スポーツ、スーパー、アルティメットに次ぐマクラーレン第4のシリーズとして登場したのが"GT"だ。ホイールベースは570Sや720Sに比べ5mm伸び、大きなガラス・ハッチの下には420リッターの荷室が備わる。中空でガラス入りのリア・ピラーのおかげで斜め後方の視界も確保されている。最高出力620ps/7500rpm、最大トルク64.2kgm/5500-6500rpmを発揮する4リッターV8ツイン・ターボはデュアルクラッチ式の7段自動MTを介して後輪を駆動。0-100㎞/h加速は3.2秒、最高速は326km/hに達する。全長×全幅×全高=4683×2045×1213mm。ホイールベース=2675mm。車両重量=1530kg。車両価格=2645万円。
私世代のおじさんたちは「マクラーレン」という言葉の響きは、どうしてもマクラーレン・ホンダF1の黄金期を思い出す。16戦中15勝はF1史に残る快挙だった。しかし、その話はもう過去のこと。最近のマクラーレンはF1とは別のビジネスで成功している。フェラーリとポルシェをライバルとするスポーツカー・メーカーとして、マクラーレン・カーの名声が浸透し始めたのである。エンジンはマクラーレンの設計ではないものの、F1と同じくシャシー性能のエキスパートとして、最高の乗り味のスポーツカーを作り上げた。
このエンジンはターボの特性を理解して乗ると驚くべき燃費で山道を走破できる。コツはこうだ。スロットルを速く開けると、レスポンスの良いターボはすぐに過給を始める。大量の空気を吸い込むので燃料もたくさん噴射されることは言うまでもない。なので、ゆっくりとスロットルを開け、ブースト圧が急激に上昇しないように気を配ればいい。ノン・ターボ領域でも排気量が4リッターもあるので不満はない。
まさしくGTだと思った。マクラーレンの試乗記でこんなことを書くのはどうかと思うが、一般公道が試乗の場であり(当然ながら)法定速度外の走行は一切していない。けれどマクラーレンGTのポテンシャルは、片鱗どころか"かなり"実感できた。とりわけスゴいのは乗り心地のよさだ。路面の継ぎ目を通過した際、入力を装着タイヤのピレリPゼロとサスペンション、ボディ骨格が総力を結集してクゥンクゥン! と丁寧に受け止め、ガツン! といった低級なショックを一切乗員に伝えてこないのだ。
これならたとえ体調が優れない時でも、あるいは長距離をこなして少し疲れているような時でも、まったくストレスを感じないで走らせていられる。だから、まさしくGTだ。それと4リッターのV8ツイン・ターボは、620ps/64.2kgmのスペック以上にパワー・フィールの"上質さ"に目を見張らされる。回転数の如何を問わずクールかつ緻密に仕事をこなしている感がマクラーレンらしい。減速時の気配など着陸態勢に入り高度を下げていく旅客機のよう。
マクラーレンの凄さは、レーシング・カーを作る手法そのままにストリート・カーを作っているところ。堅牢なカーボン製キャビン=モノセルをコアに前部にサスペンション・ユニット、後部にエンジンとリア・サスペンション・ユニットをレイアウト。サーキットを走れるスポーツカーではなく、レーシング・カーをストリート・チューンしたといった方が近いクルマなのだ。
GTは、そんなマクラーレンのシリーズの中で足まわりをもっともストリート寄りにチューニングしたモデル。サスペンションは短いストロークの中で、フラットでしっとりした乗り心地を作り出している。旋回性能もコーナーで足まわりが突っ張るような硬さは皆無。とても自然に荷重移動ができる。4リッターV8ツイン・ターボで620ps/64.2kgmを発揮するエンジンは、もちろん無造作にアクセレレーターを踏むことはできないが、シャシーがパワー(とトルク)をしっかり受け止めてくれるので、意外かもしれないがパワーを持て余す感じがない。これも凄いところ。
この大試乗会では一昨年、昨年と2年連続でマクラーレン720Sの担当になって、去年はちょっと驚いたけれど、今年もスーパー・スポーツ・カテゴリーの担当はマクラーレンだった。ただし幸いにも車種は前年と違って、最新モデルの"GT"である。さてこのマクラーレンGT、最も凄いのはその名のとおり、スーパー・スポーツの世界にGTの概念を持ち込もうとしたことだと思う。で、その名を現実のものとするために、本来は相容れない使えるラゲッジ・スペースをボディにビルトインした。そこがこのクルマの最大のポイントではないだろうか。
具体的にはフロントのノーズに150リッター、エンジン上方のテールゲート下に420リッターというもので、後者にはゴルフバックも収納可能だという。僕はゴルフをしないのでその有難みは分からないが、スーパー・スポーツで泊りの旅行に出掛けたり、ゴルフにいったりするというのは、凄いことなんだろうと思う。それでいて、ドライビング感覚はマクラーレンそのものなのが、GTのもうひとつの凄いところだ。
そもそもこんな格好をしたスーパー・スポーツに、スキー板やゴルフバックを積めるスペースなんかをわざわざ用意しなくてもよろしいのではないか。マクラーレンを所有できるオーナーならきっと複数台所有者だろうから、荷物を積むならベンテイガでもカリナンでもなんか他にあるでしょうよと自分なんかは思ってしまう。でも、何台持っていようと1番好きなクルマが必ずあるわけで、1番になれない理由がクルマの性能ではなくゴルフバックだとしたら、マクラーレンのエンジニアとしては憤懣やるかたないはずだ。
だったらゴルフバックくらいどうにかしましょうと奮起して作った、というわけではないだろうけれど、好きなクルマに乗る機会を少しでも増やしてあげたい気持ちが彼らにはあったはずだ。荷室を設けても車重は約1.5トンで、その走りに一切の妥協は見られない。ドライバーの入力に対して正確無比なレスポンスで応えるだけでなく、グランドツアラーとしての快適性も兼ね備えている。これはマクラーレンが考えるSUVの解釈なのかもしれない。
(ENGINE2020年4月号)
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