2024.02.13

CARS

ジュリエッタ・ヴェローチェは、どんなアルファ・ロメオだったのか? 何度も走ってきた道が、もっと楽しくなる!【『エンジン』蔵出しシリーズ/アルファ・ロメオ篇】

アルファ・ロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェ(2017)

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中古車バイヤーズガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている「蔵出しシリーズ」。今回のアルファ・ロメオ篇は、登場から7年が経って熟成が進んだジュリエッタに試乗した2017年10月号のリポートを取り上げる。家族一緒に乗る度に、仏頂面を見せられるのはイヤだ。でも、独りで走りに行くときに思いっきり楽しみたい。そんな欲張りなファミリー・マンにぴったりなクルマのリポートです。

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ステアリングを握る掌が喜んでいる!

夏休みの真っ最中だというに、観光地から外れたここは人里離れた山のなか。すれ違うクルマも疎らで、忘れた頃にぽつりぽつりとやってくるだけだ。低速コーナーの連続の後にちょっと長めのストレッチ。アップ&ダウンが続いて、中速コーナーも試せる。そこを弾けるようなビートを効かせた4気筒サウンドを響かせて駆けぬけるアルファ・ロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェ。「いやぁ、イイなぁ」。何度も走ってきた道がいつになく楽しい。掌が喜んでいる。このステアリング系の剛性感の頼もしさときたらどうだ。ちょっと太めのステアリング・リムに軽く添えた両の手には、路面とのタイヤの間で刻々と変化する様がまざまざと伝わってくる。ステアリングのギア比はかなり速いはずなのに、その扱いに神経質になる必要が全然ない。ダイレクトな感触が心地いい。深く回り込むタイト・コーナーでも何度も持ち替えずに済む。送りハンドルを好む僕でもそうはせずに、両の腕がクロスする直前まで9時15分の位置でリムを握ったまま操作するのも悪くないなと感じるほどに、これはよくできたステアリングだ。

フロントにストラット、リアにマルチリンクのサスペンションは形式こそ変哲のないものだが、十二分に高い横剛性を確保しながら、構成部品の多くをアルミ化することでバネ下重量を減らし、しなやかに路面不整に追従する仕立てに大きく貢献している。前後バランスは麗しく、山道を駆け回るのが楽しい。右:前任モデルのクアドリフォリオと違って、ヴェローチェの前席は背中や腰を支える部分がアルカンターラになって滑りにくくなると同時に当たりも柔らかくなり、痩身軽量級の人間でも快適になった。


かつて有料観光道路だった時代とは違い、頻繁に路面が補修されることもなくなって、そこここにうねりもあれば、古くなったアスファルトの荒れも目立つ。スムーズ至極の路面とはいえない道だ。でも、ジュリエッタ・ヴェローチェの脚はしなやかに動き続けて、ボディに必要以上の動きを許さない。身体が感じるロールは浅く、そのロールはじわりと進行する。ロールをロールと意識させない。脚のスプリングがそんなに硬いわけではないのに、かといってスタビライザーが頑張りまくっている感じもないのに、上屋の動きは少ない。ジュリエッタに乗るといつも感じる、不思議なほどに静かな動き。麗しいコーナリング・マナー。外側前輪だけを沈めてダイヤゴナルな動きでコーナリング姿勢を作る多くの前輪駆動車と違って、ノーズを沈み込ませず、ほとんど水平に感じるほどに綺麗に車体を貫く軸を中心に、外側前後輪をともに軽く沈ませて、ジュリエッタはコーナーの連続を美しく駆け抜けていく。そのロールの中心がまるで自分の腰の辺りにあるかのような静かなロール。左右の切り返しのなかにあってもその軸は騒がしく動くことがない。前後サスペンションの横剛性も156や147の時代とは段違いに高く、225サイズのハイ・グリップ・タイヤを持て余すような素振りを微塵も見せない。易々と履きこなしている。そういう隙のない仕立てだから、当たりの柔らかいタイヤの、穏やかに訪れるグリップ限界だけを気にしていれば、胸のすくような走りが楽しめる。



