ゲームの世界からスカウトされ、プロ・レーサーとして本物の表彰台に上がるようになったヤン・マーデンボロー。その波乱に満ちた半生を描いたのが映画『グランツーリスモ』。その最大の見どころは、とことん本物にこだわったリアルなレース・シーンだ。
前代未聞のドライバー養成プログラム
日産が家庭用ゲーム機器のプレイステーションと組んで、2008年から始めた「GTアカデミー」をご存知だろうか? これは累計9000万本を売り上げた大ヒット・ゲームシリーズ『グランツーリスモ』のトップ・プレーヤーたちを世界中から選抜し、その中から見込のある者を本物のプロ・レーサーとして育てあげる、前代未聞のドライバー養成プログラムである。バーチャルとリアルの架け橋となったこの画期的なプログラムは2016年に終了したものの、8年の間に、本物のレースで表彰台に上がった、幾人かのプロ・レーシング・ドライバーを輩出している。9月15日に公開された映画『グランツーリスモ』の主人公、ヤン・マーデンボローもその一人だ。
イギリスの小さな町でデパート店員として働きながら、ゲームに没頭する日々を送っていたティーンエイジャーのヤン。そんな彼のもとにある日、『グランツーリスモ』の地区予選大会に勝ち抜けば、「GT アカデミー」に参加できるという案内が届く。大会で優勝した彼は、世界中から集められたトップ・プレーヤーたちと、練習場となるサーキットで過酷なトレーニングを積むことに。見事、競争に勝ち抜き公式レース参戦への切符を手に入れるが、彼を待ち受けていたのは、肉体的にも精神的にも限界まで追い込まれる、異次元のモーター・スポーツの世界だった……。
ル・マン24時間レースをドキュメンタリー・タッチで描いたスティーブ・マックイーンの『栄光のル・マン』(1971年)やジェームス・ハントとニキ・ラウダを主人公にした『ラッシュ/プライドと友情』(2013年)など、カーレースを題材にした熱い秀作はいくつかあるが、本作における熱量もこれらの作品に決して引けを取るものではない。
最大の見どころは、やはり全編にわたってふんだんに登場するレース・シーンである。監督は人類とエイリアンの闘いを描いたデビュー作『第九地区』(2019)が、アカデミー賞にノミネートされたニール・ブロムカンプ。自身が日産GT-R(R35型)を3台所有するほどのクルマ好きとあって、劇中のレース・シーンも昨今流行りのCGIに頼らず、できる限り本物で見せることにこだわったという。
ロケに使われたのはドイツのニュルブルクリンク、スロバキアのスロバキア・リンク、オーストリアのレッドブル・リンクなどで、クライマックスを飾るル・マン24時間レースの撮影は、ハンガリーのハンガロリンクで行われた。また撮影にはニッサンGT-R Nismo GT3をはじめ、ランボルギーニ・ウラカンGT3、フェラーリ488GT EFO、ポルシェ911GT3R、マクラーレン720S GT3など65台ものレースカーが登場する。テレビのレース中継にも使用されるドローンを駆使しただけでなく、時にはクルマのフロントの低い位置にカメラを仕込んで撮影することで、競り合うクルマ同士のスピード感を捉えている。
結果、仕上がったのは、時速320キロメートルで疾走するレースのGが疑似体験できる映像。この臨場感ばかりは、ゲームの『グランツーリスモ』では決して体験できるものではないだろう。
もちろんヤン・マーデンボローの半生を映画化するにあたって、様々な脚色が施されてはいる。だがそんな映画的な盛り上がりも含めて、これこそ劇場の大スクリーンで味わってもらいたい、レース・ファン必見のエンタテインメント作品に仕上がっている。
■『グランツーリスモ』は全国の映画館で公開中 配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
(ENGINEWEBオリジナル)