2021.02.28

CARS

電化でも駆けぬける歓び 新型BMW5シリーズのPHEVに試乗した

2019年のフェイスリフト(マイナーチェンジ)が行われた。フロントまわりの外観で変わったのは上下左右に大きくなるとともに左右がつながったキドニー・グリルやフロント・バンパー、ヘッドライト内側の造形程度。多くのBMWモデルの例にもれず、その変更規模は最小限にとどまっている。(写真=柏田芳敬)

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5シリーズは現行型で7代目となるBMWの中核サルーン。ご存じの通り、メルセデス・ベンツEクラスやアウディA6がライバルとなる。試乗した530eはプラグイン・ハイブリッド(PHEV)だ。レスポンスに優れるモーターの加勢が期待できる一方で、190kgの重い電池を積むというマイナスの面もある。そんなPHEVを「駆けぬける歓び」というキャッチ・フレーズのもとで走りの良さを売りにするBMWはそれをどう料理してきたか。斎藤 聡氏がリポートする。


フェイスリフトによるリアまわりの変更も少ない。BMWではお馴染みのL字型テールライトの形状がより立体的なものになった。気づきにくいがバンパーのデザインも新しくなっている。(写真=神村 聖)
根本付近が逆側に折れ曲がるデザインの「ホフマイスター・キンク」のCピラーをはじめ、BMWが長年愛用してきたスリムでシンプルなシルエット。全長は4975mmだからほぼ5mとけっこう大きい。(写真=茂呂幸正)

コネクティビティと運転支援

現行型BMW5シリーズは2017年のデビュー。Eセグメントにカテゴライズされるミドル・クラスのスポーツ・セダンとして当初から高い完成度を持っていた。しかしデビューから3年、その間、自動車は運転支援やコネクテッドの面で大きく進化することとなった。


2020年9月のマイナーチェンジはまさにそこがポイント。中でも、3シリーズで採用になっていた高速道路の渋滞で機能する「ハンズオフ機能付き渋滞運転支援機能」の採用は大きい。これを成立させるために採用された3眼カメラ、レーダー、高性能プロセッサーにより運転支援システムの精度と正確性が向上した。


また、iPhoneでドアの施錠と開錠、エンジン始動ができるデジタル・キー「BMWコネクテット・ドライブ・プロフェッショナル」を標準装備するなどコネクティビティのアップデートも果たしている。


内装の変更は外観以上に小さい。オーナーでない限り、ほとんど見分けが付かないだろう。インパネはクロームを効果的に取り入れることでラグジュアリーかつ上質なイメージを演出。使われている素材も高い質感のものを用いている。(写真=茂呂幸正)
7代目から採用された全面液晶パネルのメーター。エンジン回転計いわゆるタコ・メーターの表示は反時計回り。中央部分には運転支援装置の作動状況やナビゲーションの地図を表示することもできる。(写真=神村 聖)
インパネ中央に配された横長12.3インチのタッチパネル。車両の状況をはじめ、空調やオーディオの使用状況などが表示されるほか、操作もできる。解像度は自動車用としては最良と思えるほど高い。(写真=神村 聖)

今回試乗することになったのは、PHEVモデルの530eMスポーツ。BMWでは、ユーザーの多様なニーズに複数のパワートレインを提供する「パワー・オブ・チョイス」の理念に基づき、ガソリン、ディーゼル、PHEVの3タイプが用意されているが、中でもPHEVは今後主流となるパワートレインとして注目を集めている。今後EV化や電動化が進んでいくと言われている流れの中で、有力かつ興味深いパワーユニットだ。


PHEVモデルは以前からラインアップしていたが、今回のマイナーチェンジでXtraBoost(エクストラブースト)を採用することによって、システム総合最高出力を42ps高め、252ps4(185kW)から294ps (215kW)へパワーアップした。モーター出力を燃費の向上だけでなくスポーツ性にも振り分けているところが注目のポイントとなる。


