメーターが隠れてしまうなど乗り手を選ぶ場合がある。ピアノ・ブラック塗装やクロームを多用することでスポーティかつ高級な感じを醸し出す。
メーターの照明はセダンがベージュで、SWがブルー。エンジン回転計を反時計回りにしているのはささやかな独善の証だろうか。
シートはGTラインとGTともにアルカンターラ表皮が標準だが、取材車のどちらにもオプションのナッパ・レザーが装着されていた。ナイト・ヴィジョンやパノラミック・ルーフなどとのセット・オプションで価格は65万円。
荷室容量はセダンの487リッターに対し、SWは530リッター。SWの方が高さ方向の自由度が高く、容量以上に使いやすいはずだ。ちなみに先代のSWよりも182リッター大きい。GT系には足先をリア・バンパー下に入れることで手を使わずに開閉ができる電動テール・ゲートが標準で備わる。
上田 そういえば村上さんは長期リポート車でかつて508に乗ってましたよね。
村上 2011年に先代508が出てから半年間乗っていた。先代もほかとはちょっと違うと言えば違っていたけど、新型ほどスタイリッシュではなかったな。新型はデザインが変わって本当に良くなった。
齋藤 プジョーのデザインが変わったのはSUVの現行型3008と5008からだよね。
村上 ひと世代前のデザインと全然違う。先代の508は独善と普遍という見方で言うと普遍の方を意識したデザインだった。しかし、新型は独善というほどではないけれど、ちょっと新しい何かが入ったよね。味というか、スパイスが。それでガラッと良くなった。
齋藤 こんなに意図的にデザインを意匠だけのものとして踏み切ったのはPSAとしては初めてだと思う。デザインは機能と関係なく、ただ美しければいいという考え方が入ってきた気がするな。
村上 PSAは機能のことも意識していると言っているけどね。例えばあの径の小さいステアリング。メーターを上から見る方が視認性が上がり機能的でいいのだという。確かにそれはそうなんだろうけど、その一方で、あの運転環境はちょっと独善帰りしたように感じなくもない。
齋藤 今までのPSAのデザインは「形は機能に従う」みたいな状況になっていたけど、新しいデザイン言語は「機能なんて関係ないから」といった感じを受ける。まるで服を作るようなセンスが入ってきた。セダンをオーソドックスなノッチバックから5ドアのファストバックにしたのもデザインを優先した結果だからね。しかも背を低くして。このサイズのセダンなのに後席なんか頭がぶつかる。それってスゴイ割り切りでしょ。176センチある僕だと髪の毛が触れるだけじゃなくて、頭蓋骨も当たるんだから。でもフランス車って歴代、ヨーロッパのクルマの中でヘッドクリアランスが一番小さい。「ひょっとして、フランス人って座高が低い?」っていつも思うんだよね。
村上 低いでしょ。脚が長くて座高が低い。日本人は逆だからどうしても厳しいよね。
齋藤 つまり508は2+2、昔日本が発端になったカリーナEDみたいなクルマなんだよ。アメリカがはじめて、すぐに日本も追従し、イタリアすらやったけれど、フランスはずっと手を染めなかったあの路線。508はすべてを捨てて、本当のパーソナル・カーになったんだと思う。でも、それが魅力的に見える。
村上 先代よりも背がすごく低くなってカッコいいんだよ。
齋藤 508を見た後だとドイツ車って田舎臭く感じる(笑)。今の最新世代のPSAがすごく売れているのは、あんまりベタな言い方で言いたくないけど、やっぱりみんながオシャレでファッショナブルだと感じているからじゃないかな。カッコイイと思っている。
村上 かといって、ラテン・ラバーという言葉で表されるような、ムキムキにマッチョでギラギラにセクシーで、というのとはちょっと違う。けっこう知的な、ちゃんと一回普遍を通り越してもう一回独善が入ったようないい具合のカッコよさになった。
齋藤 くどくないよね。
村上 そこが今のラテン車が新しく魅力的に見える最大の理由じゃないかと思う。アルファ・ロメオもいろいろと混迷が有りながら、今ようやく出た新世代のジュリアやステルビオもマッチョ過ぎないし、ギラギラにセクシーでもないんだけど、実用性を持たせつつもクルマ好きに「うん、これだよね」と思わせるような魅力を出している。
(齋藤)昔のラテンのクルマは全く違っていたけれど、今はひと味違うくらいのいい具合になった。(後編へ続く)
話す人=村上 政編集長+齋藤浩之+新井一樹+上田純一郎(すべてENGINE編集部) 写真=郡 大二郎
■後編はこちら
→これぞ何年かに一度の名車だ! 生まれ変わったプジョー508に試乗/後編
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