2021.12.14

CARS

まるで新車で買える激安ナロー・ポルシェのルノー・トゥインゴSとクラシックカーなのに中身は最新EVのフィアット500ev クルマは乗らなきゃわからない!!

現在の最新スモールカーながらMTのトゥインゴSと、いにしえのイタリアン・コミューターを電動化した500ev(チンクエチェント)。2ペダルのトゥインゴが愛車の自動車ジャーナリストの清水草一は、この2台のちょっと変わった!?スモールカーに乗って何を思ったか。

どうしても乗っておきたかったガソリン車

ガソリン車が買えるのはあと何年なのだろう。いやいやeフューエルが実用化されれば、カーボン・フリーに内燃エンジン車に乗れるはず!

という期待もあるが、未来のことは誰にもわからない。我々は大変革時代のさなかにいるのだから、今のうちに乗りたいガソリン車に乗っておかないと、後悔することになるかもしれない。

個人的には、乗りたいガソリン車はかなり乗りつくしたが、1台、どうしても乗っておきたいクルマが残っていた。それがルノー・トゥインゴだ。



トゥインゴは奇跡のクルマだ。このサイズで、RR(リアエンジン・リアドライブ)独特の操縦性が楽しめて、守ってあげたい微妙な頼りなさもあって、しかも新車が100万円台で買えるのだ。“RR”そして“頼りなさ”。このふたつの言葉が掛け合わされた解は“日常的に楽しめるスポーツ”である。トゥインゴは、激安で買える新車のナロー・ポルシェだ。

せきたてられるような思いから、私は今年、ようやくトゥインゴを購入した。6年落ち・走行6万8000kmの中古車である。グレードはEDCキャンバストップ。つまり0.9リッターターボ・エンジンとデュアルクラッチ式自動MTを組み合わせた、スタンダード・モデルだ。

トゥインゴには5段MTモデル、ゼンもあったが、エンジンは1リッターのノンターボ。ちょっとパワーがなさすぎて、アクセルオンでRR感が味わえなかった。かといってターボのGTは、日常に使うには足回りがハードすぎる。必然的にスタンダード・モデルに行き着いた。



これ、ターボついてるの?

が、今回、ゼンからSに名前が変わった5段MTのトゥインゴに乗り、軽い衝撃を受けた。「オレのより楽しい……」と。

まず、MTの操作感がやたらしっかりしている。一瞬「ホンダ製か!?」と思うほどカッチリ感がある。前からこうだったかどうか記憶はあいまいだが、個人的には微妙にブラッシュアップされたのだろうと考えることにした。

そしてエンジン。こっちは明らかにパワフルに感じる。以前のゼンはちょっと遅すぎたけれど、このSは、ターボついてるの? と思うくらい元気がいい。

よく見ると、最高出力は以前の71馬力から65馬力へ下っているが、最大トルクは91Nmから95Nmへと増強されている。排気量は999ccから997ccになり、ボア×ストロークも微妙にロング・ストローク化されている。つまり、エンジンが密かに新型になっているのだ!



対する我が0.9リッターターボは、今どき珍しい“直噴じゃないターボ”で、それなりのターボラグがある。低速域では、デュアルクラッチ自動MTのギクシャク感がそれに輪をかける。速度が乗れば何の問題もないが、ゴー・ストップの多い都内のドライブでは、5段MTのSは、我が愛車より明らかにストレスがなく、運転が楽しい。

なによりも、後輪駆動のコンパクトカーというだけで超絶レア。このステアリング・フィールの素直さは、後輪駆動ならではだ。加えてホンダ車なみにカッチリしたMTの操作という楽しみ。トゥインゴSこそ、“古き良き新しいクルマ”の代表ではないだろうか!



