ウエダ ENGINEではクルマを複数所有するオーナーさんに多数登場いただいているのですが、考えてみればナベさんも該当者ですよね。
アライ RX-7とケイマンですか。
ワタナベ なんにも考えずに欲しいもの買ってたらそうなっちゃったよ。
ウエダ 明快に偏ってますよね。
ワタナベ なんにも考えずに食べたいもの食ってたら太ったみたいな話で、自分の人生全部そんな感じ。
アライ RX-7は4人乗れるじゃないですか。
ウエダ そんな無茶な……。
ワタナベ ああ見えてケイマンも荷物はしこたま載っかるんだよね。
ウエダ でも、1台が趣味車ならもう1台は人や荷物に優しい実用車というのが2台持ちの普通の感覚です。
ワタナベ まぁそう考えないわけではないんだけど、ケイマンが優秀すぎるんだよ。乗り心地もいいし取り回しは楽だし燃費はRX-7の倍近くいっちゃうし。
アライ ポルシェを軽自動車のように語らないでくださいよ。
ワタナベ まぁでも、1台をちゃんと実用車にした方がいいよなぁという気持ちは常々あるんだよ。スーパーにおつかい行った時に、生ものとか積むのに気をつかったりするし。
ウエダ まぁ今日の現場でいいクルマが見つかるかもしれませんよ。ほら、ここです。
ワタナベ お、メルセデス・ベンツ品川ですか。ここんちは新車だけでなく中古車の販売にも昔から力を入れてるんだよね。
アライ ちなみに羽田空港の第2ターミナルにあるメルセデス・ミーもこちらが運営してるようです。
ワタナベ 先代か先々代辺りのCクラス・ワゴンとか、実用車としてはいいよね。サイズも絶妙だし。
ウエダ でも、今日見に来たのはこのクルマなんですよ。
ワタナベ うひょー、これSLのブラック・シリーズじゃない。まるで実用的じゃないけど、これはこれでいいなぁ。
アライ これって、日本に何台くらいあるクルマなの?
ウエダ 並行輸入はよくわかりませんが、正規輸入されたのは12台だそうですから、この個体はそのうちの1台ですね。
ワタナベ 総生産台数も350台という話。SLRマクラーレンが2000台くらいと言われているから、その差は結構なものだよね。
アライ そうか、同じ時期にSLRがあったんだ、メルセデスには。
ウエダ カテゴリーは違いますけどマイバッハもありましたからね。どれだけ贅沢なラインナップだったんでしょうか。
アライ そういえばメルセデス・ベンツ品川は、マイバッハとSLRのサービスセンターも併設なんだよね。
ウエダ どうやらこのSL65ブラック・シリーズも、そのお客さん筋から買い取りした個体のようです。
ワタナベ この辺りのクルマは、ディーラーに飛び込みでお客さんがやってくるような類のものじゃないからね。
アライ しかしSLRがありながら、なんでメルセデスはわざわざこんなクルマを作ったんですかね?
ワタナベ これは個人的な見解だけど、AMGの意地だろうね。SLRはF1においてのマクラーレンとの結びつきで始まったプロジェクトじゃない。でもAMGは商品やレース活動を通じてメルセデスのスポーツ・イメージを長年支え続けてきた自負がある。よりトラック志向の明確なプロダクトでマクラーレンと伍した上で、バランスやクオリティは負けないという示しをつけておきたかったんじゃないかと思うんだよ。
ウエダ まぁ結果的にはAMGの側に優位な展開になりましたね。
ワタナベ SLRはコンセプトからしてスーパーカーなんだよね。だから戦果と直結していなくても商品は成立する。でもAMGの場合は元ネタありきだからその価値を高める上でレースイメージが重要な要素になる。そこを当時DTMで活躍していたCLKに担わせつつ、徹底的に先鋭化されたAMGとしてブラック・シリーズを企画したんじゃないかな。
アライ ブラック・シリーズとして世に出ているAMGって、何車種くらいあるんですかね?
ワタナベ SL65とSLK55、C63とCLK63、SLSと、多分この5つくらいじゃないかな。
ウエダ しかし写真以上に生で見ると凄まじいというか、ちょっと絶句もののエクステリアですね。
ワタナベ これ、アウタースキンはドア・パネル以外全部カーボンなんだよ。で、ルーフは固定式にして開閉システムを取っ払うと共にストレスメンバーとしても活用しているはず。あと、サスもコイル式になったりして、素のSL65に比べると250㎏も軽量化されてるんだよ。
アライ 250㎏ですか……。SLはそもそも軽いって意味でしょうけど、それはベースが重すぎるってことでもあるんだろうな。
ウエダ まぁR230はメタル・トップのオープンでサスやブレーキも凝ったメカ突っ込んでと、重量的には不利な要素が多いですから。
ワタナベ 6リッターのV12も大径タービンの採用や吸排気のチューニングで最高出力670psをマーク。でも圧倒的なのは1000Nmのトルクだね。なんかもう、ミサイルに跨ってるかのような加速感だった。
アライ 乗ったことあるんですか?
ワタナベ 運良くラグナ・セカの試乗会に行ったんだよ。
ウエダ このクルマでラグナ・セカは痺れるなぁ。
ワタナベ でも曲がる停まるはこのナリからは想像できないほど素直で、コーナーでもアクセルをより深く踏んでみようかという心理的な余裕を与えてくれるんだよ。その辺りのキャラクターが、なんだかんだ言ってもメルセデスだなぁと思った。
アライ 昔のハンマーみたいな狂気とか法外感こそがAMGの真髄だとすれば、ブラック・シリーズはそれの現代版ってことなんでしょうか。
ウエダ 結果的にこの経緯から、悲願のフルオリジナル・スポーツであるAMG GTに辿り着くわけで、彼らにとっては重要な、いちステップになったのかもしれません。
ワタナベ まぁ、このクルマを持つ人にとっての実用車はそれこそマイバッハとかなんだろうし、それに劣らぬぶっ飛んでる感が大事な存在意義だったんだろうね。

話す人=渡辺敏史(まとめも)+新井一樹+上田純一郎(ともにENGINE編集部)、写真=阿部昌也
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