2023.12.02

CARS

乗る前は「期待と不安」だらけのアバルト500e はたしてアバルト版のEVは乗ってみてどうだったのか?

アバルト初のEV、アバルト500e。

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専用チューンを施した高出力エンジンが魅力だったアバルトにも、いよいよ内燃機関の代わりに電気モーターを積む時がやってきた。電動化でアバルトはどう変わったのか、それとも変わらなかったのか。モータージャーナリストの森口将之がリポートする。

アバルトは電気になっても、あのアバルトだったのか?

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アバルトといえば、小さくて軽い車体を武器にした、弾けるような加速やハンドリングと、身分不相応といえるほどの爆音が持ち味。電気で走る500eは、どんな味付けをしてくるのだろうか。多くの読者が抱くであろう、期待と不安を僕も携えながら、試乗に臨むことになった。



ガソリン車のアバルトと同じように、ベースはフィアットの500e。前輪を駆動するモーターは118ps/220Nmから155ps/235Nmに強化された。重いという先入観がある電動車でありながら、写真のハッチバックで1360kgとウェイトを抑えてあるところもアバルトらしい。約300kgという航続距離は、キャラクターを考えれば十分だろう。

しかもモーターはスロットル・ペダルを踏んだ瞬間に力が出るので、打てば響くような力の出方はアバルトに合っていると感じた。ターボよりも自然吸気エンジンに近く、個人的には若き日の愛車だったアウトビアンキA112アバルトを思い出した。



ドライブ・モードは「ツーリズモ」、「スコーピオンストリート」、「スコーピオントラック」の3つ。ツーリズモはいわゆるエコ・モードで、スコーピオンストリートともども、アクセレレーター・オフで停止まで持っていけるワンペダル方式だ。

スコーピオントラックは名前から想像するとサーキット用っぽいけれどそうではなく、回生ブレーキがかからないモードになっている。個人的には加減速をリズミカルにこなせるスコーピオンストリートがお似合いだと思った。

弾けるエンジン音も堪能できる

では音は?基本は電気自動車なので静かだが、メーター内のセレクターで「外部音」を選ぶと、リアに仕込まれたスピーカーからガソリン車のアバルトを思わせる、弾けるようなサウンドが発せられる。キャビンのスピーカーではないので、トンネルでは反響音を楽しむこともできる。

トランスミッションがないので、変速のたびに音が変わったりはしないのだが、調律が優れているのだろう、80kg/hぐらいまでの領域では、十分に満足できるサウンドだった。エンジニアたちが6000時間以上をかけて専用開発したというこだわりはしっかり感じ取ることができた。

ワイドなフロント・バンパーやディフューザー内蔵リア・バンパーでアバルトであることは一目瞭然。


しかも停車中ならオフに切り替えもできるので、早朝や深夜、あるいは自然豊かな場所では、電気自動車ならではの静かな移動ができる。これはガソリン車にはできない芸当だ。

乗り心地はそんなに悪くない。車両の重さが良い方向に働いているし、フロント・ヘビィが過ぎない前後重量配分のおかげもあるだろう。ハンドリングもフロントが過度に重くなく、低い重心と適正に近い前後荷重を活かして、ストレスなく曲がっていく。バランスではエンジン車より上というのは、フィアットの500eと同じ感想だ。「アバルトとは何か?」をなによりも作り手が熟知しているうえに、マイナス思考ではなくプラス思考で電気自動車に取り組んでいることが伝わってきた。パフォーマンスのみならず、ヘリテイジまでしっかり電動化してきたところが素晴らしい。こういう発想ができるイタリアは、これからも自動車業界を楽しませてくれそうだと嬉しくなった。

文=森口将之 写真=ステランティス・ジャパン


(ENGINE 2024年1月号)

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