2020.05.29

CARS

メルセデスAクラスに新たに加わったセダンとアウディA3セダン対決 偉大なる普通のクルマ

正統派のコンパクト4ドア・セダンは元々、中国市場を見据えて開発された。しかし、ダウンサイジング化が進む現在、サイズだけでなくクルマの出来自体も1クラス上、いや2クラス上から乗り換えても、不満を一切感じないようなものになっていた。


正統派の4ドア・セダン

新井 最新モードの4ドア・クーペの次は正統派の4ド1台はアウディA3セダン、もう1台は最近日本に導入されたメルセデス・ベンツAクラス・セダン。このクラスは元々、セダン人気が高い中国市場を狙ったモデルで、一番早かったのは2013年にA3セダンを導入したアウディです。


村上 Aクラス・セダンが日本に上陸したのは昨年の秋だったっけ?


新井 2019年の7月です。


村上 一方、A3はこの3月にハッチバックがフルモデルチェンジしたから、セダンが新しくなるのも時間の問題。モデル末期と言っていい。


荒井 ここにBMWは居ないんだね。


新井 実はBMWにも前輪駆動になった新しい1シリーズ・ベースのセダンがあります。ただ、現状は中国専用車で、日本はもちろん、ドイツをはじめ欧州にも導入されていません。


村上 今回借り出したのは、Aクラスが250の4マチックで、A3が30TFSI。


新井 日本で買えるラインアップの中で、AクラスがAMGを除く最上級モデルだったのに対し、アウディは一番安価な仕様です。



村上
 A3はシートがファブリックで、そのほかのつくりも簡素だった。


荒井 ホイールも小さかった(笑)


村上 僕はA3のセダンが出てすぐ、まだ日本に上陸していないときに海外で試乗したんだけど、そのときは「こんな地味なクルマで大丈夫か?」と思った。アウディは元々アンダー・ステイトメントなクルマだというけれど、乗ってみると、ハッチバックのA3がスポーティで軽快感を強調していたのに対し、セダンは凄く落ち着いていた。その印象は今回乗っても変わらなかったんだけど、今乗ってみるとこの素朴な味がすごくいい。


荒井 AMGラインも付いたスポーティ感全開のA250と比べるとなおさらだよね。



齋藤 AクラスにだってA180という今回のA3みたいに落ち着いた仕様もあるんだよ。


村上 セダンはCLAと比べると後ろが踏ん詰まって見えるというか、ちょっとずんぐりした感じがある。


新井 Aクラス・セダンはCLAクーペと比べると全長が10㎝以上短い。ちなみにA3セダンはAクラスよりさらに10㎝コンパクトです。


齋藤 ただ、Cクラスもロング・ノーズ&ショート・デッキだから、前の方が長いことに違和感はない。今のメルセデスのセダンはあえてリアのオーバーハングを長く見せようとしていないからね。AクラスもS、E、Cクラスと流れるメルセデスのセダンのデザインを受け継ぎつつ、ただ全長が短いだけ。


新井 ジジ臭くない洗練されたデザインだと思います。


村上 それに対して、A3はきっちりしたデザインになっている。


新井 デビューからすでに7年近く経っているけど古さを感じません。


荒井 A3のスタイリングは上手だと思ったな。ただ、内装はAクラスと比べると時間の経過を感じる。


齋藤 Aクラスは最先端を行っているからね。


新井 僕はちょっとやり過ぎかと。


荒井 俺は全然大丈夫だけどな。新しいものに乗っている感じがする。


齋藤 荒井さんはスマホを使い始めたのが早かったから。スマホ世代。


村上 還暦過ぎたスマホ世代なんか居ないよ(笑)


アウディA3セダン30TFSI


素朴なA3

荒井 BMW2シリーズを走らせたときに「3シリーズに似ているな」と思ったのと同じように、A3を走らせたときも「これA4じゃん」って思った。同じ魂が宿っているって。


新井 広報車で用意されるアウディは、上級グレードでさらに硬めのサスペンションと大径ホイールを組み合わせた"Sライン"が装着されているものが多く、素のアウディに乗るのは久々でしたが、「なかなかヤルじゃん」って思いました。


村上 素朴だったよね。


新井 良く出来た実用車って感じです。オプション抜きの価格ですが、これで323万円は安い。ゴルフのハイラインの338万円と比べても訴求力はかなりあると思います。


荒井 A180セダンはいくら?


