小田原市内にある歴史を感じさせる畳店の店先に並ぶフランス車たち。
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可愛い顔してフツーじゃないそんな環境が功を奏してか、次男の直樹さんも、本国にも存在しないのでは? と思うほど極上な85年型のルノー5アルピーヌ・ターボとの生活を楽しんでいる。「父は2CVにしか興味がないので僕はルノー派で(笑)。フランス車では5が1番だと思っていたので3年ほど前に手に入れました」そう話す直樹さんにとって、実はこの5が初めて所有するフランス車ではない。「実は15年ほど前、高校生の時に縁があって65年型の2CVを買ったんです。今思うと父の企みだったのでは? とも思いますが(笑)、20年以上不動状態だったのを父が直してくれて、免許を取った後しばらく乗っていました」高校生で2CVというだけでも驚きだが、話はそれだけでは終わらない。なんとその2CVの初代オーナーは俳優の樹木希林さんで、その後は石野さんに2CVの魅力を伝授した小田原のお肉屋さんが長らく所有していたクルマそのものだったからだ。しかも2013年には某テレビ番組で樹木さんと再会し、実際に運転もしてもらったそうだ。
「シフト捌きがめちゃくちゃ上手で。オーナー冥利に尽きました」しかしながら現在、樹木さんの2CVは自宅ガレージで冬眠中だ。その理由を直樹さんはこう話す。「こんな可愛い顔してるのに、5はフツーに乗れないんですよ(笑)。だから2CVまで手が回らない。前のオーナーがファンをつけたり対策をしてるけど、熱が凄くてすぐにパーコレーションを起こすんです。2CVと違って普通に山も登るし、遠くに行けると思ったけど、現実は甘くなかったですね……」幸いなことに、近年フランスに専門店ができて、外装パーツなども手に入るようになったものの、心配の種が尽きることはないという。「僕が壊したら責任は大きいですから怖くて回せないんです。スポーツカーなのにアクセル・ペダルを思いっきり踏めない。大好きなクルマを手に入れることができて幸せなんですけど、悩みは深いですね(笑)」
“使い込む”ことが魅力「私がいけないのは、すごく気にいると、壊れたり事故でなくならないかと不安で(笑)。しかも色々話が舞い込むので、ついクルマが増えてしまうことなんです」と石野さんは笑う。6年ほど前から石野家に棲みついている3台目の2CVも、そうした縁があってやってきたものだ。「54年型の2CVAという375ccの極初期のモデルです。新車の頃から日本でタクシーとして使われていたらしく、ウインカーやバンパーなど、日本で後付けされたと思われる装備が多く残っているんです」2CVAが佇む畳店の壁には、直樹さんが大学時代に描いたという2CVの油絵が飾られていた。そんなところにも石野さん親子の2CVに対する愛情の深さが感じられる。ではなぜ石野さん親子は2CVをはじめとするフランス車を愛し、乗り続けるのか? 最後にその理由を伺ってみることにした。「乗って面白くて、直して面白い。2CVに乗れていれば他に欲しいものはないって思っています。あまり親切な機能があるのは好きじゃない。むしろ不便を楽しむクルマなんですよ。よくフランス車は乗り潰してナンボ、使い倒すのが粋なんて言われますが、そういうのはちょっと寂しいなと。古くても部品を替えればずっと乗れる。移動の道具だけど、使い倒すじゃなくて、使い込む。長く使い込むことによって愛着とか物の良さがわかると思うんです」
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文=藤原よしお 写真=望月浩彦
(ENGINE2022年6月号)
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