2023.06.10

LIFESTYLE

壁に開いた4mの巨大な丸穴! たった24坪の土地でなぜこんな大空間がつくれたのか? 街で愛され、たくさんの人が集まるピンクの家の秘密とは

アーチの下部には備え付けの木製ベンチが

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雑誌『エンジン』の大人気連載企画「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」。今回は、閑静な住宅街に建つピンク色の小さな家。中に足を踏み入れると、目に飛び込んできたのは、直径4mの開口部がある、巨大な壁だった……。デザイン・プロデューサーのジョースズキ氏がリポートする。

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地下から2階まで続く高さ9mの壁

建築家の羽場太郎さん(53歳)一家の自宅+事務所は、建築家の自邸ならではの個性が溢れたものだ。この家の特徴は、なんといってもピンクに着色されたコンクリートの屋内部の壁に、直径4mのアーチ状の開口があること。しかも壁は、地下から2階の天井に届く高さ9mというものである。アーチの下部に据え付けられた木製のベンチが吹き抜けの空間にせり出した光景は、幾何学的でどこか非現実的な印象を与える。さらに驚かされるのは、羽場邸が6m四方の小さな家であること。吹き抜け部分の奥行きは2mで、壁の向こうの居住部分は、4mの幅しかない。羽場さんはこの家で、共働きの奥さん浩子さんと11歳になるお嬢さんの来瑠子(ラルコ)ちゃんと3人で仲良く暮らしている。



それまでマンション住まいだった羽場さん夫婦が、家作りを始めたのは来瑠子ちゃんが生まれてから。住み慣れた吉祥寺で、80平方メートルのこの土地を見つけた。南と西が道路の角地のお陰で、建蔽率が周囲よりも10パーセント高いのもポイントだった。

コンクリートを着色

自邸設計の際、家族の意見を聞かない建築家は案外多いが、羽場さんは奥さんと密にコミュニケーションをとるタイプだ。若い頃に憧れたコンクリート打ちっ放しの家を希望したが、奥さんは「寒々しいうえ、月日がたつと汚れが目立つ」と。そこでコストはかかるが、顔料をコンクリートに混ぜて仕上げることにした。選んだのは落ち着いたピンクで、レンガのように街並みに溶け込む色。建築前に近隣に説明を行い、理解も得ている。以来7年が経つが、外壁の汚れはさほど気にならない。



敷地面積が限られるため、狭さを感じさせない工夫も重要だった。建蔽率を目一杯利用したうえで、大きな吹き抜けを採用し空間を稼いでいるのはその一例だ。もっとも当初案では「それでも閉塞感がある」と奥さんから指摘があった。その解決策として誕生したのが、大きな吹き抜けと生活の中心となる2階のダイニング・キッチンを、巨大なアーチで繋ぐプランである。

このアーチの効果は絶大だ。昼間は交通量の多い南の道路側にあえて窓を設けず、吹き抜け上部の天窓をメインの採光とした羽場邸。巨大なアーチを通して、ダイニング・キッチンにまでふんだんに光が入って来る。しかもダイニングに腰掛けていると、床の無い吹き抜け部分まで続く、大きな部屋に身を置いているように感じ、居心地が良い。ちなみに2階の広めのダイニング・キッチンの一角は、竣工時はソファ・スペースを想定していたが、現在は来瑠子ちゃんの勉強スペース。その他の間取りは、1階に水回りと収納とホール。地下が、寝室と事務所になっている。



容積率を目一杯に使ったため、1、2階を繋ぐ階段の折り返し部分と玄関の三和土(たたき)を屋外にしたのも羽場邸のユニークなところ。このスペースを、屋内に設けるだけの床面積が残っていなかったのだ。そのため1階から2階に行く場合は、階段を上がって一旦屋外の(床面積に算入されない)テラスに出て、テラスの別の扉から屋内に入る塩梅になっている。傍から見ると不便に思えるが、「以前住んでいたマンションも、同じように一旦屋外に出る必要のある間取りだったので、特別面倒とは思わない」とか。なるほど、羽場さん一家だからできたプランだ。

そして玄関扉の前にある屋外の黒いフレームが三和土である。この部分は通行専用なので、床面積に参入されないのだ。羽場家では、黒いフレームの上で靴を脱いだらそのまま放置せず屋内に持って入り、奥の下駄箱に収納するのがルール。一方来客は、屋外で靴を脱いだら黒い三和土に靴を並べることになる。もっともこの独特な作法も、個性的な内部空間に入ると素直に納得できるから不思議なものだ。



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