大変革時代の象徴的存在

続いては、2代目チンクエチェントだ。こちらもRRのコンパクトカーだけに、フォルムはトゥインゴにかなり似ているが、さすがにサイズは段違い。“凄まじく”という形容詞が付くほど小さい。

2代目チンクエチェントは、古いクルマが好きな人にとっては絶対的な存在だが、個人的には欲しいと思ったことはない。なぜなら、明らかに自分の手に余るからだ。

一度しか乗ったことはないが、あまりの遅さに「ヤバイ。死ぬかも」と思った。いきなり目黒通りを走ったのがいけなかったのだが、それはもう、死の恐怖を感じるほど、度を越して遅かった。つまり、“日常の危機と常に対峙しつつ走る極限のスポーツカー”と言ってもいい。



しかし本日乗るチンクエチェントは、なんとEVにコンバートされている。愛知県にある私設ミュージアム、チンクエチェント博物館が手掛けたクルマなのである。まさしく大変革時代の象徴的な存在だ。

同館は以前から、チンクエチェントという文化遺産を守るため、イタリアのスペシャリストによるチンクのファイン・リフレッシュ車両、名づけてフィアット500クラシケを輸入・販売していたが、極上のフルレストア仕様のチンクをEV化することで、まったく新しい価値を提供しようというのが、この500クラシケevだ。



空冷2気筒OHVエンジンが収まっていた車体のリア部には、イタリア・ニュートロン社製EVコンバージョン・キットが組み込まれている。リアのエンジン・フードを開き、さらにフタを開けると、そこにはモーターや電装用の鉛バッテリーが、美しくもかわいらしく並んでいた。

走行用のリチウムイオン・バッテリーは、床下――ではなくフロント・フード下だ。容量は10kWで実航続距離約80km。短いといえば短いが、なにせクラシック・カーだ。普通、そんなに長い距離は走らないし、物理的にこれ以上大きいバッテリーは積めないだろう。

モーターの最高出力は、ベース車両とほぼ同じ13.6馬力だが、トルクはなんと5倍以上ある。実際に走らせてみると、速い! 普通に走れる! なんの恐怖もなく、大型トラックが行き交う国道に突入できる! 普通に加速してくれることが、これほどありがたいとは。



それでいてこのクルマは、内燃機以外はオリジナルのまま。なんと4段MTまでそのままだ。EVなので変速の必要はなく、3速あるいは4速に入れっぱなしでいいのだが、オリジナルのギアやクラッチが生きていると、「本物だ!」と強く感じる。

オリジナル同様パワステはなく、フロントに積まれたバッテリーの重量により、ステアリングはかなり重たくなっているが、恐怖なく国道を走れるメリットにくらべたら些細なこと。ブレーキもオリジナルのままなので、減速時にはかなり先を読む必要があるが、そういったクラシック・カーの要素がしっかり残されていることで、このクルマの運転は相変わらず“スポーツ”である。

もちろん内外装もホンモノ中のホンモノ。セレクターやインジケータ類も、オリジナルの雰囲気に完全マッチさせるという芸の細かさに涙が出た。これ以上ステキな、古くて新しいクルマはないだろう。

今回の2台は、新しさと古さが交わることで、それぞれの個性がより際立っていた。生命の多様性があるからこそ、地球上の生態系は保たれている。今後も自動車の多様性が保たれることを願ってやまない。

文=清水草一 写真=阿部昌也 協力=チンクエチェント博物館 www.museo500.com



■ルノー・トゥインゴS
駆動方式 エンジン・リア横置き後輪駆動
全長×全幅×全高 3645×1650×1545mm
ホイールベース 2490mm
トレッド(前/後) 1455/1445mm
車両重量 950kg
エンジン形式 水冷直列3気筒DOHC
排気量、バッテリー容量 997cc
最高出力 65ps/5300rpm
最大トルク 95Nm/4000rpm
トランスミッション 5段MT
サスペンション(前) マクファーソンストラット/コイル
サスペンション(後) ドディオン/コイル
ブレーキ(前/後) ディスク/ドラム
タイヤ(前/後) 165/65R15/185/60R15
車両本体価格 189万円


■フィアット500ev
駆動方式 モーター・リア縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 2980×1320×1320mm
ホイールベース 1840mm
トレッド(前/後) 1211/1135mm
車両重量 750kg
エンジン形式 交流同期電動機
排気量、バッテリー容量 10kWh(リチウムイオン電池)
最高出力 13.6ps
最大トルク 160Nm
トランスミッション 4段MT
サスペンション(前) ウィッシュボーン/リーフ
サスペンション(後) セミトレーリングアーム/コイル
ブレーキ(前/後) ドラム/ドラム
タイヤ(前/後) 125/SR12/125/SR12
車両本体価格 660万円

(ENGINE2022年1月号)

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