2023.12.11

CARS

【後篇】 こんなに面白い乗り比べはない! まったく新しい新時代の「駆けぬける歓び」に挑戦しているEVのi5、最新技術を入れて進化し続ける内燃エンジンの523i、悩ましい選択だ!

内燃エンジンモデルの523iは4気筒のマイルドハイブリッド。

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日本上陸ホヤホヤの新型BMW5シリーズ。ライバル、メルセデスEQシリーズとの最大の違いは内燃機関搭載モデルとフルEVが同じプラットフォームを使用することにある。果たして、その乗り味に違いはあるのか? 内燃エンジンの523iとi5の2台で箱根までひとっ走りして、大谷達也と島下泰久の二人のジャーナリストとエンジン編集長のムラカミで座談会を行った。今回は【前篇】に続いて【後篇】をお送りする。◆【前篇】から読む場合はこちら!

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ちょっと昔の味の523i

村上 さて、それで今日乗った2台についてですが、僕は昨日523iを借り出しに行って最初に乗りました。どんなに未来的な乗り味のクルマなんだろうと身構えていたのですが、乗ってみたら、むしろ、ひと昔前の5シリーズを思い出させるような素朴なというか、コンフォートなんだけれど、その中にしっかりとスポーティな味わいがある、とても清々しい乗り味のクルマだったんで、本当にビックリしたんです。ああ、これはいいなあと思って、次にi5 M60に乗ったら、これがまったく違う印象だった。ものすごく速いのはもちろんですが、アクセレレーターから足を離した時の回生ブレーキのかかり方とか、状況に応じて物凄く緻密にコントロールされている。それでいて不自然な感じはまったくない新感覚のクレバーなスポーツ・セダンに仕立てられているのに、またビックリした次第です。

523iの試乗車のボディ・カラーはタンザナイト・ブルー。


島下 実は国際試乗会で乗った時に改めて5シリーズってどんなクルマなんだっけな、と考え直したんです。快適性重視の7シリーズと軽快感あふれる3シリーズのあいだに位置するわけだけど、あいだというのはすごく広いので、そのうちのどこに位置するのかによって、いろいろな味つけのクルマをつくることが出来る。たとえば、同じi5でも、eDrive40とM60では味つけがまったく違っていた。40はコンフォート重視で、M60はパフォーマンス重視。でも、そうはいっても、今回乗った523iも含めて、どれも乗ってみるとキレイに良く走る。僕自身の好みで言えば、あいだの中でも3シリーズにもっと近いような、さらに反応が軽快なモデルが欲しくなってしまうんですが、考えてみれば全長5mを超えるクルマがあれだけ曲がるというのが凄いと思うんです。だから、これは高い安いではなく、自分の好みにあったモデルをしっかりと選ぶ必要のあるクルマだと思います。

インテリアには、シルバー・ストーンIIとアトラス・グレーのコンビネーョン・カラーのエクスクルーシブ・メリノ・レザー・パッケージが奢られていた。このパーケージを選ぶと運転席と助手席のアクティブ・ベンチレーションも付いてくる。そのほか、試乗車にはパノラマ・ガラス・サンルーフとサンプロテクション・ガラス、HiFiスピーカー・システムがセットのセレクト・パーケージも装着されていた。新型5シリーズのノーマル・モデルのステアリング・ホイールは上下がフラットな独特の形状となる。


村上 なるほど。それを踏まえて今回の2台をもっと詳しく見ていきましょうか。まずは523iから。

島下 さっき話に出たように、最近の5シリーズにはなかった軽やかさを持ったモデルだなと思いました。2世代前の5シリーズが、途中で6気筒を4気筒ターボに置き換えたことがあったじゃないですか。なんかあの時みたいな感じがした。

村上 523に乗って、最初は“えっ、4気筒なんだ”と思ったけれど、この軽やかで清々しい走りは4気筒ターボだからこそ実現できた味なんだろうね。パワーも必要十分だった。



大谷 4気筒と言ってもマイルドハイブリッドになっていて、電気モーターが実に巧みにいい仕事をしている。たとえば、燃費見ました?

村上 最後にガソリンを入れた後、航続可能距離を見てビックリした。なんと870km。あれだけ山道を走った後のデータでこの距離とは。

大谷 普通に走っていたら1000km走れちゃいますよ。ガソリン車で1000kmなんて、なかなかない。燃費計を見ていたら、普通に走っていたらリッター18kmくらいだった。このクラスで18kmは驚異的。



村上 そりゃもちろん電気自動車は凄いだろうけれど、最後の内燃機関車でBMWもやるべきことはすべてやってきて、これは後世に残る名車になるんじゃないかと思ったな。

大谷 ドライバビリティも素晴しくいい。中低速時のトルク感とかレスポンスもいいから、エントリー・モデルでなんの不満もない。これ、運転していると小さく感じますよね。BMWらしく、重量バランスがいいということなのだと思います。

