2020.09.03

CARS

ほぼ1/1のプラモデル! 露天の駐車場で部品を外し、部屋で仕上げてまた組み立てたと言うクルマ好き編集者の愛車遍歴とは

かつて伊トリノ郊外にあったスティーレ・ベルトーネで対面したランチア・ストラトス・ゼロ。

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これまで出会ったクルマの中で、もっとも印象に残っている1台は何か? クルマが私たちの人生にもたらしてくれたものについて考える企画「わが人生のクルマのクルマ」。ENGINE編集部員の上田純一郎が選んだのは、「フィアット・ベルトーネX1/9&ランチア・ストラトス・ゼロ」。幼い頃からの憧れのクルマはランチア・ストラトス。大人になって、心惹かれるクルマには共通点があることに気がついた。そして、手に入れたのが……。

いつかはストラトス!

2台乗り継いだX1/9。1台目はフィアット・ブランドの初期型、2台目はベルトーネ・ブランドの後期型。いずれも手に入れて最初にした作業は、デカくゴツく格好悪いバンパーを外すことだった。

いつかはストラトス。そう最初に意識したのはいつのことだったか。

スーパーカー・ブームは地方住まいの小学生には無縁だった。身の回りには消しゴムもミニカーもなかった。でもただ1つだけ、スーパーカー・グッズが今も手元にある。約40年前の、お気に入りだったトンボの色鉛筆。周囲はかすれているが、土煙をあげ、こっちへ向かって走るド派手なカラーリングのランチア・ストラトスは、色鮮やかなままだ。


免許を取ることができる年になり「“セブン”っていったら、RX-7じゃなくてスーパーセブン」なんていうクルマ好きの友人の影響で手にした自動車雑誌のおかげで、心の中でストラトスが再燃した。アウトビアンキA112ラナバウト、フェラーリ・レインボー、ランボルギーニ・ブラボーといった、いわゆるウェッジシェイプと呼ばれるくさび形のコンセプトカーたちが、無性に心を揺さぶることにも気がついた。どれもマルチェロ・ガンディーニという一人の男が生み出したと知ったのは、さらに後のことだ。

社会人になり、がむしゃらに働いて貯めたお金を元手に、自動車雑誌の個人売買欄で見つけたフィアットX1/9のレストアをはじめた。エンジン不調。元は金色の車体は赤く塗装済みで、価格は確か28万円。同じガンディーニ作のイタリア産2座ミドシップ・スポーツカーだ。生意気にも、いつかストラトスを手に入れた時の練習だと思ったのである。

工具をそろえ、パーツを集め、露天の駐車場で1つ1つ部品を外し、部屋に持ち帰って仕上げてまた組み立てる。ほぼ1/1のプラモデルだ。小学生時代に熱中したガンプラ造りが役に立った。ところがある程度見られるようになったので仕上げを専門店へ依頼すると、想像以上にオンボロなことが発覚。床に大穴が開き、エンジンはブロー寸前だった。

結局動き出すまでに1年以上掛かっただろうか。その間にX1/9を持っていることが功を奏し、輸入車専門誌にバイトとして潜り込んだ。仕事と趣味の境はなくなり、暇さえあればメカニックの話を聞き、時に一緒に手を汚して教わった。もう1台ボディの状態のいいX1/9を手に入れ、部品を移植し、全塗装し、足まわりをワンオフで作り、多くのプロフェッショナルにおんぶにだっこしてもらい10年乗った。ひたすら直してイジったおかげで、オリジナルの良さを超えるのは、そうそう簡単ではないことも学んだ。

その後渡り歩いた某誌で“21世紀に連れて行きたいクルマ”というお題が出され、2台目のX1/9を買った店から橙色のストラトスを借り出した。価格は980万円。すべて投げ出せば買えると悩んだが、結局断念した。さんざんX1/9で学習した自分には、納得のいく程度じゃなかったのだ。

ストラトスへの憧れが変化したのは、2001年にトリノのベルトーネに赴き、コンセプトカー、“ストラトス・ゼロ”に触れてからだ。ステアリング・コラムを手前に引き出し、コックピットに潜り込んで見た光景は、19年経った今も目に焼きついている。恐ろしく低く開放的な視界。巨大な縦長の計器パネル。ラリーカーとしての機能を盛り込まれた市販型のストラトスより、はるかにエッジの効いた、ガンディーニが描いた原始のゼロこそが、自分が求める真の姿と気づいてしまったのだ。

ゼロは走行可能な個体が現存するが、もはや博物館行きのレベルで個人が手に入れられるようなものじゃない。だから最近夢想するプランは、ストラトス・レプリカのビルダーに、よりゼロに近いものをオーダーすること。たとえばゼロと市販型ストラトスの間を繋ぐ、1972年のトリノで披露されたプロトタイプはどうだろうか。両者の雰囲気がほどよく混じり合っていて、ガンガン乗って走らせることもできる。実際、これを造ってしまった猛者もいる。

いつかはストラトス。思い続ければ願いは叶う、かもしれない。

文=上田純一郎(ENGINE編集部)

2台乗り継いだX1/9。1台目(写真上)はフィアット・ブランドの初期型、2台目はベルトーネ・ブランドの後期型。いずれも手に入れて最初にした作業は、デカくゴツく格好悪いバンパーを外すことだった。

(ENGINE2020年7・8月合併号)

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