911誕生60周年を記念して『エンジン』の過去のアーカイブから"蔵出し"記事を厳選してお送りするシリーズ。12回目の今回は、2009年9月のフランクフルト・ショウでデビューした新型ポルシェ911ターボの、ポルトガルの首都リスボンで開かれた国際試乗会の2010年1月号のリポートを取り上げる。かつてのグランプリ・サーキットも含む試乗コースで、新型ターボはどんな走りを見せたのか。
「直噴エンジン+PDKを得た新型ポルシェ911ターボにポルトガル、リスボンで乗る」ENGINE 2010年1月号
新型911ターボの国際試乗会はリスボン空港から始まった。薄暗い地下駐車場に並べられた白、黄、水色など鮮やかなボディ・カラーの新車たち。クーペだけではなく、すでにカブリオレも用意されていた。とはいえ、今回の新型は06年に登場した997型ターボの後期モデルに当たるもので、見た目はあまり変わっていない。ワイド・ボディにアルミニウム製のドアとフロント・リッドを組み合わせた基本デザインはまったく同じ。よくよく観察すれば、左右のエア・インテークにチタン・カラーのバーが付け加えられているが、それに気づく人が何人いるか。リアではテール・ランプがカレラ同様LEDを使った鋭角のものに変更され、テール・パイプが大型化されているものの、特徴的な2段階可動式のウイングなどは旧型そのままだ。
パワートレインを一新しかし、そうした見かけの変化のなさとは裏腹に、こと中身に関しては、パワートレインの一新といっていいほどの重大な変更を受けている。なによりも大きな違いは1974年の誕生以来、先代すなわち6代目まではアップデートされながらも基本は変わらずにいたフラット6エンジン(水冷になってもターボとGT3だけは空冷時代からのいわゆるGT1ブロックを使ってきた)が、7代目にしてついに完全新設計の新世代型へと生まれ変わったことだ。
新フラット6は、カレラSの直噴3.8リッターをベースにしたもので、それにターボのより高い負荷に対応するための強化が図られている。圧縮比は先代の9対1に対して9.8対1に高められているが、先代から導入された可変タービン・ジオメトリーを使ったふたつのターボチャージャーの過給圧は、旧型より0.2バール低い0.8バールに引き下げられた。
オイル潤滑方式は水冷になった996型以降のカレラやカレラSと同じインテグレーテッド・ドライサンプ。別体のオイル・タンクをはじめ、もろもろの部品点数が減り、これだけで旧型比約4 kgの軽量化。エンジン全体では約12 kg軽くなり、重心も下げられているという。その結果、旧型比プラス20 psの500psのパワーを得ながらも、最大16%も燃費を改善することに成功している。
一方、もうひとつの重大な変更点はトランスミッションで、ティプトロニックSに代わり、ツイン・クラッチのPDKがターボにも搭載された。これまでPDKの最大トルク許容量は440Nm(44.9kgm)と言われていたが、ふたつのクラッチの径を拡大するなど各部の強化を図ることで、通常でも650Nm(66.3kgm)、オーバーブースト時には700Nm(71.4kgm)にもなるターボの強大なトルクに耐えられるようにしたという。しかも、ティプトロより約10kgも軽くなった点も動力性能の向上に貢献しているはずだ。車両重量は旧型比6段MTモデルで15kg、7段PDKモデルで25kg減。0-100km/h加速はそれぞれ旧型より0.3秒速い3.6秒と3.4秒。最高速はいずれも2 km/h速い312 km/hとなっている。さらに、ターボへのPDK導入に伴い、新たにオプションではあるがシフト・パドルつきのステアリング・ホイールが導入されたのも見逃せない。左がダウン、右はアップのパドルはステアリング・ホイールと一緒に回るタイプだが、これまでの前後にスライドするスイッチより格段に使いやすく、今後、911をはじめとするほかのモデルに波及していくことは確実と思われる。
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