スペインでの国際試乗会でサーキット専用の限定モデル、720S GT3X に乗ることができた。レーシングカーをも凌ぐ速さを持つ、その走りはどうだった? モータージャーナリストの大谷達也がリポートする。
これはGT3マシンのデチューン版ではない!!
720S・GT3Xは、世界各国のGT3レースに出場しているレーシングカーの720S・GT3を、一般ユーザー向けにモディファイしたサーキット走行専用モデルだ。

そう聞けば、誰しもが「ああ、GT3のデチューン版ね」と思われるだろうが、実態はその正反対。というのも、様々なメーカーが参戦するGT3レースでは、各車のパフォーマンスを均衡させるためにエンジン出力を絞ったり車重を引き上げたりしているが、レースに出ないことが前提のGT3Xはそうする必要がない。このためエンジン出力は550ps前後に絞られた720S・GT3を大きくしのぐ720psで、車重も720S・GT3Xのほうが50~100kgほど軽い。
それ以外の相違点としては、ロールケージの形状を改めてパッセンジャー・シートを装着可能にしただけで、エアロダイナミクスやシャシーのスペックはGT3そのもの。15台が限定生産されるが、10月中旬の段階で7台が売約済みという。価格は72万ポンドに設定されている。

私が試乗したのは765LTスパイダーと同じナヴァラ・サーキット。GT3車両とまったく同じピレリ製レーシング・スリック・タイヤはマクラーレンのワークスドライバーによって十分ウォームアップされていたが、それにしても、初体験の私にはどこが限界なのか、まったく予想がつかなかった。それは踏力が恐ろしく重いわりにペダルストロークが大きなブレーキや、速度の上昇に伴ってダウンフォースが指数関数的に高まるエアロダイナミクスについても同じことがいえる。したがって、私の試乗はまったくおっかなビックリの範囲で終わったが、一度720S・GT3Xを体験すると、その後に改めて乗り込んだ765LTスパイダーの速度感が物足りなく感じられてくるから面白いもの。つまり、GT3車両に乗り慣れれば一般のロードカーを限界に導くなど“お茶の子サイサイ”のように思われた。

たしかに操作系はすべて重いしタイヤのウォームアップも必要だが、それさえ乗り越えれば720S・GT3Xを操るのは決して難しくないはず。最近、サーキットイベントで一般ユーザーがGT3車両を操っている光景をよく目にするようになったが、そのナゾがようやく解けたような気がする。
文=大谷達也 写真=マクラーレン・オートモーティブ
(ENGINE2022年1月号)
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