塩澤 最新ドイツ車、我々が担当するのはBMWです。しかも7シリーズが3台も。
大井 なんで全部7シリーズなの?
塩澤 7シリーズの広報車が3台あると聞いた編集長が「全部並べたら迫力がある」というひと声で決定しました(笑)。
国沢 まぁ、確かに迫力はある。
塩澤 試乗車は、存在してくれてありがとうと言いたいⅤ12気筒のM760Li。それから直6ターボにエンジンが変わったハイブリッドの745e。あとは定評のある直6ディーゼルの740dのMスポーツ。12気筒とディーゼルはどちらもXドライブで4駆です。ちなみに価格は760が2570万円。740dは1355万円。745eは1221万円ですね。もちろん全部税込です。
国沢 このクラスを買うなら普通ならメルセデスのSクラスなんだけど、そこをあえて7シリーズに行く人は相当な確信犯ですよ。
塩澤 どういう人なんだろう。
国沢 やっぱりBMW好きでしょ。大井いつかは乗ってみたいクルマであることは間違いない。
塩澤 国沢さんも大井さんもBMWオーナーだから説得力がある。
国沢 BMWオーナーにとってメルセデスは最大のライバルだから、7シリーズを買うときに一番気になるのはSクラスに勝っているところがあるかどうか。
塩澤 BMWもそのへんのところはよくわかってるから、12気筒から4気筒まで全部ガチンコでぶつけてますよね。今回でいうと、Sクラスよりも乗り心地がいいかどうかがポイントのような気がしますが。
国沢 たぶん、BMW好きのお客さんは、あまり乗り心地は勝ってなくてもいいと思ってるよ。
塩澤 え、マジですか?
国沢 乗り心地をどうのこうのいうよりも、しっかり走る方が大事だと思ってる。
塩澤 乗り心地でドイツ車のベンチマークと言われた先代の7シリーズが、今回はどう変わったのか、個人的にはそこに興味があったんですが。
国沢 BMWは先代でSクラスの方向に行ったんだけど、世界的にはあまり売れなかったんだよね。だから反対に舵を切ったと思うな。
塩澤 それって、今に始まったことじゃなくて、ずっと昔からそうで、永遠に続く戦いですよね。
大井 先代の740dに乗ったときの記憶からすると、少なくとも街中の乗り心地とかは先代の方が良かったと思う。ディーゼルの振動も少なかった。
国沢 今回の740dはエンジン・マウントとか固くなってそうだよね。足回りもそういう方向に仕立ててある。その証拠にすごく良く曲がるし、走りやすい。
大井 そうなんだよ。それはビックリするよね。しかも、2000回転くらい回っていれば、振動や音なんか全然気にならない領域に入っちゃうから、実際はほとんど問題ない。
3台中、最もドライバーズ・サルーンとしてバランスが取れているのがこの740d。69.3kgmの怒涛のトルクが2t超えの巨体を余裕綽綽で加速させる。やっぱりBMWのディーゼルは凄い、と思わせるのに十分な走りっぷりだった。試乗車はハイブリッドとほぼ同様の総額304万4000円のオプションを装備。ちなみに燃費はハイブリッドの11.7㎞/ℓ(JC08モード)を上回る14.3㎞/ℓだ。
大井 それより、気になるのはデザインですよ。これまで5シリーズと7シリーズって遠目だと区別できないことがあったけど、このデザインに5シリーズと3シリーズがついて行けるとは思えない。
国沢 ベースを同じくするロールス・ロイスのゴーストに近い感じがする。全体のフォルムはこれまでのBMWと少し違って、側面なんて垂直に切り立ったように見えるもの。スクエアな感じがゴーストっぽい。
塩澤 Sクラスがどんどんアグレッシブになって、AMG顔が幅を利かすようになったのを見て、7シリーズはグッと抑えが利いてて好感度が高かったんだけど、新型はSクラスも腰を抜かしそうなんで驚いた。こういう押し出しの強いデザインは、ドイツ車が世界の流行をつくっている感じがする。
大井 オラオラ系になった(笑)。
国沢 いいじゃない、それで。
大井 でも、内装はそうでもない。国沢内装は3シリーズまでほぼ一緒です。
塩澤 そういうところはBMWらしいと言えばらしいですよ。
大井 12気筒は2500万円もするのにね。
国沢 話は変わるけど、12気筒の760って、街中で乗ってるときは面白くないんだけど、山道を走るとこれほど楽しいクルマはない。エンジンの存在感はこれが一番ある。これだけ回る感じがする12気筒も珍しい。
大井 レブリミットは6500回転なんだけどね。
