村上 日本上陸ホヤホヤのRS5スポーツバック。なにが新しいと言って、RS5自体は前からあるけどクーペしかなかった。そこに初めてスポーツバックが加わった。RSシリーズというのはアウディのヒエラルキーの中で言うと、フツーのAがあって、そのスポーツモデルがS、それとは別にアウディ・スポーツがつくっているのがRS。アンダーステイトメントなイメージが強いアウディの中で、RSだけはスポーツを前面に打ち出した突出したモデルだった。
ところが、その中で今回あえてスポーツバックを追加してきたというのは、ちょっとアウディのRSシリーズが違う局面に入ってきたかな、という感じがある。というのは、これもフェンダーはフツーのモデルより張り出しているし、それなりに派手ではあるけれど、のけ反るほどド派手な感じではなかったでしょ。
大井 そうだね。フェンダーは大分張り出しているけど、これ見よがしではない。むしろ、ライバルたちに比べたら大人しいかも。
村上 もともとRSはメルセデスのAMGやBMWのMに対抗するモデルだったわけだから、それなりの派手さが必要だった。でも、今回はスポーツバックでこれを出したということも含めて、ちょっと考え方が変わってきたのかな、と思ったの。
大井 V8を積んだ先代のRS5クーペには乗ったことがあるけれど、あれはアピール力が全然違うクルマだった。だけど、今日乗ったRS5スポーツバックは、エンジンかけて、それなりにスポーツモデルだという音もしてるし、迫力もあるんだけれど、V8NA時代に比べるとちょっと寂しい感じもある。すごいフツーに走るなという感じがした。
村上 だから、僕は見た目と走りがやっぱり一致しているなと思ったの。それなりにスポーティなんだけど、ちょっと控えめな部分もある。そのアウディならではのバランス感覚が乗り味にも出ている。だって、すごく乗りやすいクルマじゃない。特別な難しさは何もない。悪く言えば物足りないくらいフツーのクルマ。
齋藤 それは現行世代のRSからそうなったよね。ひと昔前のRSは、まるでサイボーグみたいなクルマだった。あちこちに電子制御のアクティブ・ステアやアクティブ・デフが入っていて、いろいろ介入して速いのはいいんだけど、飛び道具だらけで勘弁してよ、という感じがあった。
村上 だから、現行になってV6ターボ・エンジンになってから、いろいろなものがこなれた感じがする。
大井 本当に洗練されました、という感じになってきた。
齋藤 そうねぇ。RS6アバントなんて4WDであることを生かして、アンダーステアが出ようと構わない、とにかくトラクションで前に進むんだという結構乱暴なところがあったけどね。V10時代は特にそう。一方、歴代のBMWのMというのは、M3がV8になったりM5がV10になった時代はちょっと軸がブレている感じもしたけれど、それが一段落して、今はサーキットを走れるサイズのクルマはサーキット走行に軸足を置くみたいな過激な方向に向かっている。M3やM4なんて外観なんかマッスル・カーみたいになっている。その点、アウディは違うよね。いっそう洗練の方向に行っている。
村上 だから、今の世代だからこそ5ドアを作ろうという話になったのだと思うよ。
大井 このレベルまでの完成度になったからこそ、誰でもが買ってしまいそうな5ドアでも、買った人に文句を言われないという自信に満ち溢れている感じがある。
齋藤 フツーに乗っている時のテイストはSにすごく近くなった。パワーを引き出した時の凄さは一味違うなと思うけど、大人しく走っている限りはSとまったく変わらない。
大井 だって乗る前は450馬力でトルクも600Nmが下から出っぱなしと聞いて、これはさぞかし乱暴なクルマだろうと思ったもの。でも乗ってみたらまったくそんな感じはなかった。でも、踏むと期待どおりの速さがあって、ビックリですよ。
村上 だから、それだけ懐が深くなったということですよね。いろいろなことができるようになった。
齋藤 暴れん坊なところがないよ。トルク100%、パワー100%みたいな状況で舵を当てても、トルクステアが出ることは一切ないもの。
大井 その辺はさすがアウディという感じがある。FFモデルだって、えっ、これ4WDじゃないのというくらいの安定性を持っているから。
いかにもアウディらしいシンプルでクリーンなデザインの中に、スポーティなフィールとエレガンスをほどよく融合したインテリア。
スポーツシートはダイヤモンドステッチングが施されたファインナッパレザー製。クーペより長いホイールベースのおかげで、後席にも大人がしっかり座れるスペースを確保する。
2.9ℓV6エンジンは、90度バンクの内側にふたつのターボチャージャーを押し込んだ最新設計だ。
村上 Sと近いものになったという話があったけれど、ひとつだけSとはまったく違うなと思ったのが足の感じ。RS5スポーツバックには、ダイナミック・ライド・コントロールというシステムが使われていて、ダンパーの油圧システムを対角線でつないで同位相で伸び縮みするように制御している。それがずっとクルマを下に押さえつけているというか、路面に張りついているみたいな感じが低速時からずっとある。ギャップを乗り越えても、クルマの伸び上がりがまったくない。これだとサーキットも走れるんだろうなと思った。
大井 こういうクルマにとって、サーキットを走れることに特別な価値はないと思うけれど、たとえばニュルブルクリンクみたいに、うねりやバンプがあって、ゆさゆさ揺られるような路面でも、これは煽られないだろうなという感じはあった。
齋藤 でも、その足の良さって、ドライブ・モードをオートにしていた時、限定なんだよね。コンフォートを選ぶと、街乗りは良くても頑張ると抑えが効かないただの柔らかい足になっちゃうし、ダイナミックだと路面のうねりをダイレクトに反映して、ボディが正直に上下に動く。
大井 ダイナミックは本当に硬かったよね。ところが、オートにすると素晴らしくイイ。コンフォートとダイナミックはいらないと思った。
村上 その話と重なるかもしれないけれど、あのクルマには電子制御がいっぱい入っているはずなのに、それをまったく感じさせないのが凄い。
齋藤 アウディはすべてにおいて黒子の布の被り方を覚えたね。一昔前は黒子が全部顔を出してきていた。
大井 コーナーの立ち上がりでアクセルを多めに踏んでみても、まったく左右前後のタイヤがケンカしない。
齋藤 クワトロのアイコンになっているトカゲみたいだよね。4輪でシャカシャカと凄い勢いで無駄なく進んでいく。これぞクワトロと思った。大井トルク・マネージメントが本当にキッチリできている。
齋藤 今のM3、M4みたいなマッチョ・カーとはまったく違う。
村上 だから、ホイールスピンしないとスポーツを感じられない人とは相容れないクルマ。そういう意味では大人になったよね。RS5はクーペで乗るよりも、スポーツバックで乗った方がその知的な良さが引き立つのではないかと思う。
大井 これだけのパワーを受け止めるのだから足は当然硬いけれど、決して乗り心地が悪いほどではないし、試乗車は下ろしたての新車だったから乗っているうちにどんどんこなれていって、箱根に着いた頃にはちょうどいいと思うようになっていた。
村上 今、アウディのオールラインナップの中で、一番使い勝手が良くて、走りも楽しめて、スタイルも良くて、大きさ感も日本で乗るのにちょうどいいのがコレなんじゃないの。
大井 俺は今まで、お金があってもベース・モデル買います派だったけれど、今回コレに乗って、なんだよ、コレが一番バランスいいじゃんと思った。お金があったらこっちを買う。
齋藤 でも、1200万円以上。
村上 ボディまでフェンダーを拡げて全部作り直していることを考えると、この値段はうなずけると思うよ。
リア斜め後方から眺めると、ノーマルより15㎜拡げられたブリスターフェンダーの手の込んだ造型が良くわかる。リア・ハッチ後端に付けられたスポイラーは固定式。バンパー下部に装備されたディフューザーと大径のオーバル・エグゾースト・パイプは、これがRSモデルであることを主張する。
これまた手の込んだ造型の20インチ・5アーム・トラペゾイダル(台形)デザイン・アルミホイールを標準装備。フロントのみ、試乗車のようにオプションでセラミック・ブレーキを装着できる。荷室容量は480ℓ。
話す人=村上 政(まとめも)+齋藤浩之(ともにENGINE編集部)+大井貴之
写真=神村 聖
アウディRS5スポーツバック/AUDI RS5 SPORTBACK
(ENGINE 2019年11月号 9月26日発売)
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