最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の劇中車に乗れる! とはいえ希少なクルマたちゆえ、あくまで体験走行かと思いきや、舞台はサーキットで、しかも何の制限もない完全なフリー走行! そこで時間の許す限り、歴代の007に思いを馳せながらボンド・カーを走らせた!
「ウォッカ・マティーニを。ステアではなくシェイクで」 そんなキザなセリフを思わず口にしたくなる。無理もない。なにせ目の前には007シリーズ第25作目となる最新作『ノー・タイム・トゥ・ダイ』に出演したアストン・マーティンのボンド・カーが、ずらりと並んでいる。2台のDB5、V8、そして現行のDBSスーパーレッジェーラ。ガレージの前にはミドシップのハイパーカー、ヴァルハラまで置いてある。そして市販前のヴァルハラ以外、思う存分走っていいというのだ!



「一番印象に残っているボンド・カーは?」と投げかけたら、ほとんどの人が1964年に公開された『ゴールドフィンガー』に登場したDB5の名を挙げるだろう。しかし残念ながら今回の試乗車にはマシンガンもオイル散布装置も防弾板もイジェクト・シートもついていない。
というのも、このクルマは主に静止シーンで使われた63年型のオリジナルだからだ。所有者は制作会社のイオンプロダクション自身で、前々作の『スカイフォール』にも出演している売れっ子でもある。
ちなみに昨年のRMオークションで6億8000万円で落札されたのは『サンダーボール作戦』公開にあわせて作られた2台のPRカーのうちの1台。『ゴールドフィンガー』で使われた各種ガジェット付きの"本物"はシャシー・ナンバーDP/216/1をもつDB5プロトタイプの1台だが、残念ながら97年にコレクターの元で盗難に遭い、いまだ発見されていない……。
話を戻そう。完璧なレストアが施されていることもあり、丁寧な操作さえ心がければDB5を動かすことは難しくない。しかし速く走らせるとなったら話は別だ。ノーズに収まる280hpの4ℓストレート6はレスポンスも良く扱いやすいのだが、ノン・アシストのステアリングは想像以上に重く、コーナーでは頑固なアンダーステアに終始するからだ。
解決策はただ1つ、リア・タイヤを滑らせながらアクセレレーターで積極的に曲げてやるしかない。だが、相応の腕と実勢相場1億円以上という事実を気にしない度胸が必要となる。
『ゴールドフィンガー』で、敵のアジトの中でショーン・コネリー演じるボンドが派手なカー・チェイスを演じるシーンが、よく見ると若干早送りになっているのは、きっとそういう理由なのだろう。
ところが『ノー・タイム・トゥ・ダイ』の予告編では、ダニエル・クレイグ演じるボンドは軽々とDB5を振り回し、ヘッドライト裏から飛び出すマシンガンを乱射しながらドーナツ・ターンを決めているのだ!



その謎を解く鍵が、会場にあったもう1台のDB5だった。「これは映画のために8台のみ製作されたスタント・カーです。寸法も外観もDB5そのものですが、中身は現代のテクノロジーで作られています」
と教えてくれたのはMI6の秘密兵器開発担当"Q"……ではなく、アストン・マーティンのスペシャル・プロジェクト部門のエンジニア、ベン・ストロングだ。
スタント・カーのボディは本物からスキャンしたカーボン製で、チューブラーフレーム・シャシー、前後ダブルウィッシュボーンのサスペンションはプロドライブらの協力で開発されたものだという。
まるでBTCCマシンのように入り組んだロールケージの間を潜り込み、カーボン製のバケット・シートに座る。ドライビング・ポジション自体は意外にもDB5と変わらないが、そのドライブ・フィールはまったくの別モノ。一言でいえば、めちゃくちゃ面白いのだ!
某社製という自然吸気のエンジンはトルクも厚くてパワフル。唯一ノン・サーボのブレーキだけは慣れるまで注意が必要だが、ゴーカートのようにダイレクトなハンドリングのシャシーは、軽くてバランスもよく、グリップ走行もドリフト走行も意のままだ。なるほど、これなら予告編の迫力ある映像も納得できるというものである。
今回のもう1つの驚きは、87年公開の『リビング・デイライツ』でも使われたV8だった。警察無線を傍受するフィリップスのオーディオがそのまま残されていたのにも感動したが、それよりも印象的だったのは、繊細なレスポンス、湧き上がるパワーとトルク、乾いたエグゾースト・ノートをもつ絶品の5.3ℓV8DOHCだ。
これがあればミサイルもロケット・ブースターもいらない! 325hpのパワーをフルに使って振り回せるシャシー・バランスも素晴らしく、これなら縦横無尽に雪原を逃げ回り、国境突破の脱出劇を図ることも十分に可能だと思えるほどだった。







最後に乗ったDBSスーパーレッジェーラの素晴らしさについては、改めて書くまでもないだろう。ボンド・カーの条件。それは何事においても一流、最高であるとともに、抜群のエレガントさと、ちょっとした"男臭さ"が同居していることだ。そういう意味でもボンドの審美眼は、2020年の今もまったく衰えていないといえそうである。


文=藤原よしお 写真=アストン・マーティン
(ENGINE2020年5月号)
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