2024.03.03

CARS

ルーフを開けても閉めてもスタイルは完璧に美しい! カリフォルニアから生まれ変わったポルトフィーノは、どんなフェラーリだったのか?【『エンジン』蔵出しシリーズ/フェラーリ篇】

カリフォルニアから生まれ変わったフェラーリ・ポルトフィーノに南イタリアで試乗(2018年5月号)

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開けても閉めても完璧に美しい

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昨年秋のフランクフルト・ショウで初めて見た時にも、まずはそのエクステリアが格段にカッコよくなったのに感心したのだが、南イタリアの青空の下で見るポルトフィーノはさらにホレボレするほど美しく輝いて見えた。硬く大きなルーフを無理やり収納しなければならないリトラクタブル・ハードトップを持つオープンカーは、デザインと機能の整合性を取るのが難しく、閉めた時か開けた時のどちらかは良くても、もう一方はいささか無理が感じられるケースがほとんどだ。ところが、このポルトフィーノときたらどうだろう。開けても閉めても完璧に美しく、しかも、それぞれの姿がまったく違ったテイストを感じさせるところが、何よりも素晴らしいと思った。かのデイトナを彷彿とさせる流麗なシルエットを持つファストバック・クーペと、エレガントな香りを発散させる2+2のカブリオレ。どちらが主でどちらが従というのではなく、時と場合、気分に応じて使い分けられる、どちらもが隙のないメインの姿になっているのだ。



そして、その美しいスタイルを得たボディは、構造にも大幅な改良が加えられている。最新の製造技術、とりわけ中空部品を作る砂型鋳造成型技術を投入し、部品の軽量化と点数の削減を図るなどして、カリフォルニアTに比べて80kgの軽量化を実現。同時に、ねじり剛性を35%向上させることにも成功したという。

一方、フロント・ミドに搭載される3.9リッターV8エンジンは、基本ブロックこそカリフォルニアTから受け継いでいるものの、ピストンとコンロッドに高耐性アルミ合金を採用して形状を変更し、燃焼室の圧力を最大化しているのをはじめ、Vバンクの外側に置かれたタービンに鋳造ワンピース・マニホールドを採用したり、排気系にもフェラーリ初の電子制御バイパス・バルブを投入するなど徹底的に手を加えて、40psの出力アップと、レスポンスやサウンドの向上を実現している。

さらにシャシーでは、前後サスペンションのスプリングを固める一方で(前+15・5%、後+19%)、磁性体を使った最新進化版のマグナライド・ダンピングシステムを最適化して、ダイナミック性能と乗り心地の両立を図っているという。

特筆すべきは、ルーフを閉じた時の姿がよりクーペらしい美しいプロポーションを持つものになったことだ。カリフォルニアT より16mm長く、28mmワイドなのに、4mm低くなっている。



もっとも運転し易いフェラーリ

試乗のスタート地点にズラリと並べられた色とりどりのポルトフィーノの中から、私に当てがわれた試乗車は新色のロッソ・ポルトフィーノと名づけられたメタリックの効いた赤の派手なボディ・カラーを持つ1台だった。しかも、内外装の要所要所にオプションのカーボン・パーツが奢られた豪華仕様である。内装はブラックのフル・レザーで、ボディ・カラーと同じ赤いステッチがふんだんに使われているのが、ちょうどいいアクセントになっている。

新設計のマグネシウムを構造体に使って軽量化とスリム化を図ったというシートに着くと、目の前にはGTC4ルッソに共通するデザインを持ったインパネが拡がっていた。針のついたメーターは中央のイエローに塗られた回転計のみで、目盛りは10000rpmまで刻まれ、7500rpmからがレッドだ。ステアリング・ホイール上にある赤いスタート・ボタンを押してエンジンに火を入れる。と、一瞬、派手な爆音を上げた後、スーッと少し静まっていく感じがした。アイドリング時にはバイパス・バルブを閉じて、周囲への配慮がされているのだ。コンフォート・モードではバルブは少しだけ開き、街中や高速道路を巡航するのに最適な音を作り出し、スポーツ・モードではバルブが開いて、低回転時から思う存分、気持ちのいい音を響かせる。そういうきめ細かい配慮はエブリデイ・フェラーリならではだ。



センターコンソールのスイッチを操作し、14秒でルーフを開けた後、軽めのアクセレレーターを踏んで発進する。ひとことで言うと、これは間違いなくもっとも運転し易いフェラーリだ、とすぐに思った。着座位置や周囲の眺め、そして何よりドライバーを襲ってくる緊張感が、他のスポーツ・モデルとはまるで違っている。もちろん、フェラーリを運転しているという意味での緊張感はあるのだが、触れなば斬らんとでも表現すればいいような切っ先鋭いエッジの上にいる感覚はない。肩の力を抜いて鼻唄まじりにだって運転できてしまう気安さがある。

中低速時から太いトルクを発生するエンジンも、まるでサルーンに乗っているように扱いやすいし、電動パワステの操舵フィールもよく躾けられている。乗り心地もスポーツカーとしては、かなりいい部類だと思った。路面さえ荒れていなければ、サルーン並に快適だ。風の巻き込みも普通の速度で走っている限りはほとんど感じられないし、ウィンド・ディフレクターを付けていれば、かなりの速度までこなせるだろう。海沿いの道をオープンにしたポルトフィーノで流すのは、この上なく優雅で気持ちのいい体験だった。

ところが、やがてスポーツ・モードにして山道を飛ばすような場面になってくると、断然クローズがいいことに気づいた。というのも、オープンとクローズでは、ずいぶんとボディの剛性感が異なっていて、クローズ時の方が格段に剛性が高いように感じられたのだ。クローズにしていれば、それこそスポーツ・モデルを運転している時のようなダイナミックな走りを満喫できる。この進化ぶりは凄い。エンジンをフロント・ミドに置き、トランスミッションをリア・アクスル上に置いて46対54というスポーツカーとして最適な前後重量配分を実現しているのに加えて、これまでより7%シャープになったステアリング・レシオや第3世代になったEディフも、この走りに大いに貢献しているに違いない。

ライバルはポルシェ911ターボ・カブリオレやメルセデスAMG SL63、あるいはベントレー・コンチネンタルGTCあたりだろうか。が、ポルトフィーノのように1台で完全にスタイルも乗り味も違うふたつを楽しめるものは見当たらない。

さて、あの黒いカリフォルニアの編集長は、ポルトフィーノをどう見ているだろうか。今度会ったら、ぜひ聞いてみたいと思う。

文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=フェラーリS.p.A

■フェラーリ・ポルトフィーノ
駆動方式 エンジン・フロント縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4586×1938×1318mm
ホイールベース 2670mm
乾燥重量 1545kg
エンジン形式 直噴V8DOHCツインターボ(バンク角90度)
排気量 3855cc
ボア×ストローク  86.5×82mm
最高出力 600ps/7500rpm
最大トルク  77.5kgm/3000-5250rpm
トランスミッション デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク(CCM)
タイヤ (前)245/35ZR20、(後)285/35ZR20
車両本体価格(税込み) 2530万円

(ENGINE2018年5月号)

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