2019.09.09

CARS

フィアット500、シトロエンC3、ルノー・トゥインゴ ラテンのちびっこたちは、元気で、陽気で、ちょっと生意気!

おおよそ250万円で買えるイタリアとフランスのスモールカー。色とりどりの3台を連ねて 4人の編集部員が都心の狭い一般道から高速道路まで駆け回った。


上田 真っ青な夏空に映えるカラフルな3台。この中でルノー・トゥインゴとフィアット500はいわゆるAセグメントに属するもっとも小さいクルマですが、対するシトロエンは一回り大きなBセグメントのC3となります。


齋藤 C1っていうモデルがあるんだけど、導入されていないからね。


荒井 とにかくこういうクルマが路上にいると街が明るくなるよね。C 3は前衛的だし、トゥインゴは存在感があるし、500はとりわけ可愛い。この3台と比べると、ドイツ車って表情があんまりない。


新井 ムスッとしているというか、カッコつけている感じですよね。


齋藤 ドイツ車で似たサイズとなるとVWアップ! がそうだよね。最後発だったこともあって、機械レイアウトや空間パッケージングを煮詰めに煮詰めた、いかにもドイツ車的な1台。カールおじさんみたいで表情はあるけど、キュートじゃない。


荒井 どうしても機械っぽい。


新井 アップ! にはセアトとシュコダ・ブランドに兄弟車があって、その2台と見比べると、あれでも一生懸命お洒落しているんですよ。


全員 (笑)。


齋藤 もともとレトロ・モダンみたいなものは日本ではじまった。Be-1に端を発する日産の一連のパイクカーが世界に影響を与えた。でもVWには回帰するべきひな形がなかった。ビートルはもっと大きいし、もうニュー・ビートルがあったしね。だから理詰めにしかできなかった。


上田 日本車にもあんまりない。


齋藤 唯一近いのはホンダN-ONEかな。軽自動車って新車需要の1/3近い台数を売っている日本の主流だから、どうしてもあれもこれもとなる。路上で普通車に虐げられやすいせいもあって、少しでも大きく見えるものが欲しいという考えが無意識に働く。でもヨーロッパの主流は完全にBセグメント。Aセグメントと車体サイズの差は小さいから、そういう意識が起こりにくい。


■RENAULT TWINGO


成り立ちは様々

上田 じゃ、まずは一番古株の500から行きましょうか。


荒井 デビューは2007年だから、もう12年も経っているんだ。


齋藤 500はアイコニックなライフスタイル・カーなんだよ。500の元になった2代目のいわゆるチンクエチェントは、戦後のイタリアを支えたクルマ。大人も子供も男も女もみんな知っている。フィアットが自らをスモール・カーに特化したブランドに再構築すると決めた最初のモデルで、すごくお金をかけてポーランド工場に新しい生産ラインまで立ち上げた。同じクラスには5ドアで後ろにちゃんと人が乗れて、荷室も大きい実用車のパンダもある。その結果、完全なライフスタイル・カーとして最初から出てきた。最初から完成していたから、古くならないとも言えるよね。


新井 異質ですよね。ほかの2台も愛らしくて街を明るくするけれど、500ほどじゃない。 


齋藤 トゥインゴはスマートの兄弟車だからね。見た目以外は実質同じ。ルノーだけで考えて、自由にちっちゃいクルマを作ったわけじゃない。小動物系の表情にはなっていると思 うけど。


上田 どこか初代や2代目のルノー・サンクのような面影はありますよね。


荒井 トゥインゴはなんでRRにこだわってるの?