とはいっても車両重量1910kg。重いバッテリーを積んだPHEVでホントにスポーツ性は確保できるのか、という個人的には大きく気になるポイントだった。


果たして試乗してみると、これがびっくりするくらい良い。BMWのテイストそのものであり、間違いなく駆けぬける喜びがある。


システム出力を42ps引き上げた効果で、フル加速したときの各ギヤの伸び感が明らかに増し、痛快な加速感が得られるようになっている。以前のモデルは1000回転早めにシフト・アップしていたような感覚があったのと比べ、明らかにスポーツ・フィールが増している。


1910kgという車重も気にならない。停止状態からアクセルを踏んだ瞬間、ほぼ最大トルクが出るモーターの特性でクルマの出足はすこぶる軽やかだ。モーターがクルマの重さを巧に相殺してくれ、重量増によるネガティブを意識させないのだ。それどころか、旋回すると前後重量バランスは絶妙。これは前後重量配分だけでなくバッテリーを後席シート下に配置したことで重心が下げり、これが旋回時の安定感につながっているのだろう。


乗り味も上質でいかにもプレミアムスポーツセダンといったものだ。アダプティブスポーツサスの効果なのか、乗り心地からコツコツとした硬質さがなくなり、しっとりしたテイストになっている。


523iと同じ2.0リッター直4直噴ターボに1つモーターと8段ATを組み合わせている。エンジンの出力は523i用とほぼ同等だが、530eの最大トルクの方が10Nm大きい。(写真=茂呂幸正)
給電口は左前フェンダーに備わる。リチウムイオン電池の容量は10.79kWh。電池のエネルギーのみで走行できる距離はJC08モード測定で60Km、WLTCモードで54kmとなっている。(写真=神村 聖)
荷室容量は410リッター。電池を非ハイブリッドのガソリンやディーゼルの530リッターと比べると120リッター小さい。(写真=神村 聖)

電動化とBMWは相性がいい

モーター駆動のメリットは低回転域のトルクの太さだけではない。アクセルに対する応答が素早いこと。またエンジンのようにアクセルを深く踏み込まなくてもトルクが瞬時に引き出せること。だからダイナミックな加速性能や、カーブでのコーナリング性能はもちろん良いのだが、それに加えて微細なアクセル操作に対する応答が期待通りにしっかり出るということだ。


いまさらになるけれど、エンジンの吸気や排気バルブのタイミングとリフト量を変化させるバルブトロニックはダイレクトなアクセル・レスポンスを得ることができるシステムとして開発されたが、これはドライバーとクルマとの一体感を高めの技術でもある。じつは、モーター駆動はBMWが望んだアクセル・レスポンスや応答性の良さを容易に作り出すことができるという点で、BMWのクルマに対する考え方に対して、どちらの機構も親和性があるのではないかと思っていた。


今回改めて530eに試乗して、PHEVがCO2削減のための退屈な技術ではなく、走る楽しさを自由に作りだすのにとても有効であるということが確認できた。530eMスポーツには明らかに駆け抜ける喜びがある。BMW5シリーズを代表するクルマの一台として、積極的に選ぶべき理由があると思った。


M5を除く新型5シリーズの価格は523iの678万円~M550ixドライブの1319万円。今回の試乗車はスポーティな内外装の仕立てや前後で幅の異なるタイヤを備えたMスポーツ・エディション・ジョイ+で840万円。523i・Mスポーツよりも142万円高の価格は買い得な設定と言っていいだろう。(写真=茂呂幸正)

■BMW530e・Mスポーツ・エディション・ジョイ+
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4975×1870×1485mm
ホイールベース 2975mm
トレッド 前/後 1600/1595mm
車両重量 1910kg
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V直噴ターボ+交流同期電動型
総排気量 1998cc
ボア×ストローク 82.0×94.6mm
エンジン最高出力 184ps/5000rpm
エンジン最大トルク 300Nm/1350-4000rpm
モーター最高出力 109ps/3140rpm
モーター最大トルク 265Nm/3000rpm
システム総合最高出力 292ps/-rpm
変速機 8段AT 
サスペンション形式 前/後 ダブルウィッシュボーン式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前後 245/40R19/75/35R19
車両価格(税込)840万円


 


文=斎藤 聡


(ENGINEWEBオリジナル)


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