2023.04.09

LIFESTYLE

まるで日時計のような家!? 建物全体がねじれている! ゼネコンもサジを投げた厳しい日影規制をクリアするために建築家が考えた驚きのアイデアとは

小室舞さん設計による、日時計のような家の室内。

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あえてゴルフIIに

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それまで東京・世田谷区の住宅街で、ハウスメーカーの設計で建てた庭付き一戸建ての家で暮らしていたMさん一家。3人の子供たちの送迎もあり、クルマは不可欠。夫婦で2台のクルマを使う生活を続けており、奥様が大きいSUVを使うことが多いそうだ。SUVは家族が快適に移動するためのもので、キャンプに使う訳ではない。この家でも、2台分の駐車場を確保している。

現在の所有車はフォルクスワーゲン・ゴルフ(1991年製)と、ポルシェ・マカン(2021年製)の2台。ゴルフは第二世代の革の内装の特別モデルで、入念にレストアを施し、色も「フェラーリの赤」に塗装し直している。なんとも通好みのクルマ選びに思えるが、「けしてマニアではありません。旧車のほうが、新車よりも経済的」とMさんはクールだ。パーツの供給を考慮すると、ゴルフIと比較してIIの方が現実的で、現在のゴルフIIの前も、別のゴルフIIに乗っていた。

「このゴルフの方が年式は古く走行距離も出ていますが、断然程度が良く、運転を楽しんでいます」

一方のマカン。かつてポルシェ・カイエンを所有していたが、数年前に安全装備(特に自動停止装置)が充実しているメルセデスMLに乗り換えた。だが「ポルシェと比べると、走りがもの足りない」と奥様。昨年、安全装備を備えたお買い得なポルシェ・マカンに出会い、今に至っている。会計士という職業もあってか、コストパフォーマンスもしっかり考慮したうえでカーライフを楽しんでいるMさん。漫画『よろしくメカドック』の世代で、少なからず影響を受けたという。自邸の棚には、この漫画に登場するクルマや歴代所有車のミニカーが飾られていた。



東海岸風の室内


さて、家と言っても、4階建ての建物は小さなビルだ。建築家の小室さんは、独立前は海外の著名な建築事務所に勤務し、香港に誕生したアジア最大の美術館「M+」を任された経歴の持ち主。今回は、初めての住宅に意欲的に取り組んだ。

まず玄関は4階に設け、そこから大きなリビング・ダイニング・キッチンに通じる間取りにした。この部屋の天井も高く、キッチンの上にはロフトが。3階は、水回り、主寝室に子供部屋が3つ。子供部屋のロフト部は寝室になっている。4階と3階を繋ぐ内階段は広く、踊り場にちょっとした書斎スペースを設けた。

インテリアは、アメリカで暮らしていたMさんの「アメリカ東海岸風」という要望に応えたもの。むき出しのコンクリート打ちっ放しに、濃い色の木材と黒い金属を組み合わせ、テラスにはレンガを敷いて、東海岸らしいインダストリアルな雰囲気を演出している。
 
北側に天窓が設けられた明るい室内。正面の棚の一部は隠し扉で、奥の収納に繋がる。

高い天井を実現させるために採用されたのは太い梁だ。建物外部の手摺の下の金属が貼られた部分の裏に、梁は隠されている。この太い梁と梁の間の空間は、テラスの端では植物を植えるピットに、屋内では設備のスペースに充てる他、屋根裏や床下の収納、ロフトとして有効活用されている。


日影規制対応のために生まれた異形を強く意識するのは、3階の個室前スペースだろう。通常ならば細い直線の廊下が、三角形の空間となっている。ここに本棚を配し、子供たちの遊び場として積極利用しているのは名案だ。逆にそれ以外の場所で異形を意識することは殆ど無かった。向かい合う壁ができるだけ平行になるように配慮されているうえ、テラスに向けて大きな窓が設けられているからだろう。特に全面開放が可能な特注サッシがもたらす開放感は格別。また冬でも青々しているテラスの植栽が、目を楽しませてくれる。こうした工夫の積み重ねのお陰で、ビルの一室に居るというより、庭のある戸建て住宅を訪れたような穏やかさを感じたものだ。



微笑ましいのは、テラスに出て隣の建物の屋上で植物を育てているご近所さんとお喋りをしたり、近くのマンションに住む知り合いと目が合ったお子さんが手を振ったりと、この場所ならではのご近所付き合いをしていること。都心のビルの街のように見えるが、やはりここは住宅街。外から窺い知れない、豊かで人間的な暮らしがあるのだ。この話を聞き、なんとも幸せな気持ちになった。

文=ジョー スズキ 写真=田村浩章

■建築家:小室舞。1983年大阪生まれ。チューリッヒ工科大学への留学を経てヘルツォーク&ド・ムーロンのバーゼル、香港で勤務後独立。自身の事務所KOMPASを主宰する。アート関係の経験が豊富で、写真はギャラリーを備えた住宅「西治プロジェクト」。会場設計を行った大竹伸朗展は話題に。大阪万博にも展示施設の設計者として参加予定。


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(ENGINE2023年4月号)

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