2021.07.24

CARS

これがマセラティの最新スポーツカーだ!  待望のMC20にイタリア・モデナで乗ってきた!!

マセラティの新しい時代を切り開くミドシップ・スポーツカー、MC20の国際試乗会がイタリア・モデナで開かれた。コロナ禍の中、唯一参加した日本人、渡辺慎太郎氏によるリポート。

自宅隔離の日々

相当な覚悟と相応の準備をして、イタリア・モデナで開催されたマセラティMCの国際試乗会に行ってきた。往路は予想していたよりもスムーズに物事が運んだものの、復路の特に羽田に到着してからは、予想を超えるいろんなことが次から次へと押し寄せてきた。

降機からは基本的に団体行動で、いくつもの関所で書類のチェックやらアプリの動作確認やら抗原検査やらをこなす。検査結果待ちの間にトイレに行こうとしたら係員にピタリと帯同されたし、陰性の結果が出てからの出国審査や荷物検査、そして隔離用ホテルに向かうバスまでの全行程においても、やっぱり係員に帯同された。3泊4日のホテル滞在中は部屋から一歩も出ることが許されず、4日目にあらためて抗原検査を受け、陰性だったのでようやく(自家用車で)帰宅できた。が、到着から14日目までは外出禁止、他者との接触も禁止。1日2回、専用のアプリで現在地確認の要請があり、ある日には突然厚労省からスカイプ電話がかかってきて、カメラをオンにして自宅の様子を見せるよう言われた。これが5月中旬時点での日本国のいわゆる水際対策の実状であり、これで万全なのかどうか自分にはよくわからないけれど、人件費や宿泊費や食費(ホテル代と宿泊中の1日3回のお弁当代は無償)など、莫大なコストがかかっていることだけは容易に想像できた。



「外国に行くな」と言われているのに自己判断で行ったのだから、これくらいの不自由は甘んじて受けるし、結果的にその判断に対して後悔なしといま思えるのは、MC20の出来がよかったからである。

V6“ネットゥーノ”の威力

「マセラティ・コルセ2020」を意味するMC20は、昨年お披露目されたマセラティのスーパースポーツであると同時に、新生マセラティの象徴とも言うべきモデルでもある。こんな時代に白紙の状態からこんなスーパーカーを作り上げたことはもちろん、MC20は後にBEV仕様が追加導入されるとアナウンスされているし、グラントゥーリズモ/グランカブリオを生産していた本社工場はこのクルマのために刷新、新たにペイントショップやエンジン生産ラインも増設された、まさに将来を見据えて社運を賭けたような1台だからである。

スポーティさとエレガントさを併せ持つMC20のインテリアは、合理的かつミニマルにデザインされている。ふたつの10インチ・スクリーンを持ち、ひとつをコクピットに、もうひとつをセンターにややドライバー側に傾けて配置。センターコンソールには、ドライブ・モード切り換えダイヤルとふたつのギア・シフト・ボタン、パワー・ウインドウと音量のコントローラーが装備される。ハンドル上のボタンは左がイグニッション、右がローンチ・コントロール。

MC20はそのスタイリングからも分かるように、ミドシップ・レイアウトを採用している。ボディサイズは全長4669mm、全幅1965mm、全高1221mm、ホイールベース2700mmで、同じくミドシップのフェラーリF8よりもわずかに長く狭く高い。マセラティは過去にピニンファリーナやジウジアーロにそのデザインを任せていたこともあったが、MC20は完全なるインハウスだという。ただし、量産型ミドシップ・スポーツカーの開発は彼らにとってすいぶん久しぶりなので、シャシーや空力に関してはダラーラの協力を得ている。キャビン部分をCFRP製のバスタブ構造とし、その前後にアクスルとパワートレインを締結するやり方は最近のミッドシップ・スポーツカーの定番であるが、ドアにバタフライ式を採用したのはやはりフェラーリとの差別化を図る狙いがあるのかもしれない。



そのフェラーリやマクラーレンのミドシップ・モデルがV8を背負っているのに対して、マセラティはV6で勝負に出ることを決断した。V6のほうが当然のことながらコンパクトで軽量だが、パワースペックの点ではV8に追いつけない。その差を少しでも埋めようと新開発したのが“ネットゥーノ(英語ではネプチューン)”と命名されたV6ツインターボである。搭載時の重心高を下げるべく、バンク角は90度でドライサンプ。ふたつのターボもバンク内ではなくあえて外側の低い位置にレイアウトしている。そしてこのエンジンのもっとも特徴的な点はプレチャンバーの採用である。プレチャンバーとはシリンダーの外側にごく小さな副燃焼室を持ち、そこで混合気をプラグで点火し火炎をシリンダー内へ送り込む仕組み。通常燃焼が薪にマッチで火を付けるとするならば、プレチャンバーはターボライターで燃やすような感じである。レスポンスと燃焼効率の向上が期待できる燃焼方式で、F1エンジンではお馴染みの技術でもある。エンジンにかかる負荷に応じて通常燃焼とプレチャンバーを使い分けるので、ネットゥーノのはV6だがプラグは12本、さらにポート噴射と直噴のデュアルイグニッションなのでインジェクターも12本備わっている。



一般道で法定速度で走っている限り、そのほとんどの場面では通常燃焼だと思われるので、正直なところネットゥーノならではのような特性はあまり感じられない。パワーは十分だし、そのデリバリーも適正だから不満はまったくないもののフツーのV6風情である。ところがこれをサーキットに持ち込むと、同じエンジンとはにわかに信じがたい反応を見せる。全開と全閉を繰り返す場面ではとにかくレスポンスの良さが際立つ。スロットルペダルの動きとエンジン回転、そして後輪へのトラクションのかかり方にほとんどズレがなく、運転のリズムが乱されないのである。この胸のすくような刺激的感触が、通常のドライブでほとんど味わえないのはちょっと残念である。

スタビリティの高さに惚れ惚れ

マセラティの室内といえば、色艶のある独特の空気感が魅力のひとつだが、MC20の室内は運転に集中するための機能的雰囲気のほうが勝っている。エアコンを含むほとんどすべての装備は、センターディスプレイを介してコントロールできるようになっているため、機械式スイッチはドライブモードやシフトポジションの切り替え、パワーウインドウやヘッドライトなど最小限の数に抑えられているので、運転席周りはきわめてスッキリしていた。



フロントに47リッター、リアに101リッターの荷室も用意される。

MC20のタイヤはブリヂストンの専用設計で、前後とも20インチで245/35、305/30の扁平サイズだが、一般道の乗り心地がよくて驚いた。ばね下がばたつくような場面には一度も遭遇しなかったし、路面からの突き上げによって身体が大きく揺さぶられることもなかった。これならシートに身体を委ねているだけの助手席からも文句は言われないだろう。サスペンションは前後ともダブルウィッシュボーンで、電子制御式ダンパーと金属ばねを組み合わせているから、スポーツを選ぶと減衰力が高くなってそれなりに引き締まった乗り心地になるものの、サスペンションだけをソフトにするスイッチもあるのでこれはありがたいと思った。



回転軸がドライバーの後方にあって、そこを中心に向きを変える回頭性はミドシップならではのものだけれど、MC20の評価すべき点は接地性の高さにある。おそらくこれは前後にかかる適正なダウンフォースがひと役買っていて、速度が上がるにつれてそれは顕著に現れる。ダラーラとはダウンフォースがきちんと得られる空力特性を目指したそうで、その効果に違いない。サーキットでは4輪が路面を掴んでなかなか離さず、そのスタビリティの高さに惚れ惚れしてしまった。

「女性にも運転を楽しんで欲しい」というコンセプトも掲げていたそうで、MC20は運転のしやすさも備えている。マセラティはいつだって女性に優しいのである。

スポーティさとエレガントさを併せ持つMC20のインテリアは、合理的かつミニマルにデザインされている。ふたつの10インチ・スクリーンを持ち、ひとつをコクピットに、もうひとつをセンターにややドライバー側に傾けて配置。センターコンソールには、ドライブ・モード切り換えダイヤルとふたつのギア・シフト・ボタン、パワー・ウインドウと音量のコントローラーが装備される。ハンドル上のボタンは左がイグニッション、右がローンチ・コントロール。フロントに47リッター、リアに101リッターの荷室も用意される。


■マセラティMC20
駆動方式 エンジン・ミドシップ縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4669×1965×1221mm
ホイールベース 2700mm
トレッド(前/後) 1681/1649mm
重量 1475kg
エンジン形式 90度V型6気筒DOHCツインターボ
排気量 3000cc
ボア×ストローク 88×82mm
最高出力 630ps/7500rpm
最大トルク 730Nm/3000-5500rpm
トランスミッション 8段湿式デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション(前後) ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ (前) 245/35ZR20
タイヤ(後) 305/30ZR20
車両本体価格(税抜き) 2650万円 


文=渡辺慎太郎 写真=マセラティS.p.A

(ENGINE2021年8月号)

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