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上田 試乗車はメルセデスAMG GT4ドア63S4マチック+と、E200アバンギャルドです。
村上 この2台で面白いのは、実は同じプラットフォームから作られているということだよね。この幅の広さ、懐の深さ。改めてメルセデス・ベンツは凄いと思った。
新井 AMG GTが2397万円。対するE200は733万円。価格は約3倍ですよ。
村上 これだけ値段が違う上に、方向性もまるで違う。
齋藤 いちばんパワフルなものと、ローパワーなものともいえる。639psに対して184psだから、約3.5倍だよ。とにかくレンジが広いよ。よほどきちんと基本設計に織り込まないと、こうはいかない。
村上 2台とも、もう技術的にとことんまでやっている感じがした。以前アルファ・ロメオの記事で、イタリア人が本気を出すと半端じゃないとあったけど、ドイツ人も半端じゃない。特にAMG GT4ドアは。
齋藤 イタリア人は目的に向かってまっしぐらというか、理想主義というか、理屈通りきっちり万難を排して進む、という感じだよね。でもドイツ人は違う。やれることは何でもとにかく突っ込んじゃう。
村上 これでもか、これでもか系。
齋藤 ほどほどを知らないドイツ人の極端なところがすべて出ている。
上田 マッド・サイエンティスト的。
村上 これが同じAMG GTでも2ドアの方なら分かるんだよ。だけどこれは4ドアの、しかもベースになったのはEクラスだよ?ちょっと驚きました。
新井 仮想敵がいるときのドイツほど怖いものはないんですよ。
村上 まさにそうだ。AMG GT4ドアのライバルはポルシェ・パナメーラ。スポーツカー専業メーカーだったポルシェが、気がついたらカイエンを出して、あれ、SUVもですか?と周りが思っていたら、いつの間にかパナメーラも出てきた。さすがに4ドア・サルーンまで出すとなったら、メルセデス・ベンツとしては黙っていられない。
齋藤 しかもポルシェもVWグループになっちゃったからね。
上田 一時は倒産しかけたのを500Eで助けてあげたのに。アウディもRS2で助けてましたけど。
大井 GTはドアを開けて乗り込んでも、液晶にあの顔が出る。迫力ありすぎだよ。しかもデカくて右側前方の車両感覚が非常につかみにくい。最初に小田原厚木道路を走り始めた時は、つい左に寄っちゃった。
新井 いや取り回しは全般的に厳しいですよ。前後はカメラが付いているから分かるんだけど、左右とか斜めとか、軌跡の想像がつかない。
上田 CLSなんかもそういう感じがありますが、コイツはとりわけ狭いところでは気を遣います。
村上 ところが走りだすと……これがなんというか、メルセデス・ベンツなんだよねぇ。
大井 たぶん辛いだろうな、と思いつつ狭い峠道も走ったんだけど、ぜんぜん大丈夫だったんだよ。左コーナーで2人乗りのバイクが中央線をはみ出してきたんで、とっさに速い操舵を入れたら、見事にぴっ!と反応して驚いた。
村上 僕はサーキットも走ったから、とんでもなく速いのは知っていた。ガチガチに足が硬くて乗りにくいクルマかといえば、そんなことはまったくない。一般道だとすぐに慣れて走れてしまう。とても639psもあるような特別感はない。
齋藤 普通の乗用車ベースでここまできっちり足を仕立ててあるクルマは最近乗った記憶がない。このチューニングだけで1000万円払う価値がある。いや、1000万円払ってもここまで仕上げてくるブランドはない。いざやるとなったら徹底してやるのは、アウディよりもBWMよりも、昔からメルセデスだよ。
上田 レイアウトがトランスアクスルの本家のAMG GTに対して普通の4WDだから、デチューン版とか、なんちゃって仕様と思ったらとんでもない。
齋藤 名前がメルセデスAMGとなっているモデルは、メルセデス側に軸足があって、主導権を握っている。そこにAMGのフレーバーというか、テイストを加えているだけ。だけどAMG GT4ドアは、AMG側の本音で仕立ててある感じがする。明らかにモノが違う。
村上 正直に言ってパナメーラを超えちゃうくらい、やりきってある感じがする。
齋藤 ポルシェ派の編集長がそんなことを言うとは。たぶんパナメーラ・ターボよりもすごいんじゃない。
上田 パナメーラにはスポーツ・ツーリズモはあるけど、SクラスもBMW7シリーズも、アウディA8も全部相手にしなくちゃならない。
村上 対するAMG GTの4ドアは本当に特化したモデルだからね。
大井 あ、そういえばこれ、ボディ形状は5ドア・ハッチバックなんだ。
村上 パナメーラ対抗だから(笑)。
齋藤 あのボディも理に叶っているよ。6リッターV8を載せていた時代ほどじゃないけど、4リッターV8ターボだってノーズ・ヘビーなわけだよね。まして前輪にも駆動系を抱えている。それで639psもあって、後輪にも相当なトルクを流すとなったら、いくら大きくて重いとはいえ接地荷重が必要になる。そこでリアにテールゲートを付けて後ろを重くした。とはいえ剛性は確保したいから、開口部はそこまで大きくはしない。
新井 必要な剛性をどうやって確保したらいいか、要所要所がよく分かっている気がします。何をしたらいいのか。何をしたら駄目なのか。
大井 見た目も、911に非常に良く似た、いわば911ルックのパナメーラに対して、AMG GTルックのAMG GT4ドアという関係。
齋藤 まさに。
村上 完全に拮抗している。2ドアのAMG GTは911キラーだし。
齋藤 でね、BMWにはパナメーラの対抗モデルがなかった。そうするとやっぱり世界に冠たるメルセデス・ベンツとしては、出てきた敵はやっつけないと気が済まない。
新井 でもこの後、M8のグランクーペが出ますからね。
齋藤 これでいよいよBMWも参戦ということだよ。
上田 もう1台のE200は、ベルト駆動式のスターターとオルタネーターも兼ねるモーター“BSG”と、小さなバッテリーを乗せたハイブリッド・モデルです。とはいえモーター単体での走行はしませんが。
村上 AMG GTに乗れば乗るほど際立つのが、このE200。これぞメルセデスの良心だよ。僕は1.6リッターのCクラスを持っているけど、この1.5リッターのE200ほど速くはない。街中では好勝負だと思うけど、高速道路はぜんぜんE200の方が速かった。
齋藤 最高出力は184psも出ているからね。
新井 さらにモーターで+14ps。
齋藤 E200の車重は1760kgもある。たとえ9段ATだからって所詮1.5リッターのターボだよ。いくら全開にしてもアイドリングからフルブーストなんか、かかるわけがない。それなのに何の苦もなく動く。
新井 モーターが効いている。
村上 でもモーターが加勢しているところが、もやもやっとした感じがする。エンジンだけじゃないし、モーターだけでもない。常に連携しながらやっているもやもや感が、とりわけ街中だと感じられた。1.6リッターの僕の非力なエンジンのCクラスの方はエンジンだけだから、はっきりしていて気持ちがいい。
大井 AMG GT4ドアもそうだったけど、室内がすごく静か。エンジンの音をきれいにシャットアウトしている。俺も惜しいと思ったのはモーターと変速機の制御かな。
新井 変速を伴う時にアクセレレーターを踏むと、まずモーターがなんとかしようとして、その後で変速するから、エンジンだけの仕様とは違いますよね。ワインディングみたいなところではなく、高速道路だとか、変速をあまり伴わない場所なら、すっとモーターが加勢して気持ちがいいんですが。
齋藤 峠道は急な加速力を必要とする時のシフト・ダウンが常にワンテンポ遅く感じる。でもドイツ人は日本人と違ってしつこいからね(笑)。そのうち、ああ、そんな癖もあったかな、って思うくらい洗練されたものになると思う。
新井 リングギアを使ったモーターのトルクが大きな上位車のISGだと、こういう違和感はないです。
齋藤 でも、トータルで考えればお見事だと思うよ。これだけのサイズのクルマを1.5ℓでゆうゆうと走らせるんだからね。
村上これぞ正しいベース・グレードだ。これでいいんだな、っていう感じがする。
齋藤 そこからお望みなら、上に何ステップもあるしね。なんならE63だってあるよ。
村上 そういう意味で言えば、AMGGT4ドアとはまったく逆の意味で、これでもか、これでもか系だ。今回のこの2台は、とことんやるメルセデスの好例だね。
齋藤 とにかく考えられる範囲、市販化できる範囲で全部やっちゃう。二の足を踏まない。ドイツの、メルセデス・ベンツの考えが、このEクラス・プラットフォームを使った2台に極端に現れていると思うよ
話す人=村上 政+齋藤浩之+新井一樹+上田純一郎(まとめ、以上ENGINE編集部)+大井貴之 写真=神村 聖
メルセデスAMG GT63S 4マチック+/MERCEDES-AMG GT63S 4 MATIC+
メルセデス・ベンツE200アバンギャルド(BSG)/MERCEDES-BENZ E200 AVANTGARDE (BSG)
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