2020.08.14

CARS

自動車ジャーナリストの大先輩、吉田匠さんが何台ものクルマを乗り継いで、ついにたどり着いた究極のポルシェとは

自動車ジャーナリストの吉田匠さん

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それは、イエローとサファリブラウンの中間的な色のクルマだったが、目黒通りから撮影場所の神宮球場までの下道を、当時最もスタンダードなその911のステアリングを握ってごく普通のペースで走った往復1時間ほどのドライビングで、僕は驚くほど大きな衝撃をうけた。

当時の印象では、金庫のような剛性感のボディ、その下でスムーズに動く適度に締まった脚、路面感覚を繊細に掌に伝えながら、すこぶる滑らかな操舵感を提供するステアリング、低回転からも充分なトルクを捻り出しつつ、スロットルに即応してスムーズに回転を上げる空冷フラット6、ストロークは長めだが、独特のまろやかさでギアが噛み込むポルシェ・シンクロ5段ギアボックス、それに文句なしのブレーキ。

すでにカレラRS3.0は経験していたが、あちらは超硬派なモデルで、乗ったのもテストコースと箱根という、飛ばしモードの舞台だった。一方、素の911Sで都内の下道という日常的な舞台をゆっくり走ってみて、逆に911の本質的な魅力が鮮烈に見えた気がしたのだ。

だから僕はやがて911の魅力にとりつかれ、87年、ちょうど40歳の年に、9年落ちの911SCSを入手。それ以降も、84年カレラ、65年SWB911、91 年964カレラ2と、あいだにカニ目やジュニアZなんかを挟みつつ911を4台乗り継いだ末、今は同じポルシェでも先祖返りして、62年の356B1600スーパーに乗っている。

この356Bは、乗り始めて今年で10年になるが、未だに飽きることがない。そこには40年以上前に乗って衝撃をうけた77年911Sと同じく、操縦感覚と乗り味にポルシェらしいクォリティ感溢れる心地好さが備わっているから、飽きないのだと思う。1.6リッターフラット4は75psしかないが、車重は900kgと軽いのでパワーに不足はなく、ヒストリック・カーのラリーなんかに出ても、悪くないペースでスポーツ・ドライビングできるのも好ましい。

自分の人生に採り入れることが不可能でもよければ、経験済みの衝撃的なクルマはたくさんある。フェラーリでいえばF50、ランボルギーニならミウラ、ポルシェならカレラGT、いやいや73年カレラRSも、964RSも素晴らしい。けれど、現実の自分の人生とリンクさせることが可能な一台というと、やっぱり今の356Bになるんだと思う。

文と写真=吉田 匠



(ENGINE2020年7・8月号)

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