2021.12.27

CARS

ルノーF1のハイブリッド技術を移植 ルノーの新しいSUVクーペ、アルカナの中身に迫る

もはや自動車の主流となったSUV(スポーツ・ユーティリティ・ヴィークル)。そのなかでも今注目度が高いのが、BMW・X6、X4やトヨタC-HRのようなクーペのような流麗なデザインを持つ「SUVクーペ」と呼ばれるモデルだ。そのSUVクーペ市場にルノーも満を持して参戦する。それが先日試乗記をお伝えしたルノー・アルカナだ。

一番の注目はクーペのように魅力的なスタイリングだが、実は、ルノーが独自に開発したハイブリッド・システムも忘れてはいけないトピックのひとつ。しかも、このハイブリッドにはF1の技術が盛り込まれているということで、そのあたりを開発に携わったエンジニアに森口将之氏がインタビューした。



F1のエンジニアが開発に貢献

2022年の早い時期に日本上陸が予定されているルノーのSUVクーペ、アルカナはルノーの電動化技術E-TECHの一環であるハイブリッド・システムが搭載されることも注目だ。しかもそこには、2014年からハイブリッドを投入していたF1のエンジニアも関わっている。

先にお届けした試乗と並行して、ルノー側ハイブリッド・エンジニアのパスカル・ルロワ(Pascal Le-Roy)さんと、F1のE-TECHエンジニアのオルリー・コロ(Aurelie Collot)さんに、オンラインでインタビューを行った。



日産e-POWERは欧州ではデメリットも多い

試乗記でも書いたが、E-TECHのなかでハイブリッドはディーゼルの代替という位置付けになる。ルノーは電気自動車の経験も豊富だが、コストを考えてこの方式を選んだという。ユーザーの立場を優先したルノーらしい判断だ。

一方、アライアンスという枠組みに目を向けると、日産がe-POWERを持っている。しかしルロワさんによれば、e-POWERは110km/h以上のスピードでは効率が落ち、欧州ではデメリットが多いという判断だったそうだ。



モーターと変速機が2つずつという複雑な機構

そこでルノーが選んだのが1エンジン2モーターで、エンジン側に4段、メインモーター側に2段のトランスミッションを持つという機構だ。言葉にするとかなり複雑に感じられる、このメカニズムを選んだ理由のひとつがF1だった。

ターボの有無やサブ・モーターの装着位置などの違いはあるものの、1エンジン2モーター、ドッグクラッチ方式などの共通点もあることから、F1テクノロジーの導入が決まったそうだ。

現行のF1レギュレーションでは、ガソリンの流量や使用量が決められている。つまり燃費が重要であり、それはCO2減少にも有効になる。F1は速く走らければいけないが、それ以外の部分は市販車も同じというのがコロさんの考えだ。

さらに現在のF1では、データを分析して狙いどおりの結果を出すかというデータマネジメントもまた大切であり、そのプロセスを市販車にフィードバックし、分析に基づく結果を出せるようにしたとも語っていた。これによりコストと時間の節約ができたそうで、E-TECH以外の開発にも貢献しているという。



ルーテシアやキャプチャーにも搭載

一方でルノー側には、このシステムをアルカナだけでなく、より小柄なルーテシアやキャプチャーに搭載するつもりもあった。そのなかでコストとサイズを重視した結果、このシステムに落ち着いたという理由もあったという。

1.6リッター自然吸気エンジンの選択はまさにその結果であり、他の欧州ブランドでよく見られる、既存のエンジン・ギアボックスにモーターを結合する方式はサイズ面から見送られた。モーターにも変速機を付けたのは、高速道路での効率向上もあるが、モーター自体を小型化するためもある。

ドッグクラッチ式トランスミッションはシンクロがないのでコンパクトであるうえに、伝達効率が高く、燃費の良さにつながることから採用した。そのまま使えば変速時にショックが出るが、そのたびにモーターを瞬間的に制御し、回転合わせを行うことで対処している。



15通りの変速パターンをフル活用

ドライブフィールについてはインプレッションで書いたとおりだが、技術目線で補足すると、5×3=15通りの変速モードの全部は使わないものの、多くを活用してひんぱんに変速しているとのこと。基本は50〜70km/hでモーターからエンジンにバトンタッチするが、スピードだけではなく燃費や音、バッテリー残量なども考慮して臨機応変に制御しているという。

F1のハイブリッド・システムにもドライブモードはいくつも存在するそうで、前述したようにそのノウハウをアルカナのハイブリッドにも応用した。たとえばコーナーの立ち上がりでは、ソフトウェアの判断でスロットルペダルの踏みはじめからモーターも回し、スピーディな加速をもたらすとともに燃費を良くしている。



F1は市販車の研究所

インタビューのなかでは、ルノーにとってのF1は研究所であるという表現もあった。かつてホンダが使っていたフレーズに似ているが、現在のハイブリッドF1においては、むしろルノーのほうが積極的に市販車の開発に活用しているようだ。

いずれにせよF1と市販車のつながりが、ルノーにおいては今も健在であることを知ることができたのは、個人的にもうれしかった。



文=森口将之

(ENGINE WEBオリジナル)

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