もちろん、だからといって、このジュリエッタ・ヴェローチェがクラス最速だというつもりなど、さらさらない。速さでなら、ルノーのメガーヌRSやプジョーの308GTi270byプジョー・スポールのようなもっと上手がいる。でも、それらは走る場所を少なからず選ぶ。ツボに嵌れば、それこそ快哉を叫びたくなるような面白さを堪能させてくれるけれど、普段、穏便にファミリー・カーとして使うには、言い訳や我慢が要る。日本の路面状況はどこへいっても褒められたものではないから、ガツンと鋭い突き上げをくらったり、浅いうねりの連続でグイグイとノーズを上下に揺さぶられたり、というところに目を瞑らなければならない。しかし、ジュリエッタ・ヴェローチェは違うのである。目地段差の通過で鋭いショックに襲われることもないし、細かくうねっていても身体が不快に感じるような動きを出すことがない。


これなら家族も納得のはず

ジュリエッタ・ヴェローチェよりもっと穏便に日々の生活のなかに溶け込むクルマもこのクラスにはたくさんある。けれど、スポーツ・ドライビング好きには穏便に過ぎる。

対抗馬を探すとすれば、ゴルフGTIぐらいしか思いつかない。ゴルフGTIはクルマ全体から受ける印象がずっと新しいし、能力も高い。だからそっちを好むという人が多くても、全然不思議ではない。



デビューから7年以上が経って、さしものジュリエッタにも旧さを感じさせる部分がないわけではない。アルファ4Cがデビューした後に、それ用のユニットが転用されてジュリエッタにも載ることになったアルミ製シリンダー・ブロックを使う1750ユニットは、エンジン本体の軽量化という恩恵こそあったけれど、その特性や感触は、その何年も前からアルファ・ロメオで使われてきた鋳鉄製シリンダー・ブロックのユニットとそう変わらない。導入当初こそターボ・ラグの少なさが印象的だったが、進化著しいこの分野では、いまやとりたてて目を見張るほどではない。パワー・デリバリーのリニアリティという点でも、旧さを隠せない。絶対的なパワーにしても、わずか1.6リッターから270psを搾り出し、見事な反応の速さと切れ味を見せつける308GTi270を知った後では、輝きも薄らいでしまう。



それでも、このクルマは面白い。「こいつを速く走らせるには、俺がやってやらなければならないんだ」と思わすところがある、などといったらアルファ贔屓が過ぎるだろうか。トルク・カーブやパワー・デリバリーとスロットル開度の関係を頭に叩き込み、丁寧かつ繊細、時に大胆にアクセレレーターを扱ってやれば、十分に速く、そして楽しい。

脚はどんな場面でも同乗者に不快感を抱かせないものに踏みとどまっているから、スロットル・ワークにさえ習熟してしまえば、言い訳なしに家族に受け入れてもらえるはずだ。

それに、これはアルファ・ロメオである。「アルファだもの、これぐらいはしょうがないよね」と、家族も言ってくれるに違いない?

文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦

■アルファ・ロメオ・ジュリエッタ・ヴェローチェ
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4350×1800×1460mm
ホイールベース 2635mm
トレッド 前/後 1555/1555mm
車両重量〔車検証値〕 1440kg
エンジン形式 直列4気筒DOHC 16V直噴ターボ過給
総排気量 1742cc
ボア×ストローク 83.0×80.5mm
最高出力 240ps/5750rpm
最大トルク 34.7kgm/2000rpm(Dynamic時)
変速機 デュアルクラッチ式6段自動MT
サスペンション 前/後  ストラット式/マルチリンク式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 225/40R18
車両価格(税込) 424万4400円

(ENGINE2017年10月号)

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