新井 こだわっているわけじゃなくて、2座のスマート・フォーツーの存在があるからです。全長2.5m強で衝突安全基準を満たすにはRRしか実質不可能だったんですよ。


齋藤 2座のスマートのしばりがなかったらRRにはならなかった。もともとルノーは東欧の会社を買って初代トゥインゴを安くつくらせようとしていた。でも失敗し、結局自国でつくらざるを得なくなった。2代目も生産設備があるからそのままF Fだった。けれど、Bセグメントほど数が売れるわけじゃないから、自前のプロジェクトとしてはこれ以上続けられない。そこで利害が一致したのがメルセデスだったというわけ。


上田 スマートの次期型はEVと言われています。ルノーもEVはすでに多くのモデルを展開しているから次のトゥインゴがどうなるかわかりませんね。


齋藤 で、フランスのもう1台、C 3はこれが3代目。初代も2代目も乗ればすごくいいクルマだった。金属バネでも、あぁ、いかにもシトロエンだよね、っていう感じで。でも、いかんせん見た目がね……。


新井 どちらも2CVをオマージュしていました。でも、イタリアみたいに腹をくくれないのか、レトロが嫌いなのか、回帰度合が薄かった。


齋藤 洋の東西を問わず、見た目でブレークしないと売れないんだよ。


上田 でもシトロエンはC4カクタス以降、ついに化けましたよね。


齋藤 長年温泉を掘っていて、ついに出た! っていう感じ(笑)。


新井 当たるべくして当たったと言うよりは、シトロエン自身も「うわぁ、これ当たっちゃったんだ」っていう感じだと思いますよ。


■CITROEN C3


どれも一癖あり

荒井 この3台って、思ったよりも活発だし、自分が操って走らせている、っていう感覚が強くて楽しいんだけど、悩ましいところもある。


上田 癖があるのは自動変速機ですよね。でもMTも考えてみてはとは言いにくいんですよ。車体が小さいから右ハンドルだとペダル配置が厳しい。新しいトゥインゴのMTは未 上陸ですが、改良前のモデルはフットレストがなくてクラッチの下に左足を入れてました。500も時々M T仕様が販売されていますが、左足を置く場所がすごく狭い。


新井 左ハンドルならホイールハウスの上に足が置けるからね。


荒井 そういえば3台とも2ペダルだけど、変速機は全部違うんだ。


齋藤 まずC3はアイシンのトルコン6段ATだけど、変速がすごくタイトで流体継手の感じがしない。ただ、同じATを使うプジョー308はそうじゃないから、今後変わると思うけどね。ちなみにDS 3クロスバックと比べると、C3は一世代前のプラットフォームで、空間設計を新しい世代ほど詰めていない。右ハンドルのペダル配置だとかはC3のほうが余裕があって、少し大きいクルマに乗っているような感じがする。乗り心地がすごく柔らかいのもその感じを助長している。


荒井 あと座った瞬間に思うよね、ああ、椅子がいいなぁって。


新井 今どき高めの段差を超えた時に、クルマがふわんふわんとゆれるような動きをするセッティングも、ほかにないですよね。
上田 トゥインゴは逆で、デュアルクラッチ式なのに、まるでトルコンATみたいにスルスルと変速します。


齋藤 トゥインゴは変速プログラムが改良されて前みたいなエコ一辺倒じゃなくなったのが朗報。今回の3台の中で一番普通に走らせられる。


上田 RRだから横風の注意は必要だけど、高速巡航も快適でした。


新井 500は登場時からシングルクラッチ式自動MTのまま基本的に何も変わっていないですね。マナー 自体はだいぶ良くなりましたが。


齋藤 のんびり走るなら、あ、そろそろシフトアップするな、と分かったらスロットルを戻す。で、そろそろ繋がるな、となったら踏みはじめる。そうすればスムーズに走るけどね。元気よく走るなら、自分でティップシフトすればいい。


