2023.07.13

CARS

「エンジン好きなのに初めて強烈に欲しいと思った!」 これがアバルト500eにイタリアで試乗した自動車評論家、嶋田智之の生の声だ!!

アバルト 500e

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ブランド初となるBEV、アバルト500eにイタリアのトリノ市街と、バロッコのテストコースで試乗! モータージャーナリストの嶋田智之がリポートする。

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アバルトの流儀はそのまま

ベースとなったフィアット500eがスポーツカーでもないのに楽しいクルマなのだから、アバルト版も間違いなく楽しいはず。その予想は正しかったが、走らせてみたら楽しさのレベルは予想を大きく超えていた。アバルトおそるべし、だ。

サソリのあしらい方は従来の595/695の手法と同じだが、色は黄色と青で統一。ファイナル・レシオの変更により、20km /hから40km /hまでと40km /hから60km /hまでの加速が695よりそれぞれ1秒ずつ速く、40km /hから60km /hに達するまではたった1.5秒。


アバルト500eはBEVではあるが、昔ながらのアバルトのストリートカー作りの流儀に則った開発がなされている。素材の持ち味を活かしながら各部にチューンナップを加えて速さを磨く、というやり方だ。

パワートレインはバッテリーやモーターをポンと交換するのではなく、モーターやインバーターのキャリブレーションの見直し、ハーネス内部の抵抗やロスの徹底的な削減、制御マッピングの最適化といった、効率を高めるための細かなチューニングを隙なく積み重ねることで、最高出力と最大トルクを30psと15Nmを上乗せした155psと235Nmまで引き上げている。



シャシーまわりの方も、スプリングのレートとダンパーの減衰を少し引き締める方向へと持っていった程度なのだとか。とはいえ、タイヤはブリヂストンと共同開発した専用品、ブレーキはリアのドラムをディスクに換えるなど、抜け目はない。

さらにはドライバーのエモーションをくすぐるためだけに6000時間もの手間暇を費やして、レコード・モンツァのサウンドを見事に奏でるサウンド・ジェネレーターを作り上げて実装するあたり、泣かせてくれる。BEVのメリットである静けさは人によって退屈にも感じられる、ことに対する“痒いところに手”なのだ。



バロッコのテストコースを走りはじめて最初に感じたのは、車内にも車外にも高らかに響き渡るそのサウンドが思いのほか効く、ということだった。トラックや峠道のような場所で活発に走りたいときには、ギミックだとわかっていても気分が上がる。のちに周辺の市街地を走ったときには村々の静けさに合わせて機能をオフにしたが、これはあるとないとでは大違いだ。


BEVの特性を最大限活かす

肝心の走りはどうか。御存知のとおりICEのクルマとBEVそれぞれの基本的な特性は、伸びのICEに対して瞬発力のBEVといっていいだろう。アバルト500eはその特性を最大限に活かしている。ファイナル・レシオをフィアット版の9.6から10.2へと変更するなど、得意とはいえない高速領域での伸びをある程度切り捨てて、より中間加速を重視した仕立てとしているのだ。



この中間加速の鋭さは、そのままコーナーからの立ち上がり加速の素早さに繋がる。だからコーナーからコーナーまでの点と点が、速い。しかも重心が低く前後の重量バランスがいいから、ハンドリングは正確でシャープで爽快、コーナリングも安定して速い。比較で試乗した695よりも、はっきりと。595/695の弾けるような過激さはやや息を潜め、クールで洗練された印象だが、要は表現方法が違うだけで、いつしかニヤリとしながら走ることに没頭してしまうあたり、BEVになってもアバルトはアバルトなのだ。

航続距離はWLTCモードで265kmとフィアット版同様あくまでもシティカーではあるが、その楽しさと気持ちよさは飛びっ切りだ。エンジン好きなのに初めて強烈に欲しいと感じたBEV、である。


文=嶋田智之

アバルト500eのラインナップはハッチバック(左奥)とルーフからリア・ガラス部分まで開くオープン(手前)の2種類。

(ENGINE2023年8月号)

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