2021.10.06

WATCHES

思わずひと目惚れする時計「エルメス」篇 まるで風が吹き抜けるような軽快感の薄型ムーブメント

なぜ? と聞かれてもうまく言えないが、一瞬で好きになってしまうことがある。人も時計も。相手が人ならともかく、一体時計のどこに我々はこれほどまでに惹かれるのだろう。容姿端麗なデザインか、才色兼備のメカニズムか、はたまた運命の糸がそうさせるのか。そんな恋の始まりを予感させる、コンテンポラリーなスケルトンダイアルにムーンフェイズが組み合わされたエルメスの注目モデルを取り上げ、ライターの柴田充氏が解説する。

薄さを追求し、すべてをそぎ落とした漆黒に月が浮かぶ

エルメスは「時」もオブジェのひとつと捉える。それは社会生活に不可欠な尺度ではなく、自由にクリエーションするもの。だからこそ時を可視化する時計も概念に縛られることはない。2015年に発表した「スリム ドゥ エルメス」がそのテーマに掲げたのは“薄さ”であり、薄型ムーブメントを開発し、新しいタイポグラフィまでデザインした。そこには、まずクリエーションありき。そしてその具現化のために、技術やデザインがあるという確固たる信念が伝わってくる。新作ではこの薄さをさらに自由に表現した。「スケレット リュンヌ」の名の通り、スケルトンダイアルにムーンフェイズを備える。まるで風が吹き抜けるような軽快感に対し、重厚なダークカラーが不思議なコントラストを醸し出す。ケース素材には軽さを体感できるチタンを用いる一方、ベゼルにプラチナ、リュウズにはホワイトゴールドを採用するという意外性もメゾンならではのラグジュアリーだ。そしてすべてをそぎ落とした漆黒の世界に浮かぶのは、透かし細工のダブルムーンフェイズだ。月はかつて人間が時の流れを計った最古の手立てであり、これほどふさわしいシンボルはないかもしれない。






スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌの「ココに胸キュン!」

光を受けて美しく輝くサンレイ仕上げのグリーンダイアル。これを引き立たせるのが渋いグリーンのストラップだ。エルメス・マニュファクチュールによる薄型ムーブメントH1953は、視界を妨げないマイクロローターを装備。「H」モチーフを装飾したマットブラックにメゾンの気品が漂う。

ベーシックなラウンドケースに、ストラップを巻き込んだようなストレートラグを備え、オリジナリティを演出する。時分針のブルーでストラップのステッチも統一し、洗練されたスタイルを表現。グラフィックデザイナーのフィリップ・アペロワが手がけたオリジナルのタイポグラフィは、文字盤外周で存在感をアピールする。自動巻き。チタン、ケース直径39.5mm、3気圧防水。251万9000円。

文=柴田充 写真=近藤正一

(ENGINE2021年8月号)

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