2020.08.30

WATCHES

アイ・ダブリュー・シー・シャフハウゼン/パイロット・ウォッチのシンプルな表情に妥協なき職人魂を秘める

ビッグパイロット/46.2㎜径の大型ケースにリベット付きカーフストラップやオニオン型リュウズ、視認性の高いダイアルなど、オリジナルの意匠を継承しつつ熟成を重ね、より細部を洗練させた人気定番。軟鉄製インナーケースに守られた自社製キャリバー52110は、IWC独自のペラトン自動巻き機構にセラミック製パーツを備える。7日間パワーリザーブ表示は3時位置に配置。ステンレススティール、6気圧防水。税別145万5000円。

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いま着けたいのは、“物語” のある時計--。その興味深いストーリーを知るほどに魅力は深まるばかり。ここに現代の名品たちを主役にした珠玉の短編集を編んでみた。



IWC SCHAFFHAUSEN

航空界で旅客機の運用が始まったのは1930年代。米国のダグラスDC-3が処女飛行に成功し、ヨーロッパではユンカースJu-52が1935年から旅客を乗せて飛行した。欧米で海外旅行が少しずつ増えていったこの時代に、コックピットの磁気の影響や計器に注目したのが、名門IWCシャフハウゼンである。


ブランド名の“シャフハウゼン”とは、1868年にIWC(インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)が創業したスイス北東部の地。フランス語圏にあるスイス時計産業の中心から遠く離れ、ドイツとの国境沿いに位置する古都で、ライン河の水力発電を利用して時計製造を始めたのは米国人時計師だった。そんな特異性が、スイス時計界とは一線を画す質実剛健なIWCの独創性や革新性の要因になったともいえる。


IWCが最初の航空時計を開発したのは1936年。航空航法を支援する技術が未熟で、空を飛ぶことがまだ危険な行為だった当時、その腕時計は多くのパイロットから飛行時の必需品として歓迎された。続く55mm径の特大ケースに懐中時計用のムーブメントを搭載した1940年初出のビッグ・パイロット・ウォッチを経て、1948年には不朽の名作マークⅪが完成する。


いまも名機と名高い手巻きキャリバー89を耐磁性軟鉄製インナーケースに収め、さらにステンレススティールケースに収納した二重構造により、コックピットで猛威をふるっていた磁気をブロックすることに成功した。また、ダ イヤルはJu-52のコックピット計器にインスピレーションを得て、黒地に明るい色の針を合わせて瞬時の視認性を高めた。マークⅪの傑出した完成度は世界に認められ、1948年から1981年まで英国空軍に制式採用されたのである。


マークシリーズは進化を続けてロングセラーとなり、2016年には現在のマークⅩⅧが誕生した。6と9のインデックスが久々に復活し、12時位置の3角マークを少し下げてバランスを取った現行ダイアルは、マークⅪの表情に近い。そして耐磁性軟鉄製インナーケースを収めた裏蓋にはJu-52の機体が刻印されており、自らのアイデンティティを強く主張しているかのようだ。




一方、IWC航空時計の長い歴史のなかで派生したモデルも多岐にわたる。2003年にスピットファイアが鮮烈にデビューしたほか、米海軍エリートパイロット養成学校の通称名を冠したトップガンも人気を博す。また、自身がパイロットで、飛行機にまつわる小説も多いアントワーヌ・ド・サンテグジュペリの世界観を表現したモデルや、彼の代表作『星の王子さま』にまつわる“プティ・プランス”を2015年から継続するなど、パイロット・ウォッチ・シリーズは壮大な物語性を備えた一大コレクションへと成長した。


IWCの基本理念は「プローブス・スカフージア(シャフハウゼンの優秀な、そして徹底したクラフツマンシップ)」というスローガンに集約される。創業以来、スイス・シャフハウゼンから世に送り出された数々の技術的な業績や革新は、職人気質のこだわりとともに、現行モデルにも脈々と受け継がれているのだ。


文=大野高広 写真=近藤正一
(ENGINE2020年9・10月合併号)

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