新井 347万円。A3の24万円高です。アウディの方が安い上に標準仕様での安全装備が充実してます。



村上 A3は本当に欲しいと思った。必要最低限のものは備わっているけど、過剰なものは付いていない。こういうクルマが家にあったらいいなと思った。走りの印象も同じ。僕が以前持っていた先代のA4はスポーティな味つけだったけど、これはシンプルで素朴な味だった。最初に海外で乗った時は「中国向けだからこういう味付けなんだ」とあまり感心しなかった記憶があるんだけど……。


齋藤 それはケガの功名というか、中国市場のためにこのサイズのセダンを作ったことが結果的にダウンサイジングを促しているんだと思う。なぜなら、A6やA4からサイズを下げたいと思ったときに、ハッチバックに乗り換えるというのはライフスタイルの劇的な変化を伴うからさすがに敷居が高い。でも、セダンなら車体をひと回り小さいものにする、ただそれだけのことで済む。


荒井 もちろんA3セダンもアウディのヒエラルキーの中に居るんだけど、A4に対して見劣りしないというか、「あえてA3を選んでいるんです」という賢いイメージを受ける。でも、Aクラスは上の方にCクラスが存在する感じが拭えないんだよな。


村上 僕は逆だな。A3の方がむしろA4の下に居る感じがする。



齋藤 もちろんA3とA4を比べると、A4はクワトロがメインでエンジンも縦置きといったように機構に大きな違いがあるけど、派手すぎないアンダー・ステイトメントなデザイン、上質な室内の作り、オーソドックスなセダン・スタイルといった意味ではA3とA4は何も変わらない。


新井 顔も似てますしね。


齋藤 とくに4輪駆動を必要としない人にとってはA4よりも説得力が高い。今のA4はクワトロありきの基本レイアウトで、4輪駆動もオンデマンドではなく常時噛み合い式のため、前輪駆動だと何か足りない感じが拭えない。でも、A3はもともと前輪駆動が基本だからね。


荒井 A3はすごく自然だった。


齋藤 生成りな感じね。


メルセデス・ベンツA250 4マチック・セダン


至れり尽くせりのAクラス

村上 一方、A250はパワフルで、至れり尽くせりで、何の文句もつけようがないくらいいいクルマだった。


齋藤 運転している限りはCLA250と同じクルマだったね。


村上 A250にはA250の良さがあり、A3にはA3の素朴な良さがある。ただ、もし買うならとどっちいう話をすれば、僕はA3だな。


新井 A250はCクラスを不要だと思わせる上質さがありました。パワフルだし、4輪駆動だから万能だし、乗り心地もいい。


齋藤 たとえばEクラスから2つ飛びとか、Cクラスの高額なモデルからダウンサイジングする人にとってはいい受け皿なんじゃないかな。


荒井 しかもトランクはデカイし、車体がコンパクトだから取扱いはラクだし、これ1台あったら全然オッケーじゃんと思った。


村上 ただ素朴さはなかったな。


齋藤 滑らかにするとか、ハイパワーを受け止めながらも乗り心地を良くするとか、とにかくやれることは全部やってあります感はある。


村上 今回のA3とは対極にある。


齋藤 Aクラスだって180なら素朴なはずだよ。


村上 A180と今回のA3を比較するというのをやってみたいね。


齋藤 そこでもハンドリングとか乗り心地とか、アウディとメルセデスのクルマの考え方の違いというのがちゃんと出てくるはず。このA3だって、アウディの特徴が良く出ていたと思うよ。基本的に脚もタイヤも柔らかく、まとまりのいい穏便な性格なんだけど、ロールは嫌いなんだよね。バウンシングをよくさせるものの、深いロールをさせないセッティングになっていた。