上田 でも流石に古い。500の北米仕様は1.4ℓターボとトルコン式の6段ATの組み合わせがあるから、それを導入してほしいなぁ。


齋藤 でも、かつてはこのサイズじゃ右ハンドルも2ペダルもあり得なかったんだから、それなりにイタリアとフランスの会社もがんばっているんだよ。


新井 ただ、500も次期型はEVって言われてるんですよねぇ。


■FIAT 500


長年培ったものがある

荒井 あとね、3台に共通していえるのは、サイズこそちっちゃいけれど、乗っていて卑屈にならない。


齋藤 それはジウジアーロが初代パンダで切り開いたんだと思う。かつての2CVや2代目チンクエチェント、クラシック・ミニ、オリジナル・ビートルなどのスタイリングは、当時の技術の中で機能を優先してしかも安く作るにはどうしたらいいかを考え抜いた結果、生まれたものだった。それが長生きしたことでアイコンになった。その後、安価なクルマのインテリア&エクステリアをどうしたらいいかっていう道筋を示したのが、彼だった。


上田 ハンモックみたいな棚やシートは、今見ても全然安普請じゃない。


齋藤 大きいクルマと同じ必要はないっていうのが、パンダ以降、ヨーロッパでは定着したんだよ。ただ、販売台数でBセグメントほど台数が見込めないのにも関わらず、幅広い客層に受け入れられなければならない。そこは大変。


荒井 いやぁ、よくやっていると思うなぁ。だって年齢関係ないでしょ、この3台。エイジレスだよ。


齋藤 女性的にも男性的にも見える。中性的と単純に言うのは違う。スマートは例外だけど、ドイツ車って、どれもすごく男性的だよね。大きいのから小さいのまで。そこがラテンのクルマは上手いよ。中性的というよりジェンダーレスなのかな。


上田 ミニもそうなんだけど、ミニよりもさらに意識が強い感じがする。


齋藤 そういうことを頭で考えなくても、たぶん自然にできるんだよ。ルノーもシトロエンもフィアットも、ずっと小さいクルマを作り続けてきたから、小さいクルマを買う人のこ とが本当によく分かっているんだね。



■ルノー・トゥインゴ EDC


駆動方式 リア横置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 3645×1650×1545㎜
ホイールベース 2490㎜
トレッド 前/後 1455/1445㎜
車両重量 1020㎏(前軸重量450㎏:後軸重量570㎏)
エンジン形式 水冷直列3気筒DOHCターボ
ボア×ストローク 72.2×73.1㎜
排気量  897cc
最高出力  92ps/5500rpm
最大トルク  13.8kgm/2500rpm
トランスミッション 6段デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション 前/後 マクファーソンストラット/ドデオン
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ドラム
タイヤ 前/後 165/65R15 185/60R15
車両本体価格 195万円


■シトロエンC3 オリジンズ・コレクターズ・エディション


駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 3995×1750×1495㎜
ホイールベース 2535㎜
トレッド 前/後 1480/1480㎜
車両重量 1180㎏(前軸重量760㎏:後軸重量420㎏)
エンジン形式 水冷直列3気筒DOHCターボ
ボア×ストローク 75.0×90.5㎜
排気量 1199cc
最高出力 110ps/5500rpm
最大トルク 20.9kgm/1500rpm
トランスミッション 6段AT
サスペンション 前/後 マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前/後 205/55R17 205/55R17
車両本体価格 258万円


■フィアット500 ツインエア・ラウンジ


駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 3570×1625×1515㎜
ホイールベース 2300㎜
トレッド 前/後 1415/1410㎜
車両重量 1040㎏(前軸重量680㎏:後軸重量360㎏)
エンジン形式 水冷直列2気筒SOHCターボ
ボア×ストローク 80.5×86.0㎜
排気量 875cc
最高出力 85ps/5500rpm
最大トルク 14.8kgm/1900rpm
トランスミッション 5段シングルクラッチ式自動MT
サスペンション 前/後 マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後 ディスク/ドラム
タイヤ 前/後 195/55R15 195/55R15
車両本体価格 259万2000円


話す人=齋藤浩之+荒井寿彦+新井一樹+上田純一郎(すべてENGINE編集部) 写真=神村 聖


(ENGINE2019年10月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

タグ:

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement