奥山清行氏が着任したのは、セイコー プロスペックス LXラインのブランドアドバイザーであり、それはただ商品をデザインするだけではなく、ブランドそのものを方向づける役割を担う。これについて本人は「いま日本のモノづくりではそれが一番求められている」と語る。
「まず日本ではそうしたプロデューサー的な見方でモノを作る人は少ない。デザインは本来、内部構造や最適な素材、原価に対する費用対効果とそれに対するお客さんの期待度まで、設計、エンジニアリングからマーケティングすべてわかってないとできません。理系と文系の両面であり、それがあって初めてビジネスモデルを構築できるのです」
1968年に登場し、セイコースポーツを代表するデザインとなったダイバーズウオッチをモチーフに、誕生20周年を迎え、現代のプレミアム・スポーツにふさわしいムーブメントであるスプリングドライブを搭載する。逆回転防止ベゼルの表示板にはサーメットを新採用。300m飽和潜水用防水。写真右はチタンケースにスーパー ブラックダイヤシールドを施し、シリコンストラップを装着。ケース直径44.8㎜。写真右「SBDB037」、写真左「SBDB035」各税別68万円 数量限定各200本
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それだけ現代のデザインの領域が、販売チャネルやプロモーション、SDGsなどさらに多方面に広がっているということなのだろう。
「でも基本は、僕がお客さんだったら何が欲しいか。価格が50万円を越えてくると確実な投資価値も考えざるを得ない。長年愛用できる価値や魅力があり、次の世代に受け継がれるような商品やブランドであると納得して初めて購入できるんですよね。2年で価値が暴落するようじゃ買わないでしょう。だから開発担当者にも言っているんですよ、長く用いられている技術を使ってくださいって。技術革新も良いんだけど、信頼性が高く確立した技術だけを使って欲しい。それこそ100年後も遺るような」
そのなかで自身は、ブランドの価値を上げるチームの一員であると同時に、顧客を代表する立場ともいう。
「同じチームであってもやはり組織の中でしかできないこと、外からでないと見えないことがあります。どんな優秀な外科医でも自分の盲腸の手術はできないでしょう。ましてや企業改革は麻酔を打てないですから、そのまま切って痛みが伴う。それをやるのが僕の役割です。こうした新しいインハウスとアウトソーシングの関係は、今後日本のモノづくりでも確立されていくと思います」
こうしてスタートしたLXラインの新作は、テーマである光の演出に、セラミックスでは表現できない光彩を持つサーメットをベゼルに採用した。サーメットとは、金属とセラミックスを混合焼結した複合素材だ。
「セラミックスは研磨できる範囲が限られるのに対し、耐傷性や耐久性といった機能性を損なうことなく、艶感や色合いを備えたサーメットの魅力はとても大きい。金属と陶磁器の中間のような独特の風合いがいいですね。このプロジェクトを始める以前から素材の研究開発を進めていて、そんな素材自体を生かすこだわりは和食にも通じると思います。もちろんベゼルに合わせてダイヤルの質感や色も変えています」
ほら、顔が映るでしょう、と手にしたLXラインに満足気だ。その表情は作り手という以上に、ひとりの時計好きを思わせる。最後に訊ねてみた。プロスペックスらしさ、LXラインらしさとは?
「プロスペックスはセイコースポーツの象徴であり、まずセイコーありき。だからこそプロスペックスやLXラインが確立することによってセイコーというブランドもまた格上げすると信じています」
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文=柴田 充 写真=近藤正一
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