齋藤 クワトロが要らないんだったらA3でいいじゃないか。


新井 でも4輪駆動のA3も以前乗りましたけど、よかったですよ。とくにS3は。速くて上質でしたよ。



村上 いずれにしろ、両方のクルマにすごく感心したのは間違いない。A3セダンがこのジャンルの先鞭を付けたと思うと感慨深いな。


齋藤 ハッチバックに抵抗がある人って少なからずいるんだよ。見え方が全然違うからね。フォーマル性がスタイリングに保たれているのはもはやセダンしかない。逆にフォーマル性を求める人がいなくなったからセダンがすたれたとも言える。


荒井 この手があるんだという気がした。偉大なる普通のクルマ。


村上 まさにそれがA3セダンの本質だね。言い得て妙だと思う。


荒井 この大きさで、こういうことができるんだというのが、「恐れ入りました」という感じがした。


村上 このクラスが普通のクルマとしてスタンダードなんだと思う。


荒井 クルマの中心はSUVで、セダンは完全に終わったなという感じがあったけど、今回2台に乗って、セダンもまだまだ"アリ"なんじゃないかって思った。



齋藤 A3ってセダンもハッチバックもこのクラスで一番実直だからね。奇をてらっていない真っ当なパッケージングを持っている。


荒井 それにしてもアウディもメルセデスも底力があるよね。


齋藤 長い間、このコンパクト・クラスはドイツのプレミアム・ブランドにしてみれば主戦場ではなかったのに、本気でやるとこれだけのものが作れて、「日本車? バカ言ってんじゃないよ」っていう感じにする。


荒井 それがスゴイと思った。


新井 カローラと同じサイズですからね。カローラは新型でかなり良くなったけど、A3に乗っちゃうとその差を歴然と感じざるを得ません。



齋藤 人は何のためにお金を払うのかということを日本メーカーは解っていない。アウディには「なんでそこまでやる必要があるの?」という突き抜けたところが至るところにある。空調のスイッチひとつ取っても全然違う。これが小さなオーソドックスなセダンといったらアウディA3のセダンなんじゃないの。Aクラスの方は若い人向けだよね。


村上 このクラスはセダンだけでなくハッチバックを含め、アウディのまとまりが一番よかったな。


荒井 やっぱり、アウディ、BMW、メルセデス・ベンツは三すくみになって戦っているから、クルマはドンドンよくなるんだよな。


齋藤 ドイツのプレミアム・リーグは歩みを止めたところから脱落するからね。おそらくアウディに続いてメルセデスも本格参入となればBMWも1シリーズのセダンを中国だけでなく、ワールドワイドに展開せざるを得ないことになるだろう。


■アウディA3セダン30TFSI


駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4465×1795×1405㎜
ホイールベース 2635㎜
トレッド 前/後 1555/1525㎜
車両重量 1330㎏
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V直噴ターボ
総排気量 1394㏄
ボア×ストローク 74.5×80.0㎜
最高出力 122ps/5000-6000rpm
最大トルク 20.4kgm/1400-4000rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/マルチリンク式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前/後 205/55R16
車両価格(税込) 323万円


■メルセデス・ベンツA250・4マチック・セダンAMGライン


駆動方式 フロント横置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4560×1800×1430㎜
ホイールベース 2730㎜
トレッド 前/後 1560/1565㎜
車両重量 1550㎏
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V直噴ターボ
総排気量 1991㏄
ボア×ストローク 83.0×92.0㎜
最高出力 224ps/5500rpm
最大トルク 35.7kgm/1800-4000rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/マルチリンク式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前/後 225/45R18
車両価格(税込) 511万円


話す人=村上 政+齋藤浩之+荒井寿彦+新井一樹(まとめ)(すべてENGINE編集部) 写真=望月浩彦 取材協力:アウディジャパン販売


(ENGINE2020年6月号)

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