昨年11月に富士スピードウェイで新型RS7 スポーツバック&RS6 アバントとともに発表された新登場のRS Q8。押し出し強烈なアウディの最強SUVに乗る機会を得た。
これだけ押し出しの強い見た目を持ったクルマは、たとえ大型SUVの世界でも他にはそうないだろう。なにしろ、タイヤ&ホイールのサイズは標準で23インチである。まるで自転車のようなサイズのタイヤがそんなに大きく見えないのは、ボディがさらに巨大だからだ。そびえ立つ鉄の壁のようなサイド・ビュウなど、まるで装甲車を見ているようだ。そして、なんといってもフロント・マスクの押し出しの強さが凄い。この黒い大口を開けたグリルに後ろから迫られたら、どんな高級車だって慌てて道を空けてしまうに違いない。
フロントに縦置きされる4リッターV8ツインターボは600ps/800Nmのパワー&トルクを発生し、8段ATを介して4輪を駆動する。まるでスーパーカーのようなパワーを持つこのアウディの新たなフラッグシップSUVは、いったいどんな走りを見せてくれるのか。正直なところ、かなり身構えてドライバーズ・シートに乗り込んだのである。
フロント・ガラスを通して見下ろすような風景は、やはりかなり巨大なものに乗っているという感覚がある。スターター・ボタンを押すと、なるほど、モンスターSUVらしい迫力のある雄叫びを上げて4リッターV8に火が入った。コクピットのデザインは、最新のアウディRSモデルの文法に基づいたもので、すべてがデジタル表示になったメーターには、基本画面では速度が中央に数字で表示され、その上に斜めのバーになった回転計、そして右側のふたつの円グラフににパワーとトルクの使用量がパーセンテージで表示される。
シフトをDレンジに入れ、アクセレレーターをそろそろと踏んでいくと、拍子抜けするくらいに穏やかに巨体が進み始めた。驚いたことに、フツウに走っている限りは、荒々しさも猛々しさもまるでない。それどころか、ほとんどのスポーツ・モデルを名乗るクルマよりもずっと大人しく、エアサスの足を持つ乗り心地もとても23インチのタイヤを履いているとは思えないくらいに快適で滑らかだったから、改めて、これは本当にRSだったっけと、ステアリング・ホイールの下に付いているロゴを見直してしまったほどである。
そういえば、昨今のスポーツ・モデルがやたらと小径でリムが極太になった上に、下部が水平になっていたりして丸くないステアリング・ホイールを使うようになったのに対して、このRS Q8は節度感のある大きさ太さの丸いものを装着している。これは、とてもいいことだと思う。見た目の押しの強さとは裏腹に、実に洗練された乗り味を持ち、それにふさわしい繊細にインフォメーションを手のひらに伝えてくれるインターフェイスを持っているのがいい。
そんなことを考えていたら、「金持ち喧嘩せず」、私の頭の中に、突如、そんな言葉が落ちてきた。
もちろん、喧嘩しようと思えば滅法強いのである。実際、試乗会の拠点である小田原の山の上にあるホテルを出て、バイパスを走り、箱根ターンパイクにたどりついて、急坂を少し強めにアクセレレーターを踏んで上り始めると、クォーンという小気味いい音を立ててエンジンが本領を発揮し始めた。2・4tもある巨体がまるでスポーツカーのように加速して、あっと言う間にとんでもない速度に達してしまう。しかし、驚くべきは速さそれ自体よりも、その加速時のマナーの良さで、エンジンは回すほどに粒が揃ってくるような気持ちの良い吹け上がりを堪能させてくれるし、ボディの動きもアクセレレーターやブレーキの操作に対して過剰に反応してスクワットしたりノーズダイブすることがない。小気味いいほどに汗ひとつかかず強烈なパンチを繰り出すファイターみたいに無駄な動きが少ないのだ。
ハンドリングの良さも特筆もので、ダイナミック・モードを選ぶまでもなく、オートでも自然なロールを感じながら気持ち良くコーナーを駆け抜けていくことができる。その際の安定感も抜群なのだが、撮影時にUターンして気づいたのは、後輪操舵システムが装備されているおかげで小回りも効くし、実はコーナリングでもこれが上手く働いていたのに違いない。至れり尽くせり。だから喧嘩する必要などまるで感じないのだ。
■アウディRS Q8
駆動方式 エンジン・フロント縦置き4WD
全長×全幅×全高 5010×2000×1700mm
ホイールベース 2995mm
トレッド(前/後) 1685/1695mm
車両重量 2410kg
エンジン形式 V型8気筒DOHCツインターボ
排気量 3996cc
最高出力 600ps/6000rpm
最大トルク 800Nm/2200-4500rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/エアスプリング
サスペンション(後) マルチリンク/エアスプリング
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前後) 295/35R23
車両本体価格(税込み) 1869万円
文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=柏田芳敬
(ENGINE 2021年5月号)
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