まるで吹っ切れたかのようにハイテク援用積極派に転じた911GT3。それをさらに過激化して現れたのが新型の911GT3RSだ。直噴型では初の4リッターバージョンは自然吸気のまま500psに到達。GT3以上にサーキット指向の強いシャシー構成もRSの特徴だ。
まだ上があるのか、という思いを抱かせるのが新しいGT3RSだ。GT3が3.8リッターの直噴自然吸気エンジンからリッター当たり125psもの出力を叩き出して475psという最高出力をマークした時点で、その先があると思った人間は少ない。けれど、あったのだ。 advertisement
ポルシェは997後期型から投入した新世代直噴エンジンのポテンシャルを根こそぎ引き出して、新しいGT3RSに載せてきた。997GT3がその最後にGT1クランクケースを使ってやったのと同じことをやってみせた。新型GT3RSのエンジン排気量は4.0リッター。102.0mmのボア径はそのままに、ストロークを4mm伸ばして、3996ccとしてきた。スイングアームを使って動弁系の慣性質量を減らしたシリンダー・ヘッドや、完全ドライ式のオイルサンプなど基本設計はそのままに、クランクシャフトとコネクティング・ロッドを新設計して、+200ccを稼ぎ出した。圧縮比は12.9対1と変わらず、比出力も125psと同じ。最高出力はGT3用と同じ8250rpmで500psを捻り出す。
最高許容回転数はさすがに少しだけ下がり、8800rpmになった。ピストン・スピードやコンロッド角加速度の増加を考えれば、やむをえないだろう。それでも単室気筒容積が666ccにも達するユニットであることを考えると、これは驚異的な許容回転数だ。比トルクも計算上の四捨五入で僅かに違いが出るが、事実上等しい125ps/リッターを保っている。
この驚異的な自然吸気6気筒に組み合わされる変速機は、GT3用に開発された専用PDKの改良型で、デュアル・クラッチ・ユニットも同じものが使われている。7段ギアの変速比にも変更はない。驚くべきは最終減速比で、すでに十分に低かったGT3用よりさらに5%強も低いギア比を選んできた。 ただし、GT3RSはタイヤ径の拡大を受けているから、駆動端で考えると、ローギアード化はそこまで大きくはない。
GT3RSはこの強心臓を利して、0−100km/h加速を3.3秒でこなす。0−200km/h加速に要する時間はたったの10.9秒。0−400m加速は11.2秒という。
最高速度は5km/h落ちて310km/hだが、この数字がGT3RSの性格を物語る。RSはGT3以上にレーシング・トラックでの速さに重きを置いているのである。ダウンフォースを優先した結果、効力係数はわずかに大きくなり、車幅拡大とタイヤ大型化によって前面投影面積も増えているために、ドラッグがGT3より大きいのだ。ただし、そこまでした成果は如実で、ニュルブルクリンク北コースの周回タイムは7分20秒と、GT3より5秒も速くなっている。
サーキットでの速さに貢献しているのは4.0リッターエンジンや空力のせいばかりではない。911ターボのワイド・ボディをベースに仕立てられたRSは、フロント・フェンダーも大きく張り出している。これは、500psを有効活用すべく、325mmとロード・ゴーイング911史上最も幅が広く、直径も大きな(21インチ)タイヤを採用したリアとバランスを採るために必要になった措置だ。フロントは大幅にトレッドを拡げている。トラクション性能引き上げと同時にロールへの抵抗力引き上げも行われているのである。
さらに、GT3RSは重心引き下げの手も打ってきた。フロント・リッドとエンジン・リッド、そしてフロント・フェンダーはCFRP製で、ルーフはマグネシウム合金を採用して、高い位置にある部材の軽量化を断行してきた。ベース・ボディがすでにアルミとスティール混成の軽量型になっている991では、こうまでしないと目的が果たせないのだ。そこまでして曲がる能力を引き上げてきた、ということになる。
シャシーの構成要素についてはGT3に準じるものとなっている。電子制御差動制限ディファレンシャルやリアのアクティブ・ステア機構もそのまま装備されている。PASM電子制御ダンパーも標準装備する。ブレーキも前後ともに直径が380mmのスティール製フローティング・マウント・ディスクで、PCCB(セラミック・コンポジット・ブレーキ)はオプション扱いになる。
