2021.11.10

CARS

「粋人」のためのベントレー 熟練の職人が仕立てたコンチネンタルGTマリナーの世界を堪能する

1919年の設立以来、速くて魅力的で高価なクルマだけを作り続けてきたベントレー。その最新モデルであるコンチネンタルGTに加わったマリナーは、まさにこのブランドを象徴する存在だ。見て、触れて、乗って、その魅力を探った。

グランド・ツアーの必需品

学業を終えた富裕な貴族の子弟が、その総仕上げとしておこなったヨーロッパ大陸を行く大周遊(修学)旅行。18世紀の英国で広まったそれがグランド・ツアーの起源であることは、数号前のGTカー特集でも触れた通りだ。そのグランド・ツアーの必需品として第一に挙げられたのが、速く快適に、どこまでも駆けていく丈夫な馬車、すなわちグランド・ツアラーであり、現代のGTカーがその子孫であるとすれば、ベントレーのコンチネンタルGTほど、ザ・グランド・ツーリング・カーと呼ばれるのに相応しいクルマはないだろう。



世界最高峰のスポーツカー・レースであるル・マン24時間で、戦前最多の5勝を挙げながら、経営不振からロールス・ロイス傘下に入ったベントレーが、70年余を経て、ドイツ・メーカーの資本の下とはいえ独立したブランドとして再出発したのは21世紀初頭のことだ。その時、最初に世に問うたのがコンチネンタルGTであったことは、英国が生んだ二つの超高級自動車ブランドの目指すものの違いを物語っていて興味深い。

すなわち、ショーファー・ドリブンが基本である4ドア4シーターの超高級サルーンを今も昔もつくり続けるロールス・ロイスに対して、あくまでオーナーが自らステアリングを握って運転を楽しむためのGTカーとしての2ドア4シーター・クーペにこそ、ベントレーの真骨頂が現れているということだ。

そして、どこまでも柔らかく洗練された乗り味のクルマだけをつくるロールス・ロイスに対し、ベントレーには洗練された上質さを持ちながらも、その一方で、普通の高級車では考えられないような、飛び抜けた速さや度肝を抜くような無骨さをかいま見せる面がある。その“洗練”と“野蛮”の同居こそが、いかにもベントレーらしいところであり、さらにはアストン・マーティンなどにも共通する英国車の独特の魅力のひとつになっていると私は思うのだ。





ひと目で違いがわかるグリル

今回、この号の表紙にもなり、その撮影の後に試乗することを許された最新のコンチネンタルGTマリナーは、まさに、そうしたベントレーのあり方を象徴するモデルだ。

マリナーというのは、世界最古のコーチビルダーを前身とする現在のベントレーのビスポーク部門の名称で、クルーの本社工場の一角にあり、ウッドやレザーを使ったインテリアを中心に熟練の職人によるハンドメイドでこの世界に1台だけのスペシャル・モデルを仕立てている。それをモデル名にしたこれは、内外装にマリナーならではの専用装備を施した上で、外装色の選択はもちろん、インテリアのレザーやステッチもあらかじめ用意された8つの特別色から3色を選んで自由に組み合わせるようにすることで、最上級のビスポークの世界に手軽にどっぷり浸れるようにしたものと言えるだろう。

外観で、ひと目で違うとわかるのは、フロントのマトリックス(格子網)を強烈に浮き立たせたようなデザインのダブルダイヤモンド・グリルだ。二重に縁取られた菱形は、ひとつひとつが3次元的に微妙に角度をズラして並べられており、全体として見ると“上質なクラフツマンシップ”の領域を飛び越して、もはや“エキセントリックなアート”の領域に入っているとさえ思えてくる。

乗り込んでも、シートはもちろん、ドアの内張りやアルミのセンターコンソールにまで、これでもかというくらいダイヤモンドの意匠が反復されている。インテリアには主たるツートーンのほかに、もう1色がアクセント・カラーとして使われており、それが単純な高級感を超えた独特の“粋な感じ”を醸しだしている。ステッチだけで40万針の手縫いが施されていると聞けば、この1台を仕立てるのにどれだけの手間と時間がかけられているかは想像に難くない。

英国紳士のスーツの表と裏

巨大なボンネットの下に収まるW12気筒ツインターボ・ユニットは、635ps/900Nmのパワー&トルクを発生。デュアルクラッチ式8段自動MTを介して4輪を駆動し、2.3t近くあるボディを0-100km/h 3.7秒で加速させる。最高速度は333km/h。イタリアン・スーパーカーも顔負けの数字だ。



しかし、そのスペックとは裏腹に、高速道路をクルージングしている限りは、どこまでも穏やかで扱いやすく、極太のトルクのおかげで回転数を上げなくてもコト足りてしまうから、恐らく何百キロ走り続けようと、なにごとも起こらない平穏な時が流れ続けるに違いない。私はまるで気がつかなかったが、その時、不必要な気筒を休止させて燃費を節減するシステムまで働いているらしいのだ。

エア・サスペンションを装備した足は、決して柔らかくはないが、しなやか、かつ滑らかで、メーカー推奨のベントレー・モードを選んでいる限り、なんら不快な思いをすることはないだろう。



ところが、ダイナミック・モードを選ぶと、クルマは豹変する。ギアが低められ、エンジンは12気筒らしい粒の揃ったサウンドを響かせながら、スムーズに回転数を上げていくようになる。アクセレレーターを緩めると排気管からボボボっというバックファイヤーのような音まて聞こえてくるのには面食らった。足は俄然硬くなり、アクティブ・スタビライザーのおかげかコーナーでのロールも最小限になる。果たして、ここまでやる必要があるのか、と思えるが、この過剰さこそがベントレーのベントレーたるゆえんではないのか。

英国紳士のスーツは一見、極めてフォーマルなダーク・スーツであっても、裏地には驚くほど色鮮やかな赤やピンクが使われていたりする。あの相反するものをあえて同居させる感覚の中にこそ“英国の粋”があるのかも知れない。コンチネンタルGTマリナーに乗ってそう思った。

文=村上政(ENGINE編集長) 写真=柏田芳敬

■ベントレー・コンチネンタルGTマリナー
駆動方式 エンジン・フロント縦置き4WD
全長×全幅×全高 4880×1965×1405mm
ホイールベース 2850mm
トレッド(前/後) 1670/1665mm
車両重量 2280kg(前軸1250kg、後軸1030kg)
エンジン形式 W型12気筒DOHCツインターボ
排気量 5945cc
最高出力 635ps/5000-6000rpm
最大トルク 900Nm/1350-4500rpm
トランスミッション デュアルクラッチ式8段自動MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/ エアスプリング
サスペンション(後) マルチリンク/ エアスプリング
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ (前)265/40R21、(後)305/35ZR21
車両本体価格(税込) 3511万2000円

(ENGINE2021年11月号)

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