2021.07.31

CARS

新型フォルクスワーゲン・ゴルフ試乗リポート! 8代目は期待通りのデキなのか?

新型ゴルフがドイツで発表されたのは2019年10月だから、すでに1年半以上が経過。「まだぁ~」と、日本での販売開始を首を長くして待ち望んでいた方も多いはず。果たして8代目は、そんなゴルフ・フリークの期待にそえるクルマになっていたのか?

最大のトピックは電動化

通算8世代目のモデルへと刷新された新型フォルクスワーゲン・ゴルフは先代に続いて、横置きモジュラープラットフォームのMQBを車体の基本骨格として使用している。しかしながら、決して電動化にかまけてゴルフのことを蔑ろにしたわけではない。むしろ、かつてないほどの先進アイテムを盛り込み、大幅な進化を果たしたのが、この“ゴルフVIII”である。最大のトピックは電動化、そしてデジタル化だ。

まず電動化。パワートレインは全車、初めてマイルド・ハイブリッド化された。“eTSI”と名付けられたユニットは2タイプを設定。エントリーには最高出力110ps、最大トルク200Nmの直列3気筒1.0リッターターボ・エンジンを、そして上級版には同150ps、250Nmを発生する直列4気筒1.5リッターターボ・エンジンを搭載し、いずれも13ps、62Nmのベルト駆動式スターター・ジェネレーターを組み合わせる。トランスミッションは7段DSGである。

一気にデジタル化されたのはインテリアだ。10.25インチTFTを用いたデジタルコクピットは全車に標準装備とされ、ダッシュ中央には10インチのインフォテインメント・システムも備わる。

“eTSIアクティブ”のインテリア。低いテーブルに2つの大きな液晶パネルを置いたようなシンプルなデザイン。機械式のスイッチを極力排したことがその感をより強めている。

メーター・パネルにはほかの最新のフォルクスワーゲン・モデル同様、ほぼ全面にナビの地図を表示することもできる。

それだけじゃない。多くのスイッチは触れるだけで反応するタッチ式とされ、温度調整やナビ画面の拡大/縮小、サンルーフの開閉などはタッチスライダーを指先で撫でるようにして操作するといった具合で、使い勝手も刷新されている。正直、新鮮味はあるもののブラインドタッチは難しく、少なくとも運転中にはあまり使いやすいとは思えなかったのだが、ある程度は慣れが解決するのだろうか?

運転支援装備のオン/オフや感度調整などは、画面上の車両のアニメーション表示をタッチすることで直感的に設定できる。また、空調のスマート・クライメート機能は「手元を暖める」、「足元を冷やす」といった項目を選ぶだけで最適な空調環境を作り出してくれたりもする。こちらの操作は直感的で解りやすく、それこそ運転中でも使いやすそう。また、クルマの操作に苦手意識がある人もすぐに馴染めそうだと感じた。

このインテリアに較べれば、エクステリアは従来からのゴルフらしさが色濃く残る。ノーズはこれまでより低く、長くなっており、デイタイム・ライトの眼光鋭い顔つきは怖めではあるが、典型的なハッチバック・フォルムにショルダーを前後に貫くキャラクター・ライン、そして太いCピラーといったアイデンティティは今回も継承されている。

1.0リッター系のシートはブラックの布表皮を採用。ホイールベースは先代よりも15mm短いが、後席を含む室内の広さでそれを感じることはない。



荷室容量は先代と同じ380リッター。

サイズは全長が従来より30mm長い4295mmとされたのに対して、全幅は10mm減の1790mmに。1475mmの全高もやはり10mm減である。Cd値は0.3から0.275まで改善されている。小さくなった前面投影面積と合わせて、燃費向上に寄与しているのは間違いない。

ステアリング・ギア比は15.0から14.6に速めるなど、シャシーには小改良が加えられている。1.0リッターモデルは16インチ・タイヤを履き、リア・サスペンションがトーションビーム式とされるのに対して、1.5リッターモデルは17インチ・タイヤと4リンク式のマルチリンク・サスペンションが組み合わされ、フロント・サブフレームもアルミ製とされている。

運転支援システムもアップデートされた。全車速追従機能付きのACC(アダプティブ・クルーズコントロール)とレーンキープ・アシストを連携させたトラベルアシストが搭載されたほか、オプションで片側22個のLEDを用いたLEDマトリックスヘッドライト、“IQ.LIGHT”も設定されている。

プラットフォームは先代にも使われていたMQBに改良を加えたもの。マイルド・ハイブリッドを新たに搭載したパワートレインと比べると、進化の度合いが小さいように感じるが、フロント・トレッドやホイール幅の拡大やステアリング・ギア比の変更など、細部に至るまでのきめ細やかな改良が施されている。





