2021.02.23

LIFESTYLE

なんと家のなかに急坂がある!? 傾斜地に建つまるで登山鉄道のようなびっくりハウス!!

愛車はFJクルーザーとミニ

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そんな気になる家を設計したのは、地元の高崎で生物建築舎(いきものけんちくしゃ)を主宰する藤野高志さんだ。藤野さんは、生まれ育った高崎に事務所を構えているが、時代を先取りした作風で若い世代から圧倒的に支持されている、全国区の建築家である。代表作である自身のアトリエは、壁面は変形のコンクリートで、天井は全てガラス張り。床は地面の上にセメントを混ぜた砂を突き固めたワイルドな仕上げだ。しかも直接床に植えられたレモンユーカリなどの柑橘系の植物が、芳しい香りを漂わせながら天井近くまで生育している。それだけではない。日差しの強い夏はパラソルを広げ、ガラスの天井に雪が積もって寒くてたまらない日は早く帰宅するなど、自然をダイレクトに感じながら日々を送っているのだ。こんな建築、見たことがない。

キッチンからの眺めは絶景。キッチンのすぐ向こうはダイニング、そこから一段下がった所にリビング、そして窓の向こうには、高崎の市街地を見下ろせる。天井には照明など付属物は無く銀一色。ここに映る外からの光の色が魅力的だ。

人物の写真の撮影を生業としている久保木さんは、人間をよく観ているのだろう。設計を依頼したのは、もちろん作風への共感もあるが、藤野さんのこうした自然に対する感性と植物に対する知識の深さ故だった。そんな建築家はこの敷地を訪れ、3mある高低差が魅力的なことに気づく。普通であれば道路に接する西側の道路に沿って一階を作り、上か下にもう一階分設けることだろう。

しかし藤野案は、敷地長いっぱいの斜面を感じる細長い平屋。しかも内部は階段状ではなく、坂になっている。より正確に言えば、内部は巨大な坂のワンルーム空間だ。但し、リビングや、ダイニング、キッチンは、坂から持ち上げられた平らな木製のステージである。それぞれの高さが違うので、最も上の台所からの眺めは「なかなかの絶景」だと奥様。もちろん部屋間の移動は、坂になっている廊下を利用する。ステージと坂の間に生まれた空間は収納に充てられており、無駄は少ない。そして天井部は、照明などの付属物を何も付けず、銀色に仕上げた。普通ならば驚くようなプランだが、久保木さんは作風を理解して「お任せしたのだから」と、個性を楽しんでいる。

東側の玄関2の扉を開けると、真っすぐな坂が西側の道路に面したもうひとつの玄関1まで一直線に伸びている。一般家庭の一階分に相当する高さを、階段ではなく坂道で移動。家の南側は道路に接しているので、窓の位置が高い。玄関1の扉がガラスのうえ、屋根がカーブし天井高は家の中央部が少し低いため、向こうに何かがあるようなワクワク感が生まれている。

このように施主が建築家に敬意を払うだけでなく、建築家も施主を深く思っている点も印象的だ。藤野さんは、久保木さんの感受性が素直に発揮されるよう、提案が強くなりすぎないように配慮している。街が望める眺めの良いリビングの窓もあえて特等席とはせず、坂に沿った窓も等間隔に設置するなど、ニュートラルな意匠に仕上げたのはその一例だ。こうした思いを感じ取ったのだろう。窓から差し込む一瞬の光が室内に美しく広がった写真が、時折久保木さんから届くそうだ。なんとも素敵な関係である。

子供が成長する家

さて、この家のハイライトである坂は、ミニカーを走らせたりと、お子さんたちにとって格好の遊び場になっている。先日、初めて学校の友達が遊びに来た時も、お友達は「本当に家のなかに坂があるんだ!」と大騒ぎ。お子さんたちは、この家での暮らしの楽しさを学校でも話していたのだ。久保木邸内の坂と、平らな木のステージ状の部屋の段差には手すりが無いが、お子さんがそれとなく友達に注意している場面に、「成長を感じる」と奥様は話す。

そう、この家に移って日は浅いが、お子さんたちは少しずつ変わってきているそうだ。まず大好きだったテレビを観なくなった。そして、兄弟が二人並ぶ朝食時は、天気のことを話したり庭にやってくる鳥のことを話題にしたり。家が、これほど子供に影響を与えるとは。このまま成長すれば、お父さんの大好きなFJクルーザーの良さが、もっとよく分かるに違いない。



■建築家:藤野高志 1975年群馬県生まれ。東北大学大学院修了。清水建設、はりゅうウッドスタジオを経て独立。写真にある自身のアトリエで日本建築学会の新人賞を受賞。植栽などの知識も豊富。建築専門誌に、影響を受けた書物として自動車雑誌を挙げるほどのクルマ好き。今まで所有した十数台の半分以上はオープンカーで、現在の愛車はホンダS660。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

(ENGINE2021年2・3月合併号)

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