島下 電気自動車をつくるために徹底的に軽量化した結果、内燃機関車もバランスのいいものになったわけですから、面白いですよね。

異次元の速さと安定感のM60

大谷 一方、i5について言うと、これは人を驚かすための電気自動車ではないな、というところにBMWの良心を感じましたね。ドンと踏んでもカクンとならない。物凄いパフォーマンスを持っているのに、人を驚かせたり怖がらせたりするような加速はわざとやっていない。こういうのは自動車メーカーがつくる電気自動車だなと好感が持てました。たとえば、テスラは電気自動車であることを強調するためにつくられたクルマなわけじゃないですか。でもBMWには、あくまでBMWの電気自動車をつくるんだという意図がハッキリ見えていて、それが彼らの言うパワー・オブ・チョイス、すなわち、ひとつのプラットフォームでいろいろなパワートレインを積めるものをつくる戦略に繋がってくる。EVだろうとハイブリッドだろうと、お客さんはBMWを買いにくる。だから、まずはBMWであるということが大前提。そういう姿勢が、今回のi5にも貫かれていると思います。



島下 それはその通りだと思いますが、それでも僕はやっぱり、EVでも内燃機関車とまったく同じ走りの世界を100%持たそうとしているかと言うと、そこは違うように思います。EVは重いし、とんでもないパワーも持っている。それで523と同じような走りをしようとしたら劣化コピーみたいになってしまう。だから、BMWが考える“駆けぬける歓び”の中にもいろいろなレベルがあって、必ずしも答えはひとつではない。600馬力、800Nmを持つクルマでは、そのクルマに合った“駆けヨロ”の世界を見せようとしているのではないかと、たとえば高速道路などを走ると思うのです。

i5M60xDriveの試乗車のボディ・カラーはMブルックリン・グレーで、インテリア・カラーはブラック。素材はMアルカンタラとヴェガンザ、すなわちヴィーガン・レザーを組み合わせたものとなっていた。ステアリング・ホイールは下がフラットで、頂点部分に赤いマーキングが施されたMスポーツ・タイプを標準装備。


村上 確かに、高速道路での走りっぷりは523の世界とは異次元だった。直進安定性の塊というか、まさに矢のように走る。しかも、加速が半端ではないし、速度を上げるほど安定感が増して乗り心地も良くなる。

島下 でしょ。ものすごく快適で、ある種の快感を覚えることができたのではないですか? だから、“駆けぬける歓び”にもいろいろなパラメーターがあって、曲げが強めだったり、スタビリティと安心感に振ってあったりする。でも、M60がスタビリティに振ってあると言っても、パドルを引いてブーストをかけたら、ドンッと仰け反るようになりますよ。ちゃんとそういう刺激を好む人の“駆けヨロ”も用意してあるんです。そこは巧みだと思いますね。



大谷 なるほどね。昔ながらの“駆けヨロ”の味を色濃く持ちながら、最新技術を入れたのが523i、パワートレインから完全に換えて、新時代の“駆けヨロ”を開拓しているのがi5 M60ということか。

村上 そのあいだにディーゼルやi5の40も入ってくるのだと思うけれど、私のような内燃機関の排気を嗅いで育ったペトロール・ヘッドの人間はやっぱり523iがいいよなと思ってしまう。正直に告白すると、僕は細かいドライブ・モードの設定など、タッチパネルの使い方がよく分からなかった。スポーツとかエフィシェントとか、大雑把な設定しか使っていない。でも、きっとデジタル・ネイティブの世代だったら、ごく自然に使いこなすんだろうね。

島下 デジタル世代の若者がi5に乗ったら、これこそ自分たちが求めるクルマだって思うかもしれない。アイコニック・サウンドも電子音なので、音はいろいろと選べます。お好み次第。BMWはこれまでの味とはちょっと違うけど、試しに乗ってみなよ、と誘っている気がします。

話す人=大谷達也+島下泰久+村上政(ENGINE編集長、まとめも) 写真=茂呂幸正


■BMW523i
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 5060×1900×1515
ホイールベース 2995mm
トレッド(前/後) 1635/1670mm
車両重量 1760kg
エンジン形式 直噴直列4気筒DOHCターボ
最高出力 190ps /5000rpm
最大トルク 310Nm/1500-4000rpm
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ (前後)245/45 R19
車両本体価格(税込み) 798万円

■i5 M60 xDrive
駆動方式 前後2モーター4輪駆動
全長×全幅×全高 5060×1900×1505mm
ホイールベース 2995mm
トレッド(前/後) 1620/1655 mm
車両重量 2360kg
エンジン形式 交流同期電動機
最高出力 601(前261+後340)ps
最大トルク 820(前365+後430)Nm
トランスミッション 1段固定式
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/エアスプリング
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ (前後) (前)245/40R20(後)275/35R20
車両本体価格(税込み) 1548万円


(ENGINE2024年1月号)

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