2022.10.26

LIFESTYLE

内田光子、ブロムシュテット、タメスティ クラシック界の巨匠3人の新たなる挑戦

95歳を迎えたヘルベルト・ブロムシュテット。San Francisco Chronicle/Hearst Newspapers via Getty Images

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指揮者のヘルベルト・ブロムシュテット、ピアニストの内田光子、ヴィオラ奏者のアントワン・タメスティ。それぞれの分野で活躍する偉大な音楽家が、いままた新たな名演を世に送り出した。

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名門ドイツ・グラモフォンにデビュー

今年95歳を迎えたヘルベルト・ブロムシュテットは、完全な菜食主義者である。「牛はもともと草を食べて生きているのだから、人間が動物のからだを通してそれを食べるよりも、自分たちも草を食べればいいんだよ」と明言する。「スカンジナビアに住む人々にとって、自然とハーモニーを保って暮らしていくのはごく基本的なこと。私も指揮するときはあくまでも自然にこだわります」

ブロムシュテットはこれまでデッカを中心に録音を行ってきたが、名門ドイツ・グラモフォンにデビューすることになった。曲目はシューベルトの交響曲第8番《未完成》と交響曲第9番《ザ・グレイト》。長年数々の名演を生み出してきたライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団とのコンビである。

ブロムシュテットは聴き慣れた作品に新たな光を灯すように研究を重ねることで知られているが、今回は新シューベルト全集の版を用い、随所に新たな試みを展開。すべてをごく自然に味わい深く奏で、オーケストラの各楽器の音色を徹底的に磨き抜いている。真の巨匠とドイツ名門オケががっぷり四つに組んだ記憶に残る録音だ。



ベートーヴェン晩年の傑作を録音

モーツァルトやシューベルトの作品で国際的な地位を築いた内田光子は、最近ベートーヴェンを多く取り上げ、昨年の日本公演ではベートーヴェンの「ディアベッリ変奏曲」を演奏し、精神性の高い圧倒的な存在感を示す演奏を聴かせた。そのベートーヴェンの晩年の傑作として知られる作品をついに録音。ただし、演奏は堅苦しいものでもベートーヴェンを神のように崇めるものでもなく、ひたすら美しく人間味あふれる演奏に徹している。変奏曲の大家として知られるベートーヴェンの幾重にも変容していく変奏が、内田の上質かつ精緻な響きでたっぷり味わえる。



世界でもっとも偉大なヴィオラ奏者

アントワン・タメスティは、「世界でもっとも偉大なヴィオラ奏者」と称される。だが、素顔はとてもおだやかでゆったりとした語り口をもち、まるで彼のヴィオラの深々とした美しい低音を表すかのような雰囲気をたたえている。ところが、作品論に関しては口調が一気に熱くなり、雄弁になる。

テレマンはヴィオラをメインに据えた作品を書いた先駆者。ここでは協奏曲と独奏ヴィオラ作品が収録され、タメスティの香り高き歌心に満ちた美音が披露されている。使用楽器は1672年製ストラディヴァリウス。古雅な響きがソロで味わえる。彼は「アンサンブルをするのも大好きだ」と語るが、協奏曲では仲間と共演する悦びが嬉々とした音色から伝わる。

文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)

(ENGINE2022年11月号)

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