新型GT3RSの価格はターボのそれを超え、ターボSに近しい。その差はわずか9万円だ。しかし、GT3とボディ関係で同じなのはドアぐらししかなく、動力性能や運動性能の向上ぶんを考えると、やむを得ないのか、という気になる。GT3RSの標準装備には、任意に速度リミッターを設定できるピット・スピード・スイッチやスポーツクロノ・パッケージも含まれ、後者にはGPSを利用してラップタイムを自動計測し、車速、横G、前後G、減速など多数のパラメーター・データをスマート・フォンに転送することが可能なトラック・プレシジョン・アプリも備わる。しかも、GT3ではこれもオプション扱いのクラブスポーツ・パッケージが標準化されている。これにはシート背後のボルト・オン式ロールケージや、バッテリー・マスター・スイッチ装着時の対応部品が含まれている。ただし、6点式シートベルトや消火器は別途オプション扱いとなる。
そこまでするならいっそカップ・カーを買ったほうがいいじゃないか、という考えも浮かぶが、もはやカップ・カーでナンバーを取得する道は残されていない。サーキットを出ることは適わない。GT3RSは公道を走ることができる。しかも、それはポルシェのことだから、我慢すればかろうじてなんとか走れるという域をはるかにこえた必要最低限の快適性が確保されているのに違いない。
しかも、である。ポルシェのWEC参戦マシンの動力機構構成を見ても、今後、カレラ系のターボ過給エンジン化が行われるだろうことは、ほぼ間違いない。ひょっとすると、このGT3RSは、究極の自然吸気911となるやもしれないのだ。
▶「ポルシェのおすすめ記事」をもっと見る■ポルシェ911 GT3 RS
駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長 4545mm
全幅 1900mm
全高 1290mm
ホイールベース 2455mm
トレッド 前/後 1585/1555mm
車両重量(DIN) 1420kg
エンジン形式 水冷水平対向6気筒DOHC 24V自然吸気
総排気量/圧縮比 3996cc/12.9:1
ボア×ストローク 102.0×81.5mm
最高出力 500ps/8250rpm
比出力 125ps/リッター
最大トルク 46.9kgm/6250rpm
比トルク 11.7kgm/リッター
許容回転数 8800rpm
変速機 PDKデュアル・クラッチ式7段自動MT
変速比
1速 3.75
2速 2.38
3速 1.72
4速 1.34
5速 1.11
6速 0.96
7速 0.84
最終減速比 4.19
サスペンション 前 マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション 後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(前後380mm)
タイヤ
前 265/35ZR20
後 325/30ZR21
抗力係数 Cd=0.34
最高速度 310km/h
0-100km/h加速 3.3秒
車両価格(税込) 2530万円
■ポルシェ911 GT3
駆動方式 リア縦置きエンジン後輪駆動
全長 4545mm
全幅 1870mm
全高 1270mm
ホイールベース 2455mm
トレッド 前/後 1550/1555mm
車両重量(DIN) 1430kg
エンジン形式 水冷水平対向6気筒DOHC 24V自然吸気
総排気量/圧縮比 3799cc/12.9:1
ボア×ストローク 102.0×77.5mm
最高出力 475ps/8250rpm
比出力 125ps/リッター
最大トルク 44.8kgm/6250rpm
比トルク 11.8kgm/リッター
許容回転数 9000rpm
変速機 PDKデュアル・クラッチ式7段自動MT
変速比
1速 3.75
2速 2.38
3速 1.72
4速 1.34
5速 1.11
6速 0.96
7速 0.84
最終減速比 3.97
サスペンション 前 マクファーソン・ストラット/コイル
サスペンション 後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(前後380mm)
タイヤ
前 245/35ZR20
後 305/30ZR20
抗力係数 Cd=0.33
最高速度 315km/h
0-100km/h加速 3.5秒
車両価格(税込) 1912万円
文=齋藤浩之(ENGINE編集部)
(ENGINE2015年6月号)
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