2020.08.16

CARS

新型ポルシェ911を大解剖! ドイツで行われたニューモデル・セミナー詳報!!

ウェット・モードの威力

一方、パワートレインに関しても、ブラッシュアップという範疇を超えた大改良が加えられているのも、今回のフルモデルチェンジの注目点というべきだろう。8段化されたPDKのギアボックスは新開発のものだし、エンジンもインジェクターやバルブ・ストロークの変更のみならず、ターボやインタークーラーが全面刷新された結果、30psアップの450psを叩き出しているのだ。恐らく、数字以上に吹け上がりのフィールが良くなっているだろう。


4WDモデル用の前輪駆動システムも新設計されている。トランスファーにはこれまでの油圧式に替わり、電動式のマルチプレート・クラッチを採用。よりきめ細かな制御を可能にするとともに、トルク許容量を10%、熱交換器の導入により冷却性能も300%アップさせて、パフォーマンスの向上を図っている。ウェット・モード時には、より多くのトルクを前輪に配分する。
PDKのギアボックスは完全新設計。ただし、新型パナメーラに最初に導入されたものと歯車や油圧システムなど多くを共用したモジュラー形式となっており、それを911用にアレンジしている。先代の7段から8段となり、構造も3軸から4軸へと変更され、長さは不変だが幅が拡がった。トルク許容量は800Nm( 81.6kgm)まで。注目すべきは、2 枚のクラッチとエンジンの間に電気モーターを入れるスペースを備えていることだ。


さらに、これはシャシーにかかわることだが、エンジン・マウントの位置まで変更されていることにも注意しておく必要があるだろう。これにより振動が大幅に改善され、快適性とダイナミック性能の両方にいい影響をもたらしているという。


基本は先代のキャリーオーバーとはいえ、多くの改良が加えられたフラット6ターボ。ピエゾ・インジェクターを採用し、より効率的な燃料噴射を実現するとともに、バリオカム・プラスを使ったふたつの吸気バルブのストロークを不等とするなどして、燃費向上を図っている。/先代では左右同じパーツを使っていたターボも、マニホールドとともに完全に左右対称になるよう新設計され、レスポンスと燃費を向上。同時にタービン側の羽根を+3㎜の48㎜に、コンプレッサー側を+4㎜の55㎜にしてパワー向上も図った。ウェイスト・ゲートの開閉は電気モーター式に。


先代991型ではエンジンの左右両側にあったインタークーラーを、992型ではエア・フィルターがあったエア・インテークのすぐ下に変更して両者の位置を交換。その結果、より多くの冷却用空気を取り入れられるようになるとともに、インタークーラー自体も14%大型化して、冷却機能の大幅な向上に成功した。


991型ではエンジンのクランクシャフト部分がクロスメンバーを介してサブフレームに結合されていた。992型ではエンジンの搭載位置は不変だが、ふたつのマウントを168㎜前方かつ各113㎜外側にズラして、シリンダーヘッドとサブフレームがほぼ直結するような構造に変更した。その結果、振動が減衰し、快適性もダイナミック性能も向上したという。

また、ダイナミック性能を高める一方で一般道での乗りやすさの向上に大きな注意が払われていることも、新型の重要な特徴である。先月も書いたように、新型911カレラSのニュルブルクリンク北コースでのラップ・タイムは先代より5秒速い7分25秒だが、本当は10秒くらい速くすることも十分に可能だったという。しかし、その5秒を詰めていくよりも安全性や乗りやすさを向上させることに注力したという話だった。


その象徴がウェット・モードの採用である。フロント・ホイールハウス内のレイン・センサーが雨を検知するとインパネ内に表示されてドライバーにウェット・モードを使うよう促す。ウェット・モードを選ぶとコンピューターが統合制御してトルク配分からブレーキ、リア・スポイラーまであらゆる機能を雨に適したドライビング・プログラムに変更する。その威力は絶大で、同乗試乗で体験したところでは、ノーマル・モードではあっという間にドリフト状態になったウェット・コースを(それはそれで楽しかったが)、横を向くことがないのはもちろん、早め早めにクルマが勝手に対処してくれるので、ほとんど顔色ひとつ変えずといった案配でいとも簡単にクリアしてしまったのである。これは凄い!


フロント・エアインテークのフラップは70~150㎞ /hでは燃費向上のため基本クローズ。150㎞ /hで開き始めて170㎞ /hになると完全に開く。スポーツ・モード選択時は常に全開になる。先代より25%表面積が拡大したリア・スポイラーは、90㎞ /hまでは基本的に格納、それを超えるとエコ位置、さらに150㎞/hを超えるとパフォーマンス位置に動く。スポーツ・モード選択時は90㎞/hからその位置になる。
ウェット・センサーはフロントのホイールハウス内の黄色い印の位置に装備される。


もちろん、グランプリ・コースでの走りも凄まじかった。Sと4S双方の助手席に乗ったが、やはり豪快だったのはSで、手練れのテスト・ドライバーの手にかかるとドリフト自由自在。4Sはそれよりずっと安定感が高く、やろうと思えばドリフトもできるが、それよりも安定して速い走りが真骨頂という感じだった。


いよいよ、自分で新型の走りを試す日が待ち遠しくなってきた。


文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=ポルシェA.G.


(ENGINE2019年3月号)

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文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=ポルシェA.G.

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