塩澤 ドライブ・モードでスポーツ・プラスを選んで走っているときにアクセルをオフにするとパラパラパラっていう。耳を疑いましたよ。後席にご主人様を乗せるクルマなのに12気筒がパラパラいうんだから。しかもそれが乾いたいい音なもんだから、もうたまりません。
国沢 この12気筒、最大トルクが86.7kgmもある。しかもそれがたった1550回転から出るんだからすごい。どこから踏んでも猛然と加速する。
大井 ターボ・ラグはないも同然。国沢これはいいエンジンだと思った。
大井 エンジンは740dも良かった。4000回転も回っていれば十分なんだけど、フィールがいい。
国沢 下が良く回るエンジン。昔のグループNクラスのラリーカーみたいに2000から4000回転が楽しい。
大井 760から740dに乗り換えたとたんに感じたのは、クルマが軽いこと軽いこと。
塩澤 そうそう。760と740dの間にはけっこう大きな性格の違いがあると思った。
国沢 現実的な選択でいうと、740dはいいよ。長距離を乗る人にはお勧めだと思う。ちょい乗りが多いとディーゼルの良さが生きないので、そういう人はハイブリッドの745eの方がお勧め。家の近所を10㎞くらいしか乗らないんだったらガソリンはいらないと思う。
塩澤 けっこうEVモードで走ってみたんですが、トランスミッションにモーターが組み込まれた一体型のハイブリッド・システムというのがウリなんだけど、優秀だった。それに意外と言っては悪いけど、エンジンが生き生きしている。
国沢 4気筒ターボから直6ターボに変わって、俄然、エンジンの存在を感じるようになった。これ、音もけっこういいんですよ。
大井 さすがに「バイエルンのエンジン工場」だけのことはある。エンジンはSクラスに勝ってるね。
今回そろった3台の7シリーズ中、MないしMスポーツでないのはこのハイブリッドの745eラグジュアリーだけ。写真ではわかりにくいが、Mと比べるとステアリングのリムが細い。
試乗車には、82万5000円のリアコンフォート・パッケージや61万1000円のラグジャリー・コンフォート、59万8000円のB&Wのオーディオ・システムなど、総額302万5000円のオプションが装備されていた。
塩澤 今回の試乗車は、760と740dがMスポーツだったわけだけど、意外とMのアシも悪くなかった。正直760はもっとフワフワで超絶的に乗り心地がいいのかと思っていたけど、想像していたのとは少し違いましたね。
国沢 それはね、そういうのを望むならロールスの方に行った方がいい。さっきも言ったけど、BMWは方針を変えたと思う。
大井 オレはMスポーツのチューニング否定派だったんだけど、今回乗って考えかたが変わったね。少なくとも7シリーズのMのチューニングはマイルドで全然悪くない。山道を走ってそう思った。試乗車の3台のうちMが2台もあるというのは……。
国沢 それは、お客さんが望むからですよ。
大井 そうなんだよ。考えてみれば、やっぱりBMWのお客さんが望むのは走りなんだよね。7シリーズについて言えば、どれも走りは文句なく良かった。
国沢 やっぱりドライバーズ・カーですよBMWは。
塩澤 今回の試乗で、最初に760に乗ったときは、飛行機のファースト・クラスのような後席を見て、これは後席に乗るべきクルマだなと思ったんですが、何度かクルマを乗り換えながら走って、箱根のワインディングでまた760に乗ってみると、全然印象が違った。こんなに長いボディでも、こんなに豪華な後席でも、間違いなく760はドライバーズ・カーでしたね。それが今回の一番の驚きでした。
国沢 Sクラスに勝っているところがあるとすれば、間違いなくそこですよ。BMWはたとえ7シリーズでも運転が楽しい。
大井 その通り!
2570万円のM760Liのトピックは、V12と後席。これぞファースト・クラスと言える、文句なしの超ラグジュアリーな空間だ。
スイッチひとつで助手席が前方に移動すると、後席乗員のための広々としたスペースが出現する。
回転計は6000回転からがゼブラで、レッドゾーンは6500回転から。6.6ℓのV12は、恐ろしくスムーズに回る。アイドリング・ストップに気がつかないほどの静粛性が凄い。
740d xDrive Mスポーツ
745e ラグジュアリー
M760Li xDrive
話す人=国沢光宏+大井貴之+塩澤則浩(ENGINE編集部・まとめも)
写真=望月浩彦
(ENGINE 2019年11月号 9月26日発売)
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