村上 ポルシェはタイカン開発にあたって、何はともあれ紛うことなきポルシェのEVをつくろうとしたというんだけど、その必要条件が3つあった。(1)ほかのEVに負けない性能、(2)ひと目見てポルシェと分かる外観、そして(3)日常的に使える実用車であること。でもこれ、実はすべてのポルシェに共通することだ。
上田 性能はテスラのような一発の速さより、連続してその速さを引き出せることを重視したようですね。
塩澤 見た目は間違いなくポルシェ。ボクはひと目見てパナメーラよりずっと911的だと思った。遠目からだったり、真後ろから見るとそういう雰囲気が強くなる。タイカンの向こう側に911が見える。
村上 性能も見た目もいろんな意味で911がベンチマークなのは間違いない。でも911よりさらにスポーツカーとして秀でた面もあるよ。リア・オーバーハングに重いエンジンを載せる必要もない。だから運転をしているとミドシップのクルマに乗っている気がする。高級車でありながらバランスのいいスポーツカー。
塩澤 背中の後ろからエンジン音はしないし、後ろから蹴り上げられて進むような感覚もない。だから未来の911に乗っているような感じがする。ポルシェは4ドアの911を昔から模索してきて、結果今はパナメーラがあるけど、4ドア911の解はタイカンだったのかも。
村上 1つだけ日本で乗ってアレッ、と思ったのはサウンドかな。海外試乗会で乗ったタイカンはブレーキを踏むとブリッピングみたいな音を出した。いろいろな声を聞いて調整して変えたのかもしれない。
上田 サーキットでも出なかった?
村上 出ないんだよ。どんどんアップデートしているのは間違いない。逆に同じだと思ったのは、上田くんの感想に関連するんだけど、タイカンはEVらしさを強調しようとしてはいない。これまで内燃機関の自動車に乗ってきた人でも違和感を覚えない、そういう仕立て。速度が上がるにつれサウンドが盛り上がっていくところとか、回生ブレーキがワンペダル・ドライブを受け付けないようになっているところとか。
上田 VWグループのEVはパドルで回生の調整ができましたが……。
村上 タイカンは走行モードの切り替えで回生の度合いを変更できるし、ボタンで任意にも変更できる。でも通常モードだと回生している感じがまったくしない。面白いと思ったのは、航続距離を増やすレンジ・モードだと回生せずコースティングをするようになること。そっちの方がより走れるという科学的根拠があるのかも。あとね、サーキットで試したらスポーツ・プラスは回生が強くなるけど、それでも普通の内燃機関のクルマのエンジン・ブレーキに近い感覚だ。
上田 そうそう、タイカンで一番感動したのはメカニカル・ブレーキと回生ブレーキの自然な感じでした。
村上 だからこれ見よがしにEVとして新しさを誇示しようとはまったくしていない。ポルシェが長年やってきたスポーツカーづくりの方針に基づいてEVをつくった。クルマの動力が電気とモーターになっただけ。そこが何より変わらないものかな。
上田 どのメーカーも、これぞEVっていうことをアピールしたくて、これ見よがしなことを大なり小なりしてきた。模索してきた、ともいえるかな。でもタイカンは違う。
村上 もう1つ重要なのは、ポルシェ博士が最初に造ったのはEVだったってことだ。
荒井 ローナー・ポルシェ。
村上 あれはインホイール・モーターのEVだった。だけどなぜそれが今までできなかったかといえば、優秀な電池がなかったから。ポルシェにとっては、120年を経てようやく実現できた、と言えるのかも。
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話す人=村上 政(ENGINE編集長)+塩澤則浩+荒井寿彦+上田純一郎(すべてENGINE編集部、まとめも) 写真=神村 聖
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