まずステアリングを握ったのは1.0リッターeTSIユニットを積む“eTSIアクティブ”。発進させると想像以上の力強さに頬が緩んだ。これは間違いなく電気モーターの恩恵だ。

アクセレレーターを深く踏み込まなくても十分なトルクが出るので、街中では3気筒特有の音や振動はさほど気にならない。高速道路に入るともう少し力がほしい気がするが、実用性能は十分と言っていい。

それより驚かされたのが乗り心地だ。サスペンションは非常にソフトな設定で、乗り心地は「ふんわり」と評するのが相応しい。おかげでワインディング・ロードでは姿勢変化がかなり大きいのだが、それでも不安定になることはなく、むしろ荷重コントロールの非常にやりやすい、素晴らしい操縦性を獲得している辺りは、さすがゴルフである。

“eTSIスタイル”は先代の“ハイライン”に相当する上級グレード。装備だけでなく、エンジンやリア・サスペンションなど走りに関わる部位も異なる。



すべてが注ぎ込まれている

続いて乗ったのは1.5リッターeTSIユニットを積む“eTSIスタイル”。力強さはこちらの方が一段上で、高速域まで余裕がある。エンジン自体に力がある分、モーターによるアシストの感触は薄いので、フィーリングには新鮮味は乏しいが、人を乗せる機会が多い、長距離移動が多いという人は、やはりこちらだろう。

4リンク式のリア・サスペンションを持つシャシーはやはり接地感、安心感が一段と高く、リラックスした走りを楽しめる。乗り心地は17インチ・タイヤのせいか、やや固めにも感じられるが、動き自体はゆったりとした落ち着いた感じだ。

パワーユニットは予算や用途で選べばいいとして、ともに共通しているのは、ボディのガッチリとした剛性感、そして重厚感とでも言うべきフィーリングである。何があってもびくともしなさそうな安心感、包まれ感が、その走りには宿っている。これだけでも日本車でなく、ゴルフを選ぶ理由になり得るのでは? そんな風に思えた。

“マイクロフリート”と呼ばれるシート表皮はアルカンターラのような滑らかな肌触り。明るいグレーの内装色が選べるのは“スタイル”のみ。



サイド・ウインドウ下部やリア・バンパーにクロームのモールを追加するなど外装もちょっと豪華な仕立てになる。

電動化を声高に叫ぶ今のフォルクスワーゲンが今後ゴルフをどのように扱っていくのかは見通しにくい。しかし間違いなく、いま目の前にあるゴルフは、いつものゴルフらしいブランドの持てるものすべてが注ぎ込まれた1台と映った。

先代よりは高くなったとはいえ、エントリー・グレードはまだ300万円を切る価格で手に入れることができる。日本のライバル達も価格が上昇していることを思えば、新型ゴルフ、むしろリーズナブルとすら言っていいのではないだろうか。

■フォルクスワーゲン・ゴルフeTSIスタイル
駆動方式 フロント横置きエンジン+モーター前輪駆動
全長×全幅×全高 4295×1790×1475mm
ホイールベース 2620mm
トレッド 前/後 1535/1505mm
車両重量(車検証記載前後軸重) 1360kg(前軸830kg/後軸550kg)
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V直噴ターボ+モーター
総排気量 1497cc
ボア×ストローク 74.5×85.9mm
エンジン最高出力(モーター) 150ps/5000-6000rpm(13ps/-rpm)
エンジン最大トルク(モーター) 250Nm/1500-3500rpm(62Nm/-rpm)
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/マルチリンク式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 225/45R17 91W
車両価格(税込) 370万5000円


■フォルクスワーゲン・ゴルフeTSIアクティブ
駆動方式 フロント横置きエンジン+モーター前輪駆動
全長×全幅×全高 4295×1790×1475mm
ホイールベース 2620mm
トレッド 前/後 1540/1510mm
車両重量(車検証記載前後軸重) 1310kg(前軸790kg/後軸520kg)
エンジン形式 直列3気筒DOHC12V直噴ターボ+モーター
総排気量 999cc
ボア×ストローク 74.5×76.4mm
エンジン最高出力(モーター) 110ps/5500rpm(13ps/-rpm)
エンジン最大トルク(モーター) 200Nm/2000-3000rpm(62Nm/-rpm)
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/トーションビーム式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 205/55R16 91V
車両価格(税込) 312万5000円

文=島下泰久 写真=望月浩彦

(ENGINE